皆さま、お世話になっております。永井聖一です。早いものでこの連載も今回で4回目、最終回となりました。感傷に浸る間もなく、AVID Pro Toolsのシンプルな操作性に頼りきりの身としては、お伝えできる使用例はほぼ出し尽くしていて、内容が重複しないかヒヤヒヤしながらを本稿を書いています。そんなこんなで最終回、お付き合いください。
スピード勝負のときはPro Tools付属プラグインに限る
曲作りを始める際のきっかけは人それぞれですが、僕の場合は歌メロを考えるところから始めることがほとんどです。ひと昔前なら鼻歌とギターのコードをボイス・メモに入れていたのですが、忘れてしまう場合が多々あるので、冷めないうちに最低限のイメージをPro Tools内にストックしておくようにしました。Pro Toolsを開いたらすぐ付属シンセXpand!2のビブラフォンのプリセットを立ち上げて、メロディを打ち込みセーブしておきます。この手法はバージョン8購入時から続けていて、スピード感が必要なMIDI化やガイドの作成に便利。ビブラフォンを選ぶ理由は、“カラオケのガイドのような音色”だからです(笑)。
続いて、忘れないうちにコード感も補います。僕はギタリストなので9割がギターです。あとで音色を変えられるように、プラグインのみでエフェクトをかけます。このとき、取り急ぎライン感を隠すためにUNIVERSAL AUDIO Brigade Chorus、Pro Tools付属のPSA-1、EQ IIIを使います。この3種は何年もの間の相棒です。
大抵の場合は、あとからBPMとキーが変えられるようにギターをPolyphonicにして保存しておきますが、ベースのイメージも浮かんでいたので、シンセ・ベースを追加しました。ただベロシティがフラットだと膨張する音域があったので、EQ IIIで調整します。EQ IIIはプリセットが多彩なうえにジャンルを細かく絞ることができ、本当に優秀です。
ここまでで曲の核になるモチーフはほぼ完成しました。さらにその先へ進めそうなので、イメージを忘れないうちに(とても重要)、曲のキーが自分の声域に合うかを確認しました。マイクをUNIVERSAL AUDIO SC-1にしてからは、モデリング・プラグインでいろんなプリセットを試しながら仮歌を入れるのを楽しんでいます。そのうえでさらにレベルや艶が足りないときには、必ずPro Tools付属のDynamics IIIをインサートしプリセットの“Vocal Levelor”を選択します。
Dynamics IIIも各楽器に対応したプリセットがあるので、アコギの録音などでも直感的にバランスを整えるのにとても便利。長年使用しているだけあり、スピード勝負のときは、Pro Tools純正プラグインに限ります。それからさらにギター・リフも思い付いたので、同じ要領で仕上げていきます。クリーン系ギターの場合はEQ IIIで高域を持ち上げることにより、中域の渋滞から逸らすようにしています。ピーキーに感じたときは、Input/Outputも調整します。
エラスティック プロパティでものの10秒でキー・チェンジ可能
その後、コード感を補うインストゥルメントトラックと簡単なドラム・サンプルを足して曲の前半部分の構成が見えてきたところで、キーを半音下げたくなりました。そんなとき、オーディオトラックとインストゥルメントトラックが混在していても、まとめてピッチシフトできるエラスティック プロパティには本当にいつも助けられています。
まずオーディオトラックとインストゥルメントトラックをそれぞれまとめ、オーディオを“ティック/Polyphonic”に変換。該当クリップをまとめて選択してエラスティック プロパティを開き、ピッチの上下を指定するだけ。インストゥルメントトラックの場合も、同じく範囲を指定してからまとめてMIDIを動かすだけです。ものの10秒で曲全体のキー・チェンジが可能なので、迷ったときは必ずこの作業でイメージを決めるようにしています。BPMもしかり。ただし、ピッチシフトが±2semi、BPMもおよそ±2を超えると楽器によっては違和感が生じるので、全体に使用するのはあくまでデモの場合に限っています。逆に、ギター・ソロやリバース・エフェクトなどの飛び道具的な効果には積極的に使用でき、即戦力となる優れものです。
ここまでで、頼もしい機能の紹介を忘れていることに気付きました。DAW上でキーやアレンジをいじり回した結果、キーがギタリスト泣かせのフラット/シャープに落ち着くことが多々あり、採譜するだけで倍の時間を取られることがよくありましたが、楽譜エディタを使用することで、時間の短縮も正確さも、比べ物にならないほど向上しました。キーの設定さえすれば、複雑なアルペジオでも丁寧に書き出してくれます。
より見やすくするために“楽譜設定”で調整は必要ですが、こちらを使用するようになってからは、共作者には必ずMIDIデータを送る際に楽譜エディタで作ったPDFファイルを同封しています。
というわけで、初連載が専門的な分野で不安な日々でしたが、このような場を与えてくださったサンレコには心から感謝いたします。文章を書くことは嫌いではないので、古着屋探訪、レコード・ディグ、うさぎの飼育日誌など、機会があればよろしくお願いいたします。
永井聖一
【Profile】作曲家/ギタリスト。相対性理論のギタリストとしての活動のほか、さまざまなミュージシャンへの楽曲提供やプロデュース、ライブ・サポートも務める。2023年からTESTSET、QUBITのメンバーとしても活動中。
ライブ情報:<TESTSET>10/20(日)自主企画ワンマン・ライブ『TESTSET LIVE 2024』@Zepp Shinjuku
【Recent work】
『Good Bye Kamisama』
QUBIT
(BETTER DAYS / NIPPON COLUMBIA)
Avid Pro Tools
LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:15,290円(年間サブスク版)、30,580円(永続ライセンス版)|Pro Tools Studio:46,090円(年間サブスク版)、92,290円(永続ライセンス版)|Pro Tools Ultimate:92,290円(年間サブスク版)、231,000円(永続ライセンス版)
REQUIREMENTS
Mac:macOS Sonoma 14.4.5、最新版のmacOS Monterey 12.7.x または Ventura 13.6.x。M3、M2、M1あるいはINTEL Dual Core i5より速いCPU
Windows:Windows 10(22H2)、Windows 11(23H2)、64ビットのINTEL Coreプロセッサー(i3 2GHzより速いCPUを推奨)
共通:15GB以上の空きディスク容量
*上記はPro Tools 2024.6時点