2024年12月27日(金)12:00 ~ 2025年1月6日(月)11:00まで、サポートをお休みいたします。期間中のお問合せは、1月6日(月)以降、順次対応させていただきます。

Ableton Live 12の新機能〜MIDIユーティリティで音楽制作を革新する方法|解説:SEKITOVA

制作でポテンシャルを発揮するMIDIクリップビューの活用法|解説:SEKITOVA

 Ableton Live 12で拡張されたMIDIユーティリティは、より手軽に制作できる工夫がなされている一方で、その奥にさらなる秘めたポテンシャルを感じます。“やってもよいのかな?”って心配になることはよくあると思うのですが、そのブレーキを解放できれば、思わぬ良い結果が訪れるかもしれません。

弾きやすいスケールで弾いてから付属デバイスPitchで移調

 ビギナーの方からの質問で多いのが“キックって2つ重ねてもよいですか?”“バイオリンとシンセを同時に使用してもよいですか?”みたいな単純なアイディアの正否確認です。まだ全体像が把握しきれていないと一挙手一投足が心配になりますよね。基本的にはカッコ良かったらそれでいいよと思うのですが、中には理由があって推奨されていなかったり禁則になっていることも少なからずあるのがやっかいなところです。ですが、覚えていてほしいのは、創作の世界においてそのようなセオリーは唯一のゴールではなく、むしろ新しいアイディアを安全に飛び立たせるためのスタート地点なのだということです。音楽制作を楽しむ上で自分だけが持つ可能性が誰しも絶対にあって、その可能性の灯を絶やさず1曲にまとめるためのガイドとして、セオリーがあるのです。

 その点、Live 12で拡張されたMIDIクリップビューは、かゆい所に手が届く上に、勇気を持ってダイナミックに扱うことで想定外の大きなポテンシャルを発揮できるように感じます。使いこなすにはスケールモードを適切に設定する必要があり、スケールのルールを正確に理解するのは少し時間がかかりますが、“とりあえず実践したい!”というのであれば、Live付属デバイスのPitchを使ってカバーできたりもします。実際、僕はほとんどの旋律パートをMIDIキーボードで作る割にあまりピアノが弾けないので、とりあえず自分が弾きやすいスケールで弾いてから、それをPitchでトランスポーズして曲のキーに合わせることが多いです。ギターでいうカポタストのような使い方ですね。

白鍵だけ弾いてクオンタイズした後、付属デバイスのPitch(赤枠)でトランスポーズした様子。こうすることで弾きやすいキーで弾いて後から曲のキーに合わせることも可能だ

白鍵だけ弾いてクオンタイズした後、付属デバイスのPitch(赤枠)でトランスポーズした様子。こうすることで弾きやすいキーで弾いて後から曲のキーに合わせることも可能だ

 さて肝心のMIDIクリップビューですが、Pitch & Time(ピッチとタイミングのユーティリティ)では、任意のノートを選択してからAdd Intervalの左に表示される“音程の間隔”の値を上下させることで簡単にハモりを追加できます。明確な和音の響きが欲しい場合のみならず、ベロシティ弱めの薄いハーモニーを追加することで音に厚みがあるリッチなサウンドを作ることもでき、そういった作業が簡単にできるようになったのがうれしいです。演奏が苦手でMIDIの打ち込みに時間がかかってしまう人でも、トップノートさえ作成できればノートをまとめて選択して簡単にハモりや和音を作れますよ。スケールを設定していればそれに沿ったものを生成してくれます。

 その下にあるMIDIのタイムストレッチでは、例えば8分音符で連打したノートを選択してタイムストレッチ倍数を×1.5にすることで簡単に変わったリズムを生成できます。

MIDIユーティリティ内のPitch & Time(赤枠。日本語表記ではピッチとタイミングのユーティリティ)は音高や発音タイミングなどの調整を行う項目。左のグレーアウトしたノートを打ち、タイムストレッチ倍数を×1.5に設定すると、右の色が付いたノートのような変わったタイミングになる

MIDIユーティリティ内のPitch & Time(赤枠。日本語表記ではピッチとタイミングのユーティリティ)は音高や発音タイミングなどの調整を行う項目。左のグレーアウトしたノートを打ち、タイムストレッチ倍数を×1.5に設定すると、右の色が付いたノートのような変わったタイミングになる

 今まで少し手間をかける必要があった連符の打ち込みも簡易になったのは本当にありがたく、僕の制作において即戦力になってくれそうです。

グリッサンドやストラムなどの奏法を打ち込みで簡単に表現

 今後重宝しそうなのが、Transform(MIDI変形ツール)です。GlissandoやLFOなども選択でき、より手軽に変形ができるようになりました。単調になりがちなMIDI打ち込みのパートに有機的な躍動を加えられるほか、強力に適用することでテクノロジーのポテンシャルを解放した個性的な音作りも可能です。Spanでは細かく動かして音の表情を付けることが可能ですし、Strumはストロークで弾くようなリアルな挙動を与えるという面だけでなく、音の重なりを分散させることでミキシングやマスタリングで余計なリミッティングがかかることを回避して音の立体感を損なわないことにもつながります。これはPitch & Timeの中にあるHumanizeも同様ですね。

MIDIユーティリティ内のTransform(日本語表記ではMIDI変形ツール)。変形のモードは複数用意されていて、画面はストラム奏法のようなばらつきのあるストローク的な表現を可能にするStrumモードだ。音の重なりを分散させることで余計なリミッティングがかかることを回避する狙いもある

MIDIユーティリティ内のTransform(日本語表記ではMIDI変形ツール)。変形のモードは複数用意されていて、画面はストラム奏法のようなばらつきのあるストローク的な表現を可能にするStrumモードだ。音の重なりを分散させることで余計なリミッティングがかかることを回避する狙いもある

 Generate(MIDI生成ツール)のSeedでは、名前の通りフレーズの種を生成することが可能です。

MIDIユーティリティ内のGenerate(日本語表記ではMIDI生成ツール)では、設定条件に合うMIDIノートを自動生成してくれる。ここでピックアップしたSeedでは、ピッチや音価、ベロシティなどを指定した条件の中でランダムなフレーズを生成するモードだ

MIDIユーティリティ内のGenerate(日本語表記ではMIDI生成ツール)では、設定条件に合うMIDIノートを自動生成してくれる。ここでピックアップしたSeedでは、ピッチや音価、ベロシティなどを指定した条件の中でランダムなフレーズを生成するモードだ

 全体をループ再生させながらどんどんフレーズを生成することで、自分の手癖では思いつかなかったようなフレーズをリアルタイムに参照することができます。ビート向けのRhythmも同様に面白く、ここを適当にガシガシ触るだけでもどんどん音楽が生成されていくライブ感覚があるのがうれしいですね。

 MIDIユーティリティの新機能は今後も随時研究していきたいです。あ!めちゃくちゃな実験をしたいときは、音が暴発しないようにトラックの最後段やマスターにゲインの限界値を定めたリミッターを挿しておくことをおすすめしておきます!

 これは極論ですが、楽曲なんか作れなくてもMIDIユーティリティを延々と触るだけで楽しむ遊び方だって全然アリだと思います。でも、それで最高のループができようもんなら、結局“この興奮を一曲にまとめたい!”という欲求が絶対に出てくるはずですよ。だって音楽は最高ですからねッ!

 

SEKITOVA

【Profile】大阪出身、1995年元旦生まれのDJ/プロデューサー。2012年に17歳でリリースしたデビュー・アルバムをきっかけに、DJとしても数々のクラブやフェスティバルに出演。2017年頃よりAbleton Liveを使用し、CMやTVゲームへの楽曲提供のほか、花火やドローンを中心としたエンターテインメント・ショー『STAR ISLAND』での音楽制作など、活動は多岐にわたる。

【Recent work】

「topi (SEKITOVA DGD mix)」
tsumasaki
(finestylewest)
『TEC EP』に収録

 

 

 

Ableton Live

f:id:rittor_snrec:20211102142926j:plain

LINE UP
Live 12 Intro:11,800円|Live 12 Standard:52,800円|Live 12 Suite:84,800円

REQUIREMENTS
Mac:macOS 11以降、INTEL Core i5もしくはApple Silicon、Core Audio準拠のオーディオ・インターフェースを推奨
Windows:Windows 10(バージョン22H2)/11(バージョン22H2以降)、INTEL Core i5(第5世代)またはAMD Ryzen、ASIO互換オーディオ・ハードウェア(Link使用時に必要)
共通:3GB以上の空きディスク容量(8GB以上推奨、追加可能なサウンドコンテンツのインストールを行う場合は最大76GB)

製品情報

関連記事