音楽最高! DAW Avenueでは7年ほど前にも連載をさせていただきましたが、今年は普段から愛用するAbleton Liveを使った制作ノウハウを、3回にわたって共有していきます。まずは僕が日常的によく使っている付属デバイスの活用テクニックを紹介します。
Utilityのインサート位置で何のために行った処理か判断
かつては目につくものやひらめいたことのすべてを片っ端から試していくような、手数の多い制作スタイルだったのですが、ここ数年は日を追うごとに工程がシンプルになっています。きっと自分の中でデバイスやプラグインの役割が明確になってきたからかもしれません。そんな傾向の中で重宝するようになったのがUtilityとAuto Filter、Limiterです。
Utilityは見た目の通りとても簡潔なデバイス。
各トラックのミキサーコントロールのように音量とパンの調整ができるだけでなく、ステレオ・イメージャーがある点や、ゲインを−∞dBから+35dBまで柔軟に調整できる点が便利です。加えて、あらかたのゲイン・ステージ設定やオートメーションによる複雑なゲイン調整をUtilityで行っておけば、各トラック搭載のミキサーコントロールは最終段階での微調整用として使えます。
また、ミキサーコントロール上では単純に現状の数値が表示されるだけですが、各トラックにUtilityを複数インサートした場合、例えばデバイスビューの最初にあるものは“ゲイン・ステージのための調整だな”とか、EQの後段なら“イコライジング後に音量感を元に戻したんだな”などと、自分が何のためにその調整を行ったかが判断できるのもありがたい点です。制作が長期にわたると、自分が“なぜそのように処理をしたのか”忘れてしまうことも多くないですか? そしてそのまま漠然とボリュームを上げ下げするうちに、自分が今どのステップにいて何を目指しているのか、そのためにやるべきことも分からなくなってしまう……なんてことはきっと多くの方が経験されているでしょう。そうした悪夢に飲み込まれそうなときに、Utilityが過去の自分からのメッセージとして機能してくれるのです。
最近僕は、音量を0.5dB単位や1dB単位で調整することが増えました。まずは大まかにアタリをとっていって、輪郭を顕わにすることを心がけています。そのためには基準点を持つことが大事です。楽曲の中で一番ハッキリと聴かせたい音を基準とし、その音に対して大きくするのか小さくするのか判断を詰めていくことで、不要な迷いが減っていきます。特にダンス・ミュージックの場合、大抵はキックが前に張りついてくるので、それを基準にすると分かりやすいかもしれません。
不要な低域はAuto Filterでばっさりローカット
同じような考えから、EQも年々手数が減って、よりシンプルな処理になってきました。10代の頃はほぼすべてのターンで32バンドのEQを使って、マスタリング・エンジニアには“絶対にローカットはしないでください”と無茶なお願いをしていたことを考えると我ながら隔世の感を覚えます。キックとベースに関しては慎重ですが、それ以外の、必ずしも低域が必要とはいえない音に関しては、ばっさりとAuto Filterでローカットすることが多いです。
パッドの和音は特に暴れやすいので、ピンポイントで欲しい帯域までローカットします。そして、よっぽどきらびやかな要素が欲しいときやパッドに最高域を担わせたいとき以外は、ハイも少しカットすることで高域の騒がしさを軽減できます。ハイカットした分はほんのわずかにサチュレーターで戻すことで、より有機的な音にすることもできますよ! EQは上述のUtilityでのゲイン調整とセットで考えて最小限で済ませることも、迷いを少なくする大事なポイントです。
キックとベースのバランス。それらとスネア、ハイハットのバランス。前者と他パーカッションのバランス。ビートとメロディのバランス。そしてマスタリング。小さなグループから大きなグループに移るごとに調整の度合いはむしろ小さくなっていくことが理想です。
Limiterは一気に音圧を稼ぐためではなく、Utilityでゲインを少し上げた分、0dBを超えないための調整としてインサートします。
わずかに超えた分を抑えるためだけに使うので、音の粒立ちに影響を与えすぎないように最低限を意識。Limiterはわずかな角を都度取るニュアンスで使用するとうまく機能することが多いです。逆に1つのLimiterで一気にピークを抑えなければならないときは、前段のゲイン・ステージングに問題があることが多いので、立ち返って再確認します。
今回は3つのデバイスの活用を紹介しました。共通して大事なのは、現在行っている工程が、その前段の工程の結果を崩してしまわないように注意することです。今やっている作業がどのフェーズで、ほかの作業とどう役割分担できているか。機能を整理する意識を持つことと基準点を見失わないようにすることが大切です。幹の部分にそういった原則があれば、音楽はその先であなた自身が持つ無限のインスピレーションを肯定してくれます。絶対! だから音楽は最高なんです!
SEKITOVA
【Profile】大阪出身、1995年元旦生まれのDJ/プロデューサー。2012年に17歳でリリースしたデビュー・アルバムをきっかけに、DJとして数々のクラブやフェスティバルに出演。2017年頃よりAbleton Liveを使用し、自身のダンス・ミュージック作品、CMやTVゲームへの楽曲提供のほか、花火やドローンを中心としたエンタテインメント・ショー『STAR ISLAND』での音楽制作など、活動は多岐にわたる。
【Recent work】
「All day - SEKITOVA Remix」
THE RAMPAGE from EXILE TRIBE
(rhythm zone)
『THE RAMPAGE REMIX ALBUM -RMX16-』に収録
Ableton Live
LINE UP
Live 12 Intro:11,800円|Live 12 Standard:52,800円|Live 12 Suite:84,800円
REQUIREMENTS
Mac:macOS 11以降、INTEL Core i5もしくはApple Silicon、Core Audio準拠のオーディオ・インターフェースを推奨
Windows:Windows 10(バージョン22H2)/11(バージョン22H2以降)、INTEL Core i5(第5世代)またはAMD Ryzen、ASIO互換オーディオ・ハードウェア(Link使用時に必要)
共通:3GB以上の空きディスク容量(8GB以上推奨、追加可能なサウンドコンテンツのインストールを行う場合は最大76GB)