PRESONUS Studio Oneユーザーの皆さん、こんにちは。Yuichiro Kotaniです。10月にモジュラー・シンセを取り入れた初めてのライブ(中目黒solfa)を無事に終え、ほっと一息ついているところです。このライブでもStudio One(以下S1)は準備/本番共に大活躍してくれました。やっぱりS1のツヤのある音質とヌケ感は好きだなぁ。
PassiveEQで60Hz辺りを強化し
オーディオ編集でディケイを調整
先日、S1のバージョン5.1が発表されましたが、レトロスペクティブ・レコードなる機能が加わっています。これはインストゥルメント・トラック用の機能で、レコーディング・モードがオフの状態でも入力したMIDI情報が記録されるというもの。インスペクターからアクティブにでき、試し弾きなどをしているときに良いフレーズが出てきたらいつでも呼び出せます。
レトロスペクティブ・レコードのオーディオ版として“プリ録音”もお忘れなく。以前から備わっており、環境設定>詳細>オーディオでアクティブにできますが、ここ数カ月モジュラーにどハマりしている筆者としては、あらためてありがたい機能です。適当に演奏していて“あ、今の良かった、使いたい!”と思っても、モジュラーではノブを少しいじっただけで音が激変するため完全再現が難しいからです。
さて、前置きはこのくらいにして本題へ入りましょう。現在Saturn Returnというハウス・レーベルに頼まれリミックスを制作しているのですが、今回はそのキック処理をテーマに話を進めようと思います。まずROLANDのリズム・マシンTR-8SからTR-808系のキックを録音。ハードウェアの揺らぎを生かすために、ワンショットではなく8小節録って使いました。それにUNIVERSAL AUDIO UAD-2のLittle Labs VOGをかけて低音を強化し、CABLEGUYS ShaperBox 2でディケイを調整。SOUNDTOYS Decapitatorの倍音でキャラクター付けした後、UAD-2のAPI 560でEQして整えるといった流れです。が、これらのサード・パーティ製プラグインを持っていない方にも参考にしてもらえるように、S1付属のプラグインで再現してみようと思います。
まずはチャンネル・ストリップのFatChannel XTをインサート。PassiveEQをロードし、ほかのプロセッサーはオフにします。PassiveEQでは60Hzを選んで、BoostやAtten.といったゲイン・コントロールを調整し、低音を補強。またアタックを強調するために16kHzを選択し、Boost:4.15dB/Atten.:1.5dBという設定にしました。
この段階ではブーミーに感じるくらいに低音が持ち上がっていますが、一発一発の長さを適切に調整することでパワーを保ったまま低音を整理できます。その方法は、Passive EQをかけた状態でイベントを選択し、右クリック・メニューから新規トラックにバウンス。EQ適用後のイベントが作成されるので、右クリック・メニューから“ベンドマーカーで分割”を選ぶとワンショット単位に切り分けることができます。それらのイベントを全選択した状態で長さを調整したり、フェード・アウトを設定すれば最適なディケイに追い込めるわけです。
この作業は、スピーカーだとサブウーファーが無い限り低音の長さをはっきり聴き取るのがなかなか難しいので、自宅環境などではイヤホンかヘッドホンでのモニタリングをお勧めします。なお、前回“作業を直感的に素早くこなせるのがS1の強み”と書きましたが、右クリック・メニューからオーディオをトランジェントに沿って分割できるのは本当に便利で、大変お世話になっています。
RedlightDistで上品に色付け
VitageEQの“上げて戻す”使い方
次は倍音でのキャラクター付けです。S1付属プラグインの中でオーバー・ドライブ/ディストーションと言えばRedlightDistですね。見た目の派手さとデフォルトの設定が強めのひずみであることから、繊細なコントロールができないものと思い込んでいたのですが、じっくり触ってみるといろいろ追い込めることに気付きました。
特に、6種類のType(ひずみのアルゴリズム)がしっかり作り込まれているのとMix(原音とエフェクトのバランス)をパーセンテージで指定できるのがありがたいです。Typeを切り替えていくと、今回はSoft Tube、Transistor、OpAmpが使えそうでしたが、中でも感触が良かったOpAmpを選択。Drive(ひずみ)のパラメーターをデフォルトからやや上げて程良い感じにひずませつつ、Mixを69%に設定しました。原音を混ぜることで、えぐみの無い上品な色付けを狙ったのです。なおIn(入力レベル)がデフォルト2.00という値でひずみやすいため、作業開始時に0にしておいた方が音の反応が分かりやすいかもしれません。
最後にEQですが、筆者は普段からユーティリティ的なEQと音を格好良く仕上げるEQを区別して作業しています。前者はフィルターで不要な部分を切ったり、ローシェルビングで中低域の膨らみを抑えるなどの処理。周波数アナライザー付きのEQを使用し、S1付属のものだとPro EQ2が該当します。
後者についてはビンテージ・エミュレート系を使用。例えばNEVE 1073などの実機は各バンドの周波数ポイントを選択式にしていることが多いですが、機材ビルダーの考える“音として格好良いポイント”がその選択肢に現れていると筆者はとらえています。というわけで、プラグインでも選択した周波数ポイントに沿ってシェイプ。S1付属ではFatChannel XTの中にVintageEQというのがあるので、試してみましょう。
音作りの方法は、LMF(中低域)とHMF(中高域)のゲインをがっつり上げた状態で周波数ポイントを切り替え、格好良いと思えるところを探ります。決まったら、上げていたゲインを適性レベルに戻すといった感じで調整。その後、派手にしたりアタックを強調したい場合はHF(高域)を上げてもよし、低音が膨らんでいるようならLF(低域)を下げるという流れになります。ハマるポイントが無い場合は無理にEQするのではなく、そのままにしておくのが良いかと思います。
各工程を早足で見てきました。それぞれの役割を踏まえた上でジャンルや好みに合うエフェクト/設定を使えば、さまざまな場面に応用が利くと思います。今回は実践的な内容だったので、“こういうところにフォーカスして作業しているのだな”というエッセンスが伝わればうれしく思います。ではまた来月。
Yuichiro Kotani
【Profile】米ボストンのバークリー音楽大学で学んだ後、近年はアーティストとして、All Day I DreamやSag & Treといったヨーロッパの気鋭レーベルからディープ・ハウスをメインに作品をリリース。広告音楽の制作やメジャー・レーベルへの楽曲提供も行い、8月にはFriday Night Plans『Kiss of Life』(シャーデーのカバー)のアレンジを手掛けた。現在、イタリアのプロデューサーRoweeが主宰するSaturn Returnからのリリースを控えている。
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