2021年も、音楽制作ツールの世界では個性的な機材やソフトが数多く生み出されました。クリエイターやエンジニアたちは、その中から何を選び活用してきたのでしょう? 総勢30組に“本気で惚れたツール”を紹介していただきましたので、第7弾では牧野英司、細井智史、木村健太郎のツールを見ていきます。
牧野英司
【Profile】レコーディング/ミックス・エンジニア。新宿LOFTのPAとして音楽業界に飛び込み、マグネットやツー・ツー・ワンなどのスタジオに務めた後、フリーに。Coccoやアンジェラ・アキ、BUMP OF CHICKEN、スピッツ、MONGOL 800などの作品を手掛けてきた
Recent work
『なないろ』
BUMP OF CHICKEN
(トイズファクトリー)
KIIVE AUDIO Tape Face[Tape Simulator Plugin]
DMなどで発売を知り、テープ・シミュレーション系のプラグインには常日ごろ興味津々なので、試した後、気に入ったので即購入しました。従来のテープ・シミュレーション・プラグインはサチュレーションに特化しているように感じていましたが、このTape Faceはどちらかと言うとテープ・コンプにフォーカスしているように思います。“パツン”としたかかり方であるものの嫌味が無くナチュラルで、音が引き締まる印象。ロー感もだらしない感じでなく、タイトで素晴らしいです。
最近のミックスでは、ほとんどのトラックに挿しています。例えばドラムは、サウンドの好みでキックやスネアなどに単体でかけるとき、各パーツをまとめたものにかけるときの両方があり、イメージや聴き比べで選んでいます。“wow”や“aha”といったコーラスに対してもよくかけていて、単体トラックに挿すかグループに使うかはドラムと同じです。
細井智史
【Profile】KURID INTERNATIONALに所属するミックス/レコーディング・エンジニア。これまでにRIZE、MAN WITH A MISSION、The BONEZ、TOTALFAT、Nothing's Carved In Stone、AA=、RED ORCAなどの作品に携わる
Recent work
『story of Suite #19』
AA=
(ビクター)
ADAM AUDIO SP-5[Monitor Headphone]
ADAM AUDIOの密閉型ヘッドフォンSP-5は、かなり使いやすいくてめちゃくちゃ良いんです。マスタリング・エンジニアの森﨑雅人さんのスタジオで試聴してみたところ“何なんだこれは!”と思って、そのまますぐに購入しました。ミックスをしていく中である程度バランスを調整し終わった後に、最終チェックとして細部を詰めていく過程での処理がしやすくなりましたね。全帯域の解像度がとても高くてストイックな音像なので、シビアなモニタリングで針の穴をつつくように作業できます。ミュージシャンにというよりは、エンジニアの方にお薦めしたい製品ですね。
木村健太郎
【Profile】KIMKEN STUDIOを主宰するマスタリング・エンジニア。2020年4月よりスタジオを栃木県那須郡に移転。独自の審美眼で選び抜かれたツールで、メジャーからアンダーグラウンドまで、さまざまな作品を手掛ける
Recent work
『Humanity』
Koji Nakamura+食品まつりa.k.a foodman+沼澤尚
(Pヴァイン)
SIGNUM AUDIO Bute Limiter 2[Limiter Plugin]
リミッター・プラグインで、マスタリングに使用しています。□□□(クチロロ)の三浦康嗣さんに薦められて名前を知ったのがきっかけで、そのときはバージョン1でした。試してみたところクリーンな音で良かったけど、ゲイン・リダクションの量が増えると原音からアタックが無くなって寂しさがあり、試しただけで終わってしまいました。
しかし、あるときプラグインをいろいろ試していて“あのクリーンな印象、良かったな”と思い出し、また試してみたんです。そのときはバージョン2になっていました。前回よりじっくり使い方を探っていくと、ほかのリミッター・プラグインでゲインを上げてBute Limiter 2ではピークを取るだけ、みたいなアプローチだと好印象で。ピークは取れるもののアタックがそこまで変わらず残ってくれる感じがしましたし、ほかのリミッターとの組み合わせもしっくりきて、今では気に入って使っています。