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櫻木大悟(D.A.N.)は、Studio Oneをどう見るか?

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DAWを変えることに煩わしさを感じていたけど
この圧倒的な音質に“絶対S1で録る方が良い”と

エレクトロニクスやエンジニアリングの妙を取り入れ、唯一無二のディープな音像を提示するバンド=D.A.N.。そのフロントマンである櫻木大悟は、プライベート・スタジオにアナログ・シンセやリズム・マシンなどのハードウェアをそろえ、日々作品を生み出している。これまでAPPLE LogicをメインDAWとしてきた彼だが、今回Studio One(以下S1)の最新バージョンについて話すと関心を持ってくれたので、一定期間チェックしてもらった後にインタビューを行った。“ほかのDAWのユーザー”から見たS1の姿とは、どのようなものなのだろう?

 

演奏中に聴いているサウンドが
そのまま録音されるような感覚

ーまずはS1を試した第一印象から教えてください。

櫻木 録音のクオリティが驚異的……めちゃくちゃ音が良いんです。僕はリズム・マシンやモジュラー・シンセといったハードウェアをメインに使用しているので、今回もそれらの録音に試してみたのですが、普段使っている Logicなどとは段違いで。ハイエンドまでしっかりとキャプチャーされますし、クリアでシャープなサウンドですね。

 

ー楽器の音が変質せずに録音されるイメージですか?

櫻木 それ以上に“ハードウェアでジャムっているときの高揚感やテンション”までパッケージされる感覚です。Logicに録音すると、演奏中にモニターしている音とレコーディングした音に差が出てくると言うか、ちょっとスケール感が小さくなってしまうんですね。もしかすると、さっき話したハイエンドの部分にエネルギーのようなものが宿るのかもしれませんが、演奏のテンションがきちんと収められるのはハードウェア・ユーザーとしては非常にありがたいんですよ。

 

ーただ、昨今は録音後に何とでもできるという考え方がありますよね。

櫻木 DAWでの細かい処理もやるにはやるんですが、それを前提にしたくないんです。複数のハードウェアを同期させてミキサーに立ち上げ、一発録りで仕上げるのが理想で。なるべくポストプロダクションしなくて済むように録るのが好きなので、レコーディングのクオリティってすごく大事なんですよ。それに録音の質が低いと、幾ら高価な実機を使ってもソフト・シンセの方が良いとなる場合もありますし。

 

ーS1の録音クオリティの高さは、ハードウェアの価値や魅力を生かすことにもなるのですね。

櫻木 そうなんです。生かされるという意味で、これからはS1に録るのが良いと思っています。ガンガン使っていきたいですね。それと、録音に関する部分として、入出力の設定画面も見やすくて良いなと。特に、僕と同じく多チャンネルのミキサーやオーディオI/Oを使う人は、どのインプットに何がアサインされているのかを把握しやすいと思います。だから思い立ったらすぐに録れるし、スタジオ全体のセットアップや回線整理にも一役買いますよね。

 

オーディオ入出力の設定が分かりやすい

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画面はオーディオの入力設定。マトリクスの横軸がオーディオI/Oの入力端子を表し、縦軸で各入力をステレオで使用するかモノラルで扱うかを決められる。縦軸に楽器の名称などを付けておけば、何がどの入力に接続されているかを一目で把握可能

 

音質劣化を感じないタイム・ストレッチ
ターンテーブルのように滑らかなピッチ変化

ー録音のクオリティ以外に良いと思った部分は?

櫻木 ソフト・シンセを鳴らしたときの音。解像度が高く感じられるんです。同じソフト・シンセでも、ほかのDAWで鳴らしたときより中高域がクリアでシャープに聴こえ、アナログ・シンセと比較してみてもそん色が無いというか。S1付属の音源については、マルチインストゥルメントというカテゴリーに入っているものが印象的です。

 

ソフト・シンセの音も高解像度に!

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ソフト音源が高解像度に響くのもS1の魅力。画面は櫻木が試したマルチインストゥルメント・カテゴリーのプリセット、Big Band - Auto Harmonizeのルーティング画面。このプリセットはProfessional版のみに用意され、Multi Instrumentという付属のシェル系プラグインでPresence XTやMai Taiをまとめて1つの音源として使えるようにしたもの。劇伴やゲーム音楽にも活用できるであろう重厚な響きを呈している

 

ーPresence XTやMai Taiといった付属音源のパッチを1つのインストゥルメントとして扱えるようにしたプリセット群ですね。純正のプラグイン・エフェクトをドッキングしたプリセットも用意されています。

櫻木 映画のサウンドトラックやゲーム音楽の即戦力になりそうなクオリティで、職業作家の方にも良いのではないかと感じます。S1は、音質面や付属ツールを総合して考えると業務用DAWとしても活躍するでしょうね。これまで“どんな人が使っているんだろう?”と思っていたのですが、よく名前を聞くだけあってクオリティが高いです。

 

ー砂原良徳さんや松隈ケンタさんなど著名クリエイターの方々にもユーザーが多いんですよ。

櫻木 そうなんですか! 説得力がありますね。音に関してもう1つ話すと、タイム・ストレッチの性能の高さも驚きです。全くストレスが無いんですよ。試しに150BPMくらいでリズム・マシンのシーケンスを録音し、“テープ・リサンプラー”というモードでタイム・ストレッチをかけてみたところ、20BPMほど落としても全く問題無かったというか音の立体感が一切損なわれなかったんです。アナログ・ターンテーブルでレコードのピッチを落としたときのような変化で、およそデジタル処理とは思えないクオリティです。ピッチの変化が段階的ではなく、滑らかなんですね。半音の何分の一まで見える感覚というか。

 

ーサンプルの加工などにも積極的に使えそうですね。

櫻木 ヘビー・ユーズできると思います。僕はLogicのタイム・ストレッチをうまく使いこなせていないので、ストレッチさせたい素材をハードウェアのサンプラーに移してから処理することも多くて。その方が処理後の音質劣化も抑えられるし良いと思っていたのですが、テープ・リサンプラーがあれば一手間省けますよね。

 

タイム・ストレッチの性能が出色

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全グレードに実装されたタイム・ストレッチの新モード=テープ・リサンプラー。アナログ・テープやレコードの再生速度を変えたときのような変化が得られ、音質もナチュラル。リズム・マシンなどを録って大幅にストレッチすることで、素材に新たな表情を加えたりできるかもしれない

 

ーテープ・リサンプラーはバージョン5で追加された新しいモードですが、従来からの“Drums – Elastique Pro”などのモードはいかがでしたか?

櫻木 テープ・リサンプラーだとピッチが変化するので、音高を保ったままストレッチしたければ Drums – Elastique Proを使えばいいと思います。もちろん音質的にも問題ありませんし。そして、オーディオ関係の機能については“クリップ・ゲイン・エンベロープ”もすごく良いですね。

 

クリップ・ゲイン・エンベロープは
手早く直感的に設定できるのが魅力

ークリップ・ゲイン・エンベロープは、フェーダーではなくオーディオ自体のボリュームにオートメーション・カーブを描ける新機能です。

櫻木 イベントの右クリック・メニューでアクティブにすると即使えるようになりますし、フェーダー・オートメーションと全く同じ操作で、直感的に設定できるところが気に入っています。同様のオペレーションでも、DAWによっては設定するまでに何段階か踏まなければならなかったりすると思うので、このスピード感は魅力ですね。こういう細かい部分でのユーザビリティの高さには、気が利いているなと感じます。DAWソフトのスタンスとして、とても良いと思いますね。クリップ・ゲイン・エンベロープがあればボーカルの音量エディットがやりやすくなるでしょうし、コンプレッションについても考え方が変わってきそうです。

 

クリップ・ゲインを描くまでがとにかく速い!

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イベントの右クリック・メニューからクリップ・ゲイン・エンベロープをオンにすると、もうカーブを描ける状態に。操作方法はフェーダー・オートメーションと同様で、ベジェ曲線にも対応している。また、調整の結果が波形に反映されるという視認性の良さもフィール・グッド

 

ーフェーダーのボリューム・オートメーションはプラグイン・エフェクトの後段でかかりますが、クリップ・ゲイン・エンベロープは前段ですよね。

櫻木 そう。だから音量のバラつきを最初からコンプで抑えるのか、クリップ・ゲイン・エンベロープでならしてからコンプレッションするのかで全く別のアプローチになる。今までとは違うアイディアを引き出してくれそうな機能です。

 

ーコンプの話が出たところで、付属のプラグイン・エフェクトの話題に移りたいのですが、何か気に入ったものはありましたか?

櫻木 3バンド・コンプのTricompが印象的です。音はクリアで実直な雰囲気。色付けが感じられないところが良いなと。そういう音質が求められる場面もあるじゃないですか? ビンテージ機器をモデリングしたプラグインなどは、がっつり味付けする方向のものが多いから、それらと併用すればバランスが良いと思います。そして基本的なクオリティも高いですね。人気のサード・パーティ製プラグインと比べてみても、そん色が無い印象です。

 

付属プラグインは脚色なき音質

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Professional版とArtist版に付属する3バンド・コンプ、Tricomp。基本的には色付けを抑えた音質だが、バージョン5でサチュレーション・ノブ(画面右下)が追加され、アナログライクな“汚し”も可能に

 

ーTricompなどの付属エフェクトは、バージョン5で外観や機能がアップデートされていますが、ミキサーにも新たなポイントがあります。

櫻木 “シーンの保存と呼び出し”ですよね? フェーダーなどのチャンネルの設定や使用エフェクトのセッティングまで記録して、いつでもロードできるという。まるで実機のデジタル卓みたいですよね。これは絶対に便利だと思います。例えばEQの感じなど、音の聴こえ方って体調や気分によっても変化するので、微細な違いでも日々良いと思う設定を記録しておいて、最終的に聴き比べることもできる。保存や呼び出しの方法も簡単で、各シーンの行き来もワンタッチだから比較するにしてもスマートですよね。

 

シーン機能はミックスの比較に便利

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ミキサーのあらゆる設定を保存し、いつでも呼び出せるシーン機能はアップデートでProfessional版に追加された。画面左上に見えるセクションでは、シーンの追加(新規シーンの作成)や呼び出しなどが行える。作り手にとってミックスは微細な差でも気になるものなので、幾つか保存しておいて比較試聴したいときにも有用だ

 

ー従来は、ソング・ファイルを別名で保存してバージョン違いを作ったりと一手間かかっていましたが、シーン機能によって格段に効率が良くなったはずです。最後に、櫻木さんは今後S1とどのように接していくつもりですか

櫻木 やっぱり、まずは録音。優秀なレコーダーとして頼りにしたいと思います。これまで“DAWを変えるのって、なんだか面倒だな……”と二の足を踏んでいた部分があったのですが、この圧倒的な音質を体験したら“S1で録る方が絶対に良い”と腑に落ちました。操作性については慣れが必要な部分もあるし、あれだけ優れたタイム・ストレッチを実装しているなら、いっそオーディオ・トラックをサンプラー化してほしい!という希望もあったりしますが、日々の制作の中でなじんでいきたいと思いますね。

 

櫻木大悟

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<BIO>2014年に市川仁也(b)、川上輝(ds)とD.A.N.としての活動を開始。ジャパニーズ・ミニマル・メロウをクラブ・サウンドで追求し、人気を博す。最新リリースは食品まつり a.k.a foodman、モグワイ、エアヘッドによるリミックス配信シングル。今年10月にはツアーも予定

 

製品情報

www.mi7.co.jp

PRESONUS Studio One 5

Professional(38,909円前後)、Artist(9,637円前後)、Prime(無償)

※記載の価格はオープン・プライス:市場予想価格

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REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.13以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサー
Windows:Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3またはAMD A10プロセッサー以上
共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBハード・ドライブ空き容量、1,366×768pix解像度のディスプレイ(高DPI推奨)、タッチ操作にはマルチタッチに対応したディスプレイが必要、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)

 

特別企画「制作&ライブを革新するDAW〜 Studio One 5の深淵」

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