ライブにおいてキーボーディストが核に据える鍵盤楽器は、88鍵盤のステージ・ピアノ/キーボードが多く、それを軸に、オルガン専用機やシンセなど、複数台並べるスタイルがよく見受けられる。場合によってはステージ・ピアノ/キーボード1台のみで臨むこともあるが、最近のモデルは、どんなシチュエーションにおいても、十分対応し得る機能を備えたものになっている。今回は、そんな最新のステージ・ピアノ/キーボード4台を堀江博久と櫻打泰平がクロス・レビュー。各キーボードの弾き心地や音色、機能面について、実際に使用する場面を想定してコメントをしてもらったので、ぜひ導入の指針としていただきたい。
厳選されたピアノ・サウンドと直感的な操作性を実現した“CP”の最新鋭
リアルなサウンドから直感的な操作性までを追求したCPシリーズの最新機種。厳選されたグランド、アップライト、エレクトリックの各ピアノ・サウンドのほか、豪華なストリングスや分厚いシンセ・ベースなど、ライブに対応可能な音色を多数収録。鍵盤には、グランド・ピアノ本来の機構を再現したトリプル・センサー付き88鍵木製グレードハンマー3鍵盤を搭載し、より自然なタッチを実現。また、分かりやすいインターフェースが特徴的で、3つのボイス・セクションに搭載されたトーン・コントロールとエフェクトのほか、マスター・エフェクトも装備しており、感じるままに理想の音作りが可能となっている。ボイス・セクションが同等で73鍵盤のCP73もラインナップする。
オープン・プライス(市場予想価格:297,000円前後)
ピアノ・セクション
3種のコンサート・グランド・ピアノ(CFX、S700、BÖSENDORFER Model 290 Imperial)を含む7種のグランド・ピアノ、3種のアップライト・ピアノ、CP80サウンドなどから選べるピアノ・セクション。ダンパー・レゾナンス、コンプやディストーションなどのエフェクトで自由度の高い音作りも可能となっている。
エレクトリック・ピアノ・セクション
9種のエレクトリック・ピアノのほか、オルガン(トーンホイール/トランジスター/パイプ)、クラビ、DXピアノといった定番音色を選べるエレクトリック・ピアノ・セクション。こちらには、オートパンやトレモロ、フェイザー、フランジャーなど、ビンテージ・サウンドを再現できるエフェクトも搭載している。
サブ・セクション
サブ・セクションでは、パッドやストリングス、オルガンのほか、シンセ、ブラスなどを92種類内蔵。スプリットやレイヤーを駆使して、多種多様な音色を同時に演奏することができる。アタックやリリースの調整つまみも搭載しているので、演奏しながらリアルタイムで音作りする際にも役立つ。
エフェクト・セクション
3つの音色セクションすべてに設定できるエフェクトとして、ディレイとリバーブのエフェクトを内蔵している。ディレイはアナログとデジタルの2タイプから選択でき、さらに3バンドのマスターEQ(MIDは周波数変更可能)も搭載。高品位な音色にさらにニュアンスを付けるための自由度の高い音作りを可能にしている。
SPECIFICATIONS
■同時発音数:128音 ■サイズ:1,298(W)×141(H)×364(D)mm ■重量:18.6kg ■付属品:FC3A(フット・ペダル)、2P-3P変換器
今後のステージ・ピアノの可能性を感じさせる音作りの楽しさ 〜堀江博久
ヤマハのグランド・ピアノは、コンサート会場やレコーディング・スタジオなどでCFXやC7、C3などの実機を弾いたことがあります。CP88にはそれらの音色が入っているのですが、実際に弾いてみると、音色の明るさや弾いたときの響き方は、生のピアノを弾いたときの記憶とつながる印象がありました。そのほかにピアノ音色として、BÖSENDORFER Model 290 Imperialやアップライト・ピアノなど種類を厳選して収録されており、またRHODESやWURLITZER、クラビ音色などにも、一つ一つにこだわりを感じました。昨今のシティポップ・ブームにより、よく使われているヤマハ伝統のCPやDXの音もありますね。これらは押さえておきたい音色です。
そのほかにサブ・セクションでは、シンセやストリングス、パッドなどが用意されており、ピアノやエレピとレイヤーさせたときのなじみが良く、混ぜたときに風景が見える広がり方をするのはヤマハのサウンドの特徴だと思います。幅広いジャンルに対応した音作りが可能でしょう。
鍵盤タッチは、リズムを出すという意味でも音色との相性がとても重要で、僕も2000年代前半までは、こういったステージ・ピアノの音色に対する鍵盤タッチについて苦悩していたことがあったんです。音色に対して、鍵盤が軽すぎたり重すぎたり、ピアノやRHODES、WURLITZERの実機はそれぞれ独自のタッチなのに、ステージ・ピアノは同じ鍵盤タッチで演奏しなくてはいけない……。でも最近ではその苦悩は乗り越えて、どんな音色でも最適な演奏ができるようになったと自負しています。もちろん、ステージ・ピアノの音色や鍵盤の進化があってこそだと思いますが、その上でこのCP88を弾いてみて感じたのは、それぞれの実機の鍵盤タッチで出せるニュアンスに、しっかり近づいている印象がありますね。
操作性に関しても、とても分かりやすいのが本機の特徴だと思います。ピアノ、エレピ、サブ、エフェクトと各セクションにあるトグル・スイッチでオン/オフができて、楽器のカテゴリーから各音色を選んでいく。迷わずダイレクトに選択できるし、楽器セクションごとに対応したエフェクトも搭載されており、そこですぐに音作りができるのは魅力的です。エディットした音色やレイヤー、スプリットの設定は、ライブセットとして保存できるので、実際のライブ・ステージでは、セット・リスト順に並べて呼び出せば、あとは演奏に集中することができますね。
シンプルで分かりやすい操作性で、単独の音もとても良い印象ですが、レイヤーさせたときやエフェクトをかけたときも、さらに音作りを楽しめます。CP88からはそういったところにも今後のステージ・ピアノの可能性を感じました。
弾き心地の良い鍵盤タッチで高い演奏性を実現した1台 〜櫻打泰平
僕はこれまで“生楽器至上主義”と言ってきて、実機を使える場面ではできるだけ実機を選んできました。それこそ、Suchmosのライブではヤマハ CP80を使っていましたし、自宅スタジオには生ピアノやRHODES、シンセを設置していて、いつでも録音できる環境が整っています。なので、最近のステージ・ピアノにはあまりなじみがなかったのですが、CP88を弾いてみて思ったのは、鍵盤タッチが素直で弾きやすい! 子供のころからヤマハのピアノを弾いてきたのも影響しているかもしれません。
僕はヤマハのシンセMotifを使っていた時期があり、ピアノやRHODESの音色もよく弾いていたのですが、そのときから比べての進化をすごく感じました、当たり前ですけどね。特にRHODESの音色を入念にチェックしてみたのですが、実機をほうふつさせるサウンドで、デジタルくささもなく、透き通る感じの音像で、ローミッドの質感が圧倒的に良かったですね。プリセット音はRHODESのStage Pianoを想起させますが、エフェクトが音色選択のすぐ横にあるので操作もしやすく、トレモロやフェイザーなどかけていくとSuitcaseっぽい音像も作れました。細かいトーンの調整は専用のツマミがあるし、マスターEQも付いているので、あっという間にイメージした音色が作れるという印象です。こういうシンプルな操作で音作りできるのは、ライブ・ステージで使う際には非常に大事な要素なので、ありがたいですね。
ピアノ音色に関しては、ヤマハ製のグランド・ピアノのほかBÖSENDORFERも入っていますし、あとCP80の音色も収録されていて、それらのサウンドと鍵盤との相性はとても良かったです。それとアップライトのセクションにフェルト・ピアノの音色もあって、これも入っているんだ!と驚きました。僕も家のアップライト・ピアノでやっている手法です。
オルガンやシンセ、ストリングスなどはサブ・セクションにあるので、これ1台で十分ライブで使えると思います。各音色セクションのオン/オフでレイヤーもできるし、本当に分かりやすい。それと意外と便利だと思ったのが、ディスプレイ下にある“TUNE”のボタン。マスター・チューニングがすぐ設定できるのですが、こういうのも使う場面が多いので、“分かっているな”と思いました。
アコースティック編成や、ボーカルとの1対1の場面などにすごく合うサウンドだなとイメージできましたし、バンドの中で負けないような音作りもできる。何より分かりやすく操作しやすいのは、ライブ・ステージで使う際にとても重要なので、最初の1台としても最適な機種だと思いました。
Reviewer
堀江博久
鍵盤弾き。国内外問わずさまざまなアーティストとのセッションを行い、一方で、自身が曲を書き、歌うNEIL AND IRAIZAを1995年に結成。並行して、SINGER SONGER、pupa、the HIATUSなどのバンド活動も行ってきた。2013年自身のソロ活動としてアルバム『At Grand Gallery』を発表したほか、近年は、Cornelius、LOSALIOS、高橋幸宏、GREAT3、Curly Giraffeなどでプレイ。キーボーディストとしてだけでなく、プロデューサー、アレンジャーとしてアーティストからの絶大な支持を得ている。
櫻打泰平
1992年7月4日 富山県氷見市生まれ。Suchmosの鍵盤奏者。2013年から2018年までSANABAGUN.に在籍。クラシック音楽のみならずロック、ジャズ、R&B、ヒップホップなどの幅広い音楽に習熟している。現在、自身がリーダーを務め、2021年より活動を開始した鍵盤、トランペット、ウッド・ベースからなるドラムレス・バンド“賽(SAI)”に加え、劇伴音楽の作編曲(Disney+、NHK合同制作ドラマ「拾われた男」)のほか、STUTS、Rei、七尾旅人などのアーティスト・サポートなど、幅広い分野にて活動中。
動画でサウンドをチェック!
本企画は、YouTubeチャンネル「キーマガTV!」連動企画です。公開中の「キーマガTV! Vol.15」ではヤマハ YC88とCP88を使った堀江博久と櫻打泰平の演奏をお楽しみいただけます。
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