ここではSPECTRASONICSのソフトウェアを駆使し、楽曲制作を行っている12名のクリエイターのコメントを紹介する。彼らはSPECTRASONICSソフトウェアのどのようなポイントに魅力を感じているのだろうか?
Creators : 藤永龍太郎(Elements Garden) | 横山克 | 本間昭光 | 瀬川英史 | 神前暁(MONACA) | 鈴木光人(SQUARE ENIX) | 草間敬 | ヒャダイン | ナカシマヤスヒロ | DJ WATARAI | 近谷直之 | MANABOON
藤永龍太郎(Elements Garden)
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere / Keyscape / Trilian / Stylus RMX
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
膨大なサンプル・ライブラリーから目当てのサウンドを探すのに便利なSound Match機能ですね。選択したサウンドと似た系統の音色を検出して表示してくれるので、音色を選ぶ際には非常に役立っています。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
SPECTRASONICSのソフトの中でも、特にOmnisphereをよく使います。プリセットはいろいろなものを使うので、ピンポイントで“これ!”というのを選ぶのは難しいですね。強いて言うなら、オーガニックな音色のアルペジエイターを使うことが多いです。主張し過ぎずに雰囲気を出したいというときなどはサラッと使えるサウンドなので好んで使っています。音色作りのコツとしては、例えばOmnisphereには4つのレイヤーがありますが、そのレイヤーしている音を減らすことが挙げられますね。曲に合わせて必要なサウンドを見極めて、取捨選択することを心掛けています。
横山克
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere / Keyscape / Trilian / Stylus RMX
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
いずれもとっ付きやすさとサウンドの奥深さを併せ持っているのが魅力だと感じています。機能面では、特にOmnisphereに備わったアルペジエイターを使ってシーケンス・フレーズを作るのがかなり気に入っていますね。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
プリセットのサウンドが大変優秀ですね。それゆえ、とても多くの人に使われているので、個性を出したいのであればオリジナルの波形をインポートするのがお勧めです。曲のOmnisphereでは、アルペジエイターやグラニュラー、ユニゾンなどを駆使することで、太く、個性がある音を作ることができます。グラニュラー・シンセシス独特のキラキラとした音が出せるのも魅力です。また、プリセット・カテゴリーのWAVEFORMSには使いやすいサウンドがしっかり入っているので、頭の中でイメージした音を具現化しやすく、とても気に入っています。
本間昭光
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere / Keyscape / Trilian / Stylus RMX
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
まずシンプルに、すべてのソフトにおいて使える音が多いこと。そして、Omnisphereの膨大なプログラムから、系統の似たサウンドを探すことのできるSound Match機能は便利ですね。Keyscapeはサンプルのクオリティがミュージシャンにとって使いやすくて助かっています。また、Trilianがあればベースの音色はほぼ網羅できますし、Stylus RMXには過去の打楽器系ループ素材ソフトをすべて読み込んであるので、いつでも感覚的に音色が呼び出せるようになっています。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
劇伴系の作業のときはKeyscapeに収録されているLA Custom C7 - Cinematicをよく使います。これは、音色がフレーズを呼び起こしてくれる良い例ですね。OmnisphereにはJuiceと名前の付くプリセットが幾つも入っているのですが、その音色を好んで使っています。パッドはモジュレーション・ホイールで表情を付けながらアナログ感覚でコントロールしていますね。Trilianのベース音色に関しては、オケができ上がってきた段階で音色を再考しています。必ずその上モノに対してベスト・マッチな音色というのがあるので、それをセレクトするのも楽しみの一つです。ただ、時間はかかりますけどね(笑)。
瀬川英史
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
Omnisphereを選ぶ理由は、やはり自分にとって使い慣れたソフトだからです。中でもお気に入りの機能は、プロジェクトごとに自分が作成したプリセットにタグを付けることができるというものですね。タグを活用することで、プリセットが非常に管理しやすいというのもOmnisphereを使用している大きい理由の一つなんです。Omnisphereには一生かかっても試聴しきれないのではないかというほど膨大な量のプリセットが収録されているので、普段からブラウジングしている途中で気に入ったものにはタグを付けておきますね。そのときに使わなかったとしても、後からすぐ探せるようにしています。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
シンセの楽しさはやっぱり音作りにあると思っているので、ゼロからサウンドを作ることも珍しくありません。劇伴の制作ではOmnisphere上のさまざまなパラメーターを楽曲のテンポと同期させることが多いため、LFOは頻繁に使っていますね。ただ、すべてを同期させると単調なサウンドになってしまうので、フィルター・エンペロープのリリースをテンポと同期させていないLFOで微妙に揺らしたり、少し抑揚が付くようにプログラミングをしたりというような工夫をよくしています。
神前 暁(MONACA)
【Recent Work】
『神前 暁 20th Anniversary Selected Works "DAWN"』
神前暁
(アニプレックス)
Owned Software :
Omnisphere / Keyscape / Trilian / Stylus RMX
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
プリセットが膨大かつどれも完成度が高く、音色にインスパイアされて次々と曲が作れてしまうところが素晴らしいです。今でもしばしば聴いたことのない音に出会います(笑)。ベロシティに対する音色変化やADSRエンベロープのプログラミングが絶妙で、弾いていて気持ちが良いです。単なる音の百科事典ではなく、“楽器”としての魅力を感じます。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
KeyscapeのLA Custum C7 – Studioはピアノのファースト・チョイスになっています。芯があるのでオケの中でほかの音に埋もれないですし、CHARACTERセクションで素早く好みの音質にエディットできるのも便利です。Omnisphereはシンセ系のパッド、ベル、アルペジオなどでよく使いますね。収録されているプリセットはエフェクトやレイヤーを使ったクオリティの高い音作りがなされているので、楽曲制作における即戦力になります。ハードウェア・シンセをエミュレートしたソフト音源はほかにも多数所有していますが、それが決め手となってOmnisphereを選ぶ場面も多いです。Stylus RMXではブレイクビーツをよく使います。これは、アニソンの制作をするときに、定番の隠し味として重宝しているんです。
鈴木光人 (SQUARE ENIX)
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere / Stylus RMX
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
Stylus RMXは、Sound Menusでカテゴリーごとに単音のサンプルがアサインされているのが非常に使いやすいです。パラアウト設定のしやすさや階層の浅さを含め、すべての作業でインターフェースが合理的に設計されていて、一切ストレスを感じません。Omnisphere 2は使うたびに新しい音色に巡り合います。時代やニーズに合わせシンセの自由度を広げて進化する姿勢が好きです。同時に、Hardware Libraryなどビンテージ機材への深い愛情と音色を併せ持つのも魅力です。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
Stylus RMXでは、Sound Menus→Cymbals→All Cymbals Hi-FiのC4にアサインされたカップ・シンバルがお気に入りです。“一生に一度”のタイミングで使おうと思っていたのが、Retro Hitsカテゴリーのコード&フレーズ・サンプル。『FINAL FANTASY VII REMAKE』内の「蜜蜂の館」がその出番となりました。Omnisphere 2ではClassic Nylon Strings。曲調に合わせて弦をカットして使うことが多く、生ギターに差し替えようと思って作曲しても、フレーズと音色込みでいつも最後まで残ります。mojeraの「Mojera」や『MOBIUS FINAL FANTASY』の「Always There」で使用しました。
草間敬
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere / Keyscape / Trilian / Stylus RMX
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
やはりサウンドのクオリティの高さが挙げられます。SPECTRASONICSは、ハードウェア・サンプラー用のサンプリングCDを作っていたころから独特の良さがありますよね。ハリウッド的というか、誰もが認めるような抜けの良い質感が好きなんです。Omnisphereは、初期に比べてCPU負荷も下がり、気軽に使えるようになったのも愛用しているポイントですね。Omnisphereはシンセ・サウンド全般でよく活用しており、Trilianはプリプロで生ベースの代わりとして使うこともあります。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
Omnisphereの前身であるシンセ、Atmosphereのサウンドがすごく好きだったので、パッチ・ブラウザーのDirectoryを“AtmosphereLibrary”に設定して、Atmosphereのサウンドに絞ってプリセットを検索することも多いです。それから、ハードウェア・シンセのサウンドを収録したHardware Libraryが充実しているので、シンプルなシンセの音が欲しいときに活用しています。バージョン2.6ではさらに数百以上のサウンドが追加されました。音作りのアドバイスとしては、読み込んだプリセットのオシレーターがサンプルの場合に、それを違ったサンプルに切り替えること。サウンドがガラッと変わるので、いろいろ楽しめますよ。
ヒャダイン
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere / Keyscape / Trilian / Stylus RMX
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
SPECTRASONICS製品は、音のふくよかさが好きです。“立ち上げておけばどうにかなる”と思いながら毎回使っていますし、実際その通りですね。音からヒントをもらって楽曲制作をすることもありますが、Stylus RMXに内蔵されているパターンを並べたり、Omnisphereのパッドを鳴らしたりするだけで降りてくるものがあります。機能面では、ソフトを1つ立ち上げるだけでその中でMIDIが複数チャンネル扱える、マルチティンバーの音源になっているというところがお気に入りです!
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
Omnisphereに入っているClassic Roland Synth Brassは、レトロ感があって気に入っています。Music Boxも頻出のサウンドですね。あと、HUMAN VOICESカテゴリーの完成度が高く、クワイアをよく使います。Keyscapeはトイ・ピアノの種類がとても多くて助かりますね。Trilianはやはりウッド・ベースが使いやすいです。1つの楽器に対して音色が複数収録されていますが、僕は“Brite”の音色を選びがちです。音がシャキッとする感じがいいんですよね。あと、Stylus RMXに入っているクラップの単音がとても便利で、広がりがあるのでスネアとレイヤーさせて使うといい感じになるんです。
ナカシマヤスヒロ
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere / Keyscape / Trilian
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
主にOmnisphereについてですが、収録されている波形とプリセットのセンスの良さが挙げられます。プリセットの中身をのぞくだけでも音作りの参考になりますね。任意のパラメーターを固定したままプリセットを切り替えられるSound Lock機能によって、音色選びの幅がほぼ無限になっていると感じます。また、プリセットのランダム表示やレーティングなどの機能によってプリセット探しが楽に行えるのも魅力です。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
OmnisphereではTexture PlayableとBells and Vibesカテゴリーに入っているプリセットが気に入っています。Texture Playableのサウンドは目立ちすぎず、それでいて存在感があるパッド・サウンドばかり。文字通りパッド音色に質感を足したいときによく使います。Bells and Vibesには、いかにもなベル音色から、効果音的なものまで音色に幅があり、金属音が欲しいときはまず手を伸ばすカテゴリーです。好みのオシレーターが決まったら、パラメーターを固定できるSound Lockを使って音色を切り替えてバリエーションを試していきます。TrilianではAcoustic Uprightがお気に入りです。粒立ちが良く芯もあり、存在感が素晴らしい。弾いていて楽しいですね。
DJ WATARAI
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere / Keyscape / Trilian / Stylus RMX
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
とにかく音が良いのと豊富なプリセットがお気に入りです。SPECTRASONICSのソフトだけでほとんどの楽器が網羅できるのも良いですね。全体的に派手めな音色で、ダンス・ミュージックに向いているソフト・シンセだと思います。ポルタメントの設定なども簡単で、インターフェースもとても見やすく便利です。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
Omnisphereに関しては収録されているプリセットがとても豊富なので、そのときの気分によっていろいろ使っています。元からかかっているエフェクトが派手なときは、ほかのプラグインと組み合わせて使ったりもします。低域が強めのサウンドなので、EQで少し削ると使いやすいですね。Trilianはとにかく文句なしに最強のベース音源だと思います。特別な処理をしなくても、プリセットの音をそのまま使うだけですごく音がいいです。エレキベースや、MOOG、ROLAND Junoシリーズなどのクラシックなシンセ・ベースをよく使います。Keyscapeは、これがあればほかに鍵盤系のソフト音源はいらないくらい豊富な種類の鍵盤のサウンドが収録されていますね。クラシック・ピアノや、RHODES、WURLITZERなどのエレクトリック・ピアノのサウンドを制作ではよく使います。
近谷直之
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere / Keyscape / Trilian / Stylus RMX
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
単純な出音の良さというのはもちろんですが、Omnisphere、Keyscape、Trilian、Stylus RMXの4つのソフトでさまざまな音色やリズムなどを一元管理できるところがお気に入りのポイントです。特にStylus RMXは、プリセットのカテゴリーにあるUser Librariesを活用することで、たくさんのREXファイルをまとめて管理できるのが魅力。それに加えて、TIME DESIGNER機能を使うことで複数の異なるリズムのグルーブを同時に合わせることができるというのも良いですね。イメージしているサウンドに行き着くまでがスムーズです。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
Omnisphereに収録されているプリセットの一つ、Frozen Piano Dreamsをよく使います。歌モノでも映像音楽でも、物語性や情景を想起させるようなサウンド作りをすることが多いので、音数は少なくとも冷たい情景を訴えたい、というときに気の利いた音色ですね。サウンド作りのコツに関しては、例えばパッドでも、雰囲気が良ければ同じMIDIデータを使って音色を5つほどレイヤーさせる方法などを積極的に使っています。音色のアタックを調整することで、曲中でコードが変化するときにサウンドが濁らないように工夫しています。
MANABOON
【Recent Work】
Owned Software :
Omnisphere / Keyscape / Trilian / Stylus RMX
Q1:使用ソフトでお気に入りのポイントや機能は?
TrilianのSoft and Warmという、パッチ・ブラウザー内の“Type”に分けられているサウンド群があるのですが、そこにに収録されている音はどれも即戦力になり得るものばかりですね。なので、いつもそのカテゴリーの中から選んでしまいがちです。中にはEQ処理をしてちょうど良くなるというくらい太いサウンドも収録されています。制作の中で使いやすいサウンドにするために、EDITページ内のフィルターにあるカットオフを絞ったり、エンベロープを直感的に調整したりということもしています。
Q2:よく使うプリセットや音色作りにおけるコツは?
打ち込みのアコースティック・ピアノの音抜けを良くするためによく使うのが、KeyscapeのVintage Digital Keysカテゴリーに収録されている“JD-800 Crystal Rhodes”ですね。どのように使うかというと、“JD-800 Crystal Rhodes”にアコースティック・ピアノと同じMIDIデータを流用して、中域をEQで削り、-20dBほどの極めて小さい音量でレイヤーさせるんです。そうすることで、ピアノの音抜けが良くなります。エレクトリック・ピアノとアコースティック・ピアノを普通にレイヤーするだけでは中低域がぼんやりしてしまうので、あくまで隠し味的にほんの少しだけ足すというのがポイントです。
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