本特集では、ストリート、カフェ、DJ、学園祭の4つのシチュエーションでライブを行うために必要な機材や設置方法など、“セルフPA”のポイントを紹介。イントロダクションとなるこのページでは、“PA”とは何の略かをはじめ、PAに必要な基本的な機材を、尚美学園大学教授/PAエンジニアの山寺紀康氏が解説します。
PAとは
PAとは、Public Address(パブリック・アドレス)=“大衆伝達”の略です。マイクやスピーカーなどを使って音声を拡声して伝える行為を指し、コンサートや演劇のみならず、講演会や館内放送まで、さまざまな場面でPAシステムは導入されています。
大規模なホールやライブ・ハウス、フェス会場などではプロのPAチームがすべての音の調整を行いますが、個人で行うストリート・ライブや、飲食店内で行う小規模のカフェ・ライブでは、演奏者自身や飲食店スタッフなどが自らPAを行う必要が出てきます。そこでこの特集では、そういった“セルフPA”に向けた機材選びや設置、音出しのポイントを紹介していきます。
PAに必要な機材
いざ“セルフPA”を行おうと思っても、まずは何からそろえればいいかわからない……という初心者の方に向けて、まずはこれがあれば大丈夫、という機材を音声信号の流れに沿って紹介します。
マイク
マイクには、ダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクがありますが、ライブ演奏では大きい音の入力が可能で耐久性が高いダイナミック・マイクが使われることがほとんどです。スピーカーから出た音をマイクが拾って循環してしまう“ハウリング”に強いものを選ぶと扱いやすいでしょう。手持ち型のハンドヘルド・マイクや、耳にかけて固定するヘッドセット・マイクなどがあります。必要に応じて、マイク・スタンドやケーブルを用意しましょう。
楽器などの音源
電子ピアノやシンセサイザー、DJプレーヤーなど電子楽器を使用する場合、入出力端子を確認して必要なケーブルを用意しましょう。エレアコで弾き語りをする場合、出力先のミキサーにHi-Z入力が搭載されていれば、直接ギターを挿すことができます。非搭載の場合はダイレクト・ボックスが必要です。
スマートフォンやコンピューターなども電子楽器と同様に接続することが可能です。Bluetooth接続に対応したスピーカーであれば、ワイアレス接続が可能ですが、接続感度が安定した環境で使えるどうかは事前に確認しておきましょう。
ミキサー
マイクや楽器などの音声信号は、音量や音質の調節を行うミキサーに入力します。ミキサーには、入力された音声信号をアナログのまま処理するアナログ・ミキサーと、デジタル処理を行うことで多機能なデジタル・ミキサーがあり、デジタル・ミキサーには、Dante(ダンテ)という、音声信号を扱うネットワークに対応した機種もあります。ミキサー機能が内蔵されたスピーカーもあり、タブレット端末のアプリで遠隔操作が可能な機種もあります。また、DJミキサーには、レコード・プレーヤーの接続が可能なPHONO入力や、プレー中に使うエフェクトなどDJに特化した特徴があります。
アンプ/スピーカー
ミキサーで音声を調節したあとは、アンプを通して信号を増幅し、スピーカーで大音量に拡声します。パワード・スピーカーと呼ばれるアンプ内蔵のスピーカーを使えば、アンプを単体で用意する必要はありません。アンプ非搭載のパッシブ・スピーカーを使う場合には、別途パワー・アンプを用意しないと音は出せません。この記事内では、パワード・スピーカーを使ったシステムのみを取り上げます。
PAでは、観客に音を届けるソトオト(外音)用のスピーカーと、演奏者が聴くためのナカオト(中音)用のモニター・スピーカーを使います。
セルフPAを行うような中小規模でのライブ演奏の場合、設置場所や運搬方法の都合で複数のスピーカーを用意できないケースも多いと思います。その場合には、スピーカーを演奏者の後ろに置くことで、1台でソトオトとナカオトの役割を担うことが可能です。ミキサーとアンプとスピーカーが一体型になり、コンパクトに収納可能なオールインワン型のPAシステムなども検討するとよいでしょう。
DJイベントなどで低域をより強調して聴かせたい場合には、パワード・スピーカーと併せてサブウーファーも用意しましょう。
【特集】セルフPA入門〜機材選び/設置/音出しのポイントがわかる
講師:山寺紀康
PAエンジニア。40年のキャリアを持ち、現在も新谷祥子、磯貝サイモン、井上苑子、武藤彩未などのPAを担当。ライブ・ハウスからアリーナまで多様な現場をこなしてきた。現在は、尚美学園大学情報表現学科で教授を務めている。
取材協力:尚美学園大学 音楽と音響を愛する仲間たち