主にフレンチ・エレクトロをバックボーンに持ち、世界的に活動するダンス・ミュージック・クリエイター/DJのTeddyLoid。普段はラップトップを中心に音楽制作を行う彼が造ったスタジオは、シンプルかつ合理的。さらには、他ジャンルの音楽クリエイターたちとのセッションも見越したスペースだ。最近のプラグイン事情も併せて、詳しい話を聞いた。
ケーブル1本でつないだらすぐ曲が作れる
TeddyLoidのプライベート・スタジオ、DELTA Networks Studioは防音施工された建造物の一室にある。
「24時間、やりたいときに爆音で作業できる完全防音の物件を探して、3年ほど前に見つけました。防音性能としては108dBくらいまで大丈夫です」とTeddyLoid。一般的に電車のガード下が100dB前後と言われているので、相当な音量を出せる部屋と言えるだろう。内装は白と黒を基調とし、全く飾り気がないが、それにも理由があるという。
「シンプルかつ合理的なスタジオを作りたかったんです。僕はダンス・ミュージック中心に制作していますが、多ジャンルの方とコラボレーションする機会が多いので、ロックっぽいとか、ヒップホップっぽいといった一定のジャンル感に縛られたスタジオにはしたくなかったんですね。そういう色付けをできるだけ取り払って、どんな音楽にも対応できるスタジオ、どんな人とでもセッションできて、どんな音楽制作にも対応できる、そんな空間を目指しました」
そのスタジオ内で少し気になる点がある。それはモニター・スピーカーのGENELEC 8341Aに正対した際、右側の壁が鏡になっていることだ。この鏡の反射でモニタリングに支障はないのか尋ねてみたところ、「すごく反射します。そこで効いてくるのがGENELECのSAMシステムです」とのこと。SAMシステムとは、GENELECの自動キャリブレーション機能などを包含したモニタリング・システムの名称だ。
「SAMシステムを導入したところ鏡の反射がなくなり、定位もバシっと決まって、音がダイレクトに耳に入ってくるようになりました。 “そんなに効くの?”と思われるかもしれませんが、僕自身もめちゃくちゃ驚きの結果だったんです」
また8341A自体も自身にとって必須のスピーカーと語る。
「全帯域がパキっと気持ちよく出ますし、定位感も分かりやすく、何よりリッチな音がするので作業していてテンションが上がります。ライブのオープニングSEを作るときなどは、会場の鳴り感までチェックできるスピーカーです」
そのスピーカーの間に設置されたデスク周りは、部屋の印象と同じく非常にすっきりとしており、アウトボード類が一切見当たらない。これもTeddyLoidならではのこだわりだ。
「僕はずっとラップトップ1台ですべてを作るというスタイルをモットーとしてきました。ですから、機材も必要最小限のセットアップです。DJで世界中をツアーすることが多いので、ラップトップ1台でどこでも制作できるようにしているんです。自宅はこのスタジオと別の場所にあるのですが、そこにも似たようなセットアップがあって、ABLETON LiveをインストールしたAPPLE MacBook Proを持ち帰り、USBケーブルをUSBハブにつなげば、ほぼ同じ環境を再現できます。今はスマートフォンですぐに音楽を聴けますよね。だから、音楽を作るときもラップトップをケーブル1本でつないだら、すぐに曲が作れる、そんな感じにしたかったんです」
UADプラグインをボーカルのかけ録りに
曲作りからミックス、さらにはマスタリングまでをラップトップ1台でこなすTeddyLoidにとって、オーディオ・インターフェースのUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin Xは欠かせない存在のようだ。
「ApolloシリーズはApollo Twinが出た頃から使っているんですけど、やっぱりUADプラグインが魅力ですね。特に、UNIVERSAL AUDIO UAD Neve 1073 Preamp & EQ Collectionは、ボーカルのかけ録りで多用しています。もう手放せない愛用品ですね。歌が前に出てきて、輪郭もはっきりするんです。IZOTOPE Ozone 10もお気に入りです。マスターだけでなく、各パートにインサートして楽器ごとのプリセットを微調整して使うこともあります。いじりがいがあって楽しいですね。特に面白いのはStereo Imager。低域と高域で広げ方を分けられるので、低域はセンターに寄せて高域はサイドに広げたりとか、いろいろ使えます」
最近よく使う音源に関して尋ねると、「NATIVE INSTRUMENTSのベース音源Session BassistシリーズのPrime Bassとギター音源Session GuitaristシリーズのElectric Mintですね」と答えてくれた。
「フレンチ・タッチやフレンチ・ハウスでけっこう使える音源なんです。1音押さえるだけでフレーズを鳴らしてくれるので、そこからインスピレーションを受けることもあります」
さらに「REFX Nexus 4も大好きでリード系やパッド系などさまざまなパートで使いますし、XFER RECORDS Serumは必須品で使わない日はありません」とのこと。
最後に今後の活動について教えていただこう。
「最近はプロデュースものが続いたので、そろそろオリジナル作品を作りたいなと思っています。久しぶりに自分の直球みたいな部分を表現したいなと思っているんです」
コロナ禍が一段落して、海外での公演も増えてきたというTeddyLoid。オリジナルの新作はワールドワイドな活動を凝縮した内容になるに違いない。ぜひ期待して待つとしよう。
Equipment
DAW System
Computer:APPLE MacBook Pro
DAW:ABLETON Live
Audio I/O:UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin X
Controller:NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol A61
Recording & Monitoring
Monitor Speaker:GENELEC 8341A
Headphone:SONY MDR-7506
Earphone:SHURE SE846
Microphone:NEUMANN U 87 AI、AUDIO-TECHNICA AT4040
Others:CLASSIC PRO MX-EZ4(キュー・ボックスとして使っている小型ミキサー)
Outboard & Effects
Plugin Effects:A.O.M DeSibilizer、Invisible Limiter、TranQuilizr、IZOTOPE Nectar 3 Plus、Ozone 10、SOUNDTHEORY Gullfoss、SOUNDTOYS Decapitator、Little AlterBoy、UNIVERSAL AUDIO UAD Neve 1073 Preamp & EQ Collection、1176LN Classic Limiting Amplifier、他
Instruments
DJ Tool:PIONEER DJ XDJ-RX2
Software Instruments:NATIVE INSTRUMENTS Kontakt、REFX Nexus 4、XFER RECORDS Serum、他
TeddyLoid
m-flo、中田ヤスタカ、ゆず、香取慎吾、HIKAKIN & SEIKIN、柴咲コウ、Ado、KOHH、DAOKO、アイナ・ジ・エンド(BiSH)など、さまざまなアーティストとのコラボレーションやプロデュースを展開。DJとしては2017~18年にワールド・ツアーを敢行し、国内外から注目を集めている。
Recent Work
『デスペレート feat. LOLUET』
TeddyLoid & Giga
(ソニー)
次に欲しい機材は…?
最近デスクを新しいものに変えたんですが、アウトボード用のラックが付いているんです。今は何もなくてさみしいので、ここに格納するための新しいオーディオ・インターフェース……UNIVERSAL AUDIO Apollo X8P Heritage Editionが欲しいですね。バンドルされるUADプラグインも魅力ですが、マイクやCDJなどを挿しっぱなしにできるため、録りたいときにサッと録れるのが便利だろうなと思います!