アメリカのレコーディング現場から着想を得たクリエイティビティを高める開放感あるスペース
国内外のアーティストの楽曲制作に携わり、ワールドワイドな活動を見せる音楽プロデューサーRyosuke "Dr.R" Sakai。彼の制作思想が現れたプライベート・スタジオの全容をお伝えしよう。
Text:Yusuke Imai Photo:Takashi Yashima
防音ブースは扉を開けたまま生声を聴きながら歌録りをするのが大切
Sakaiのプライベート・スタジオ、STUDIO726 TOKYOが作られたのは10年ほど前。アメリカで見たスタジオに影響されたという。
「このスタジオを作る前に1カ月ほどアメリカに行っていて、スターリング・サウンドなど、いろいろなスタジオを見学させてもらったんです。それから日本に戻ってきたら、すべてが小さく見えてしまって。当時はいわゆる制作部屋といったような狭い場所で作業をしていたんですが、“こんな小さなところで作っていたらダメだ”と感じ、帰国してから2カ月後くらいにはスタジオを完成させました」
スタジオは幾つもの照明で照らされ、ラグジュアリーな雰囲気を携えている。窓も大きく開放的な空間になっており、スタジオにありがちな閉塞感は全く無い。
「スタジオらしいスタジオにはしたくありませんでした。外の景色が見えて陽も入るような、空気が良くて開放感があるスペースにしたかったんです。“呼吸しているスタジオ”といったイメージですね」
そういった考えに至ったのも、アメリカで見たスタジオの影響が大きかったという。
「海外のスタジオだと、ソファに座りながら歌ったり、遊びの延長のようにリラックスした中で録ることも多いですよね。スタジオというとどうしてもかしこまったイメージがありますが、そういったことにとらわれずに良い音楽が作り出せる場所にすることが大切なのだとアメリカで感じました」
スタジオ内には仕切られた空間は存在しない。折り畳み式の防音ブースVERY-Qはあるが、扉部分は開けた状態で設置されている。
「トークバックを介するのではなく、アーティストとすぐに意思疎通ができるのが良いんです。また、閉じ切ってしまうとデッド過ぎるので、開けることでちょうど良い響きになるという理由もあります。歌を録るときは片耳にイアフォンをしてモニターを聴きつつ、もう一方の耳ではボーカルの生声を聴くんです。マイクプリでゲインを上げた音を聴いているより、こうやって生声を聴いて判断するのが大事ですね。ちゃんとしたマイクとマイクプリを使ってさえいれば、録り音は大丈夫ですから」
歌録りのマイクにはMANLEY Reference CardioidまたはBRAUNER VM1を使うことが多いという。
「Reference Cardioidは歯擦音が程良く残って、かつ痛くない。EQ無しでも今の音楽の音像に合うんです。VM1はハイファイでコシもあるマイク。どっしりした歌を録りたいときに使います。マイクプリはNEVEの古い卓から抜き出したN-TOSCH HA-V1JRです。どちらのマイクとも相性が良く、密度感のある音で録れます」
音の入口と出口をしっかりと構築してその間の機材は簡素化した
DAWはAVID Pro Toolsをメインに、ABLETON Liveも使うようだ。オーディオ・インターフェースはAVID Pro Tools|HD Omniで、Pro Tools使用時以外で音を出す際はUNIVERSAL AUDIO Apollo Twinを使うという。
「海外に行くときは身軽にすることが大事なので、バス・パワーで動くUNIVERSAL AUDIO Arrowと小さいMIDIキーボード、APPLE MacBook Proを持っていきますね。MacBook ProとスタジオのiMac Proには同じプラグインを入れ、出先とスタジオでシームレスに作業ができるようにしています」
そのシームレスな作業を目指すため、Sakaiのスタジオにはアウトボードがほとんど用意されていない。「いろいろと買っていた時期もありましたが、音の入口であるマイクやマイクプリ、音の出口であるモニター環境はしっかりと構築しておき、その間の機材はどんどん簡素化しています」とSakaiは語る。モニター・スピーカーは10インチの低域ドライバーを2基搭載するADAM AUDIO S5Hを採用。さらにサブウーファーのSub10もスタンバイしており、高出力で広いレンジをモニターできるようになっている。
「ADAM AUDIOのスピーカーはずっと使ってきました。ARTツィーターのおかげで高域が立体的に見えて、低域もしっかり聴こえます。ADAM AUDIO以外では、YAMAHA HS5とECLIPSE TD510MK2もモニターで使っています。違う方向性のスピーカーで比較試聴して、音を追い込んでいくんです。良い音のジャッジができる環境作りは大切。今後もアップデートは進めていきたいですね」
アメリカで得た知見を元に、良い音楽を生み出す場所として作られたSakaiのスタジオ。クリエイティビティを加速させるため空間作りは、まだまだ続いていきそうだ。
Equipment
DAW System
Computer:APPLE iMac Pro、MacBook Pro
DAW:AVID Pro Tools|HDX、ABLETON Live
Audio I/O:AVID HD I/O、HD Omni、UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin、Arrow
Outboard & Effects
Mic Preamp:N-TOSCH HA-V1JR
Channel Strip:FOCUSRITE The Liquid Channel
Recording & Monitoring
Monitor Speaker:ADAM AUDIO S5H、Sub10、YAMAHA HS5、ECLIPSE TD510MK2、GENELEC 8010A、TDK Boombox
Monitor Controller:CRANE SONG Avocet
Microphone:MANLEY Reference Cardioid、BRAUNER VM1、SHURE SM57
Instruments
Synthesizer:ROLAND XP-30、Fantom-XR、SEQUENTIAL Prophet Rev2、TEENAGE ENGINEERING OP-1、YAMAHA Motif-Rack ES
Keyboard:YAMAHA CP1
Guitar:FENDER Telecaster、TAKAMINE Acoustic Guitar、GIBSON Les Paul、LEGEND ST Type
Guitar Amp:VOX Valvetronix、HUGHES & KETTNER TubeMeister 18
Ryosuke "Dr.R" Sakai
ちゃんみなやmilet、AK-69、Ms.OOJA、UVERworld、東方神起など、数多くのアーティストを手掛けるプロデューサー。2021年からはDr.Ryo名義でアーティスト・プロジェクトをスタートした。また、レーベルのMNNF RCRDSを主宰する。
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『Gifted.』
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