メロディが弾けない人はサンプリングで楽しめるし
プレイヤーのスタイルに合わせてやることを変えられるのが面白い
16パッド・プレイヤーとしてバンドとの共演やジャンルを超えたフィールドで活躍するKO-ney(写真左)と、SNSでパフォーマンス動画を多数発表し、書籍『DTMerのためのフィンガードラム入門』を発売したフィンガー・ドラマーのスペカン(同右)。ドラマーとして活動していたスペカンがKO-neyの元でフィンガー・ドラムを習ったことで2人の交流が開始した。ここでは2人のパッド対談を敢行。生ドラムとフィンガー・ドラムの違いや独自の練習法、パッドの持つ可能性など、白熱した対談の様子をお届けしよう。
Text:Kanako Iida Photo:Takashi Yashima
KO-ney
【Profile】国内屈指のフィンガー・ドラマー/トラック・メイカー。圧倒的な演奏力でストーリー性に富んだ楽曲を奏でるパフォーマンスはジャンルを越えてオーディエンスを魅了し、国内外問わず高い評価を得る。
【Recent work】
『Unfinished』
KO-ney
(KO-ney)
スペカン
【Profile】5歳からドラムを始め、数々のロック・バンドで活動。KO-neyらに指導を受け、独自のフィンガー・ドラム・メソッドを確立。生ドラム/フィンガードラム指導者として述べ1,000人以上を指導する。
【Recent work】
『DTMerのためのフィンガードラム入門』
スペカン
(リットーミュージック)
Maschineは“たたく”より“弾く”イメージ
MPCの“ぶったたく”って感じが性に合う
ー今回は現在メインで使っているパッド機材を持参いただきましたが、パッドの選び方はどう考えていますか?
スペカン 今使っているNATIVE INSTRUMENTS Maschine+は、同社のソフトウェア・バンドルKomplete 13を購入したのと、たたきやすさから選びました。もともと生ドラマーなので機材に執着が無いというか、買ってもすぐ売ってほかの良さそうなやつを買ってと延々繰り返して、かなりのパッドを買ったんです。それで思ったのが、特に10万円を超えるスタンドアローンはどれを買っても問題無い。自分が好きなものを選んで慣れるしかないですね。
KO-ney 僕の中でMaschineは“たたく”より“弾く”イメージですね。僕が最も好きなMaschineプレイヤーのジェレミー・エリスが、16パッドを2段鍵盤みたいに上段8個、下段8個ととらえていて。でも僕はヒップホップが好きだから、AKAI PROFESSIONAL MPCの“ぶったたく”って感じが性に合うんですよね。どの機材も良さは当然あるし、しばらく使わないとどこが気に入る、気に入らないも出てこない。今日はMPC Live Ⅱを持ってきましたが、初代から使っていて、発売から3~4年たっても“こういうことができるんだ”って気付く。多分パッドを使う人ってあまり情報共有をしてこなかったところがあって、何年たっても発見があります。
スペカン 工夫が大事だよね。例えばABLETON Liveはユーザー同士の情報共有が活発で使い方が広がったけど、パッドも本や動画で解説してくれる人が居るといい。僕は4~5年前にKO-neyさんにフィンガー・ドラムを習って、SNSをフル活用することで反応してくれる人が増えて今に至りました。それが無ければ教則本を出せていないと思います。
ーその教則本『DTMerのためのフィンガー・ドラム入門』はどのようなコンセプトで?
スペカン パッドでドラムをたたくとっかかりとして、ヒップホップやDJのためではなく、あくまでDTMerに向けて、練習方法や始めるまでの最低限のことが分かるようにしたかったんですよね。僕はドラムの講師をやっていたから、メニューを作ることが得意だったんですよ。体の使い方もかなり勉強していたから、こういう指の順番だと動きやすいとか逐一メモしてきて。習うことやアカデミックなことをやるのが正解と言うわけではないですけど、ツールの一つにはなりますよね。僕はKO-neyさんに教わったレイアウトを元にすることで、生ドラムっぽい演奏のためのレイアウトを作ることができました。
ー生ドラムとフィンガー・ドラムは感覚的に違いますか?
スペカン ニュアンスを出すのは生ドラムの方が楽なんです。例えば、ゴースト・ノートのスティックでのタッチ感はフィンガー・ドラムで出すのはすごく厳しい。だから僕は再現できそうな部分はするけど無理しないとできないことはやらないって決めていて。でもリズム・キープしてフィル・インするのは生ドラムをたたくのと同じ感覚ですね。
KO-ney's Play Style
KO-neyが持参したのはAKAI PROFESSIONAL MPC Live Ⅱ。上記のパッド配置は自身の楽曲「Dominate Break Loop」のライブ・パフォーマンスや、ラッパーとのセッションにおいて多く使われるもの。ドラムの3点はほぼ固定だという。KO-neyは手が一番動いているように見えるパッド・レイアウトを追求。タムは下にまとめると同じ動きしかしないので遠くに置き、ハイハットは下段を中心にしつつ上に飛んでいくようにしてアクション性を出している。
KO-ney's Favorite Pad
AKAI PROFESSIONAL MPC Renaissance
盲目的に全体を練習するのではなく
分解して一つ一つを完ぺきにすればできる
ーでは何かフィンガー・ドラム特有の強みは感じますか?
スペカン 僕、フィンガー・ドラムはメタルと相性が良いと思うんです。メタルはトリガーを使うことが多くて、後からFXPANSION BFDとかXLN AUDIO Addictive Drumsなどの音に置き換えるけど、フィンガー・ドラムならそれをリアルでたたける。あとはROLAND TR-808系のサウンドを自分のグルーブ感で演奏できるのも夢のような話です。
KO-ney 僕は5年くらい前までどうやって生ドラムをMPCで再現するかを追求していたんですけど、いろいろなバンドとセッションした結果、MPCの強みは再現性ではなく、音のタイトさでした。わざわざ手練の生ドラマーに立ち向かうより、毎回前フリ無しで全力の音が出せる格好良さを生かして、違う方向から絡んだ方が意味があると思うようになりましたね。
ー生楽器と一緒に演奏するときの音選びはどのように?
KO-ney キーボーディストのタケウチカズタケさんが“生ドラムとMPCで共存できないか”と言っていて、最近は生ドラムと合体させることで強靭になる音作りを研究中です。例えばキックはアタックを弱めにして、ディケイはタイトにしつつ、ボム感がある音に。逆にスネアはなるべくアタックを強くすることで表情豊かになる。ハイハットはぶつかるので同時にはたたかず、代わりにシェイカーなどでパーカッシブにして、トラップの細かいフレーズなど生で出せないニュアンスを差し込みます。会場ごとに鳴りが違うので大変ですけど、その場でMPC内蔵のEQやコンプで調整しますね。
スペカン 僕は音作り、好きじゃないです(笑)。練習する時間と音作りをする時間は並行に存在するから、どちらかを削ればもう一方が進むと思うんですよね。僕が僕としてやれているのはドラムに振り切っているからだと思うので、生っぽいことも、生ではできないドラミングもできるように目指しています。もちろん良い音で鳴るように音色選びは工夫しますね。曲を流しながらAddictive Drumsとかの膨大なプリセットを全部たたいてみて選びます。選ぶ作業は唯一練習する時間と共存できた。でも音作りでツマミをいじるとなると、たたくのとは違う作業になるので、“少しでも長くたたかないと下手になるかもしれない”という恐怖心もあって今の道に進みました。
ー練習はどのように行なっているのですか?
KO-ney 僕は毎日最低1時間はたたくと決めて、筋トレ的な感じでやっています。例えば“この曲のこのキックの位置を絶対に守る”と決めて練習するとか、クオンタイズ(補正)を切って録音してみて、リズムが走っていたところを後ろにする練習とか。演奏しているときはイケてると思い込みがちなので、録音して聴いてみるというのは大事にしています。あとは、ファンクやジャズのグルーブをカバーする。フィル・インは手癖で同じになりがちなので、違うパターンを体にたたき込む練習もするかな。
スペカン 僕は練習というより、着手していないパターンをできるようにするための研究ばかり。盲目的に全体を練習するのではなく、分解して一つ一つを完ぺきにすればできるようになるから、どう分解するかひたすら考えています。例えば、フィンガー・ドラムでメロコアをやるのは結構厳しいけど、できるようになったんです。指順が安定していなかったらそれを練習する。次に、しゃべりながらでも90~100BPMでキープできるように練習して、できたらスネアを入れて……と細かく練習していきます。練習が発展すると人によって大事なところが変わってきますよね。パッドに可能性を感じて見出している部分がいろいろあるってことだと思います。
S.P.K.N.'s Play Style
スペカンはNATIVE INSTRUMENTS Maschine+を持参。Komplete 13を所有していることとたたきやすさから選んだという。下段に配置された上ネタは、クリックとキック2に連動。右下のパッドを押すだけで3つが同時に鳴るように設定されている。スペカンはレイアウトについて「この配置でないと絶対できないというところまですごく時間をかけて追い込んでいる」と話す。楽にたたけるレイアウトでないとたたくことが難しいパターンも多いという。
S.P.K.N.'s Favorite Pad
ABLETON Push 2
曲が形になるまでのプロセスがめちゃくちゃ速い
初心者が曲を完成させる体験をするのにもお薦め
ーお二人にとってパッドの魅力とは何でしょうか?
KO-ney パフォーマンスはもちろん、制作でも鍵盤では思い付かないアイディアが出ることが大きいですね。あとドレミと全く関係無いところに行けるランダム感。スタンドアローン機1台で作るのもアリだし、DAW上でサンプラー・ソフトをパッドのMIDIコントローラーで鳴らすだけでも刺激になりますよね。自分の曲をパッドでいじればリミックスやライブ・アレンジもできるし、遊び感覚の中で思い付くことが確実にある。
スペカン 僕はやっぱり、手元で完結することの素晴らしさ。生ドラムはマイキングしないと録れないけど、パッドはケーブルを挿すだけでいい。こんな手軽さほかに無いです。メロディが弾けない人はサンプリングで楽しめるし、ドラムの音色を入れて打てばとりあえずそれっぽくなる。それに、ドラム以外でも自分が得意なパートを選んでプレイすることもできますよね。総合的にやることも叶うし、プレイヤーのスタイルに合わせてやることを変えられるのが面白いと思います。
KO-ney あとは曲が形になるまでのプロセスがめちゃくちゃ速いから、初心者が曲を完成させる体験をするのにも、パッドものが一番お薦めですね。
スペカン 動画との相性の良さも抜群だよね。曲ができたらSoundCloudとかSNSにアップして終わる人も多いけど、パッドでメロディを弾くような動画にするだけで、訴えかけるものが圧倒的に大きくなると思います。
KO-ney トラック・ミュート機能を使ってパッドでトラックの抜き差しをするとか、普段DAWでやる作業をパッドを使って動画で見せるだけでも見栄えが良くなりますよね。もともと僕も10年以上前から動画を発信し続けたことで見てもらえるようになったし、やっておいて良かった。
スペカン 僕が月に1回は見るKO-neyさんの超お薦め動画があるんですよ。MOMENT OF TRUTHって動画。
KO-ney 渋谷のえちごやミュージックでビートを作る風景を格好良く撮ってもらって。DJ Mitsu The Beatsさんなども出ているシリーズの3回目が僕で、最初にレコードからサンプリングして、その場でビートを作って、最後はフィンガー・ドラムもしました。
スペカン これを見ればMPCでできることが分かると思うんですよ。すごく良い動画だと思う反面、嫌になるよね。“KO-neyさんばっかり格好良くてさ”って(笑)。でも僕は本当にリスペクトしているし、ああいうのできるようになりたい。いや、なると思います。KO-neyさんに習ってるから(笑)。コロナ禍が終わるかも分からないし、動画で自ら発信することはミュージシャンにとって一つの武器になると思います。その力は絶大だから、YouTubeとかSNSでどんどん発信した方が良いと思うし、パッドはそれにうってつけだと思いますね。
【特集】パッドで生み出す極上のグルーブ
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