ペアで30万円以下のモニター・スピーカーから選び抜かれた全11モデルを、音楽制作の第一線で活躍するエンジニアの染野拓氏、プロデューサー/コンポーザーのT.Kura氏が徹底レビュー! ここでは、NEUMANN KH 80 DSP A Gを紹介します。
小型ながら120W+70Wのバイアンプで駆動。iPadアプリで環境に合わせた音場の調整ができる
NEUMANNのスピーカーの中では最も小型のモデルで、120W+70Wのバイアンプで駆動する。iPadアプリNeumann.Control、もしくは別売りの音響補正用測定マイクMA 1とMac/Windows対応の専用ソフトウェアを利用することで、部屋の環境に合わせた音場の調整が可能だ。背面にはオート・スタンバイ・スイッチや、中低域を制御する4種類のEQ、出力レベルや入力ゲインをコントロールするノブを搭載。なお、これらはNeumann.Controlでリモート・コントロールすることもできる。
SPECIFICATIONS
●形式:2ウェイ・パワード ●スピーカー構成:4インチ径ウーファー+1インチ径ツィーター ●周波数特性:53Hz~21kHz ●外形寸法:154(W)×233(H)×194(D)mm ●重量:3.5kg/1台
トランジェントが見えやすくボーカル処理にも最適 〜染野拓
一時期、SNSで“すごいのが出た”とKH 80 DSP A Gが話題になったため、自分も使ってみたことがあるのですが、第一印象は“とにかくバランスがいい”です。高域がしっかり聴こえるため、リズム隊のトランジェントが見えやすく、コンプの処理もやりやすいです。また、声の歯擦音やリップ・ノイズもよく分かるので、ボーカル処理にも向いているでしょう。低域は、特に80〜100Hzが豊かなため、ベース・ラインがよく聴こえます。ウッド・ベースが心地よく聴けたため、ジャズやポップスとの相性も良いでしょう。
内蔵DSPによる補正機能、ACOUSTICAL CONTROLも使ってみました。どのモードでも中低域がすっきりする傾向にあり、定位感も分かりやすくなります。また、ボーカルのセンター・イメージが一貫してしっかりしているのも印象的です。補正アプリのNeumann.Controlは、絶対に入れた方がいいです。中には補正すると音痩せする傾向のものもありますが、こちらは逆にまとまりが出ます。トランジェントをビシッとそろえてくれるし、低域のボワついたところも正してくれるので、よりKH 80 DSP A Gの本領が発揮されるでしょう。
ドラムがかっこよく聴こえノリノリで制作できる 〜T.Kura
コンパクトな見た目ですが、想像以上に大きな音圧が出るモデル。あえてミックスが未完成な曲を再生したところ、中〜高域のピーク処理が不完全なのがよく分かりました。全体的な出音の重心は低域にあります。ドラムがかっこよく聴こえるので、気分良くノリノリで制作できるスピーカーだと思いました。リア・パネルのACOUSTICAL CONTROLは効きが良く、3タイプのデスク・サイズに合わせて使い分けられるため、設置環境に合わせていろいろ試してみるといいでしょう。ゲインを上げていくと、コンプがかったようなまとまりのあるサウンドになるため聴きやすいです。響きはデッド寄りで、ステレオ・ワイド感は普通ですが、パンニングしたときの精密度は高いと思います。僕が求めるのは弱点が見えまくるスピーカーなのですが、KH 80 DSP A Gはボーカルの歯擦音が強調されて聴こえるため、そういった点では好みのモデルだと言えるでしょう。
Neumann.Controlで自動補正をすると、2〜3kHz付近の位相がとても奇麗に整ってボーカルやキックの輪郭が見えやすくなりました。これにはびっくり! より見た目のサイズ感を裏切る、素晴らしいサウンドになります。
レビュワー紹介
染野拓
レコーディング/ミックス・エンジニア、PA。2017年、東京藝術大学音楽環境創造科を卒業。2019年からStyrismに所属し、これまでにCHARA、SIRUP、odol、WONK、モノンクルなどの作品を手掛けている。
Recent Work
『Where is "LAGHEADS"?』
LAGHEADS
(LAGHEADS LABEL)
※全8曲のうち7曲のミックスを担当
T.Kura
プロデューサー/コンポーザー。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、Crystal Kay、安室奈美恵、AI、三浦大知などの国内トップ・アーティストを手掛けるほか、1996年にプロデュースしたエリーシャ・ラヴァーンのシングル「Say Yeah!」がUKの『Blues&Soul』誌のチャートで1位を獲得。2010年には、EXILE「I Wish For You」で第52回日本レコード大賞を受賞。日本国内にとどまらず世界で活躍しているR&B/ヒップホップ・プロデューサー。
試聴環境
モニター・スピーカーの試聴は、前回の特集“はじめてのモニター・スピーカー選び”に続き、東京・御茶ノ水にある多目的スペースのRITTOR BASEで行なった。スタジオにはデスクとスピーカー・スタンドを用意し、全11モデルを個別にスタンドへ配置してレビュー。レビュワーの2人には、リファレンスとなる音源を再生したり、AVID Pro Toolsのセッションで作業したりして、各モニター・スピーカーの性能をチェックしてもらった。