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顔認識技術を応用し音の細部を際立てるプロセッサー〜ZYNAPTIQ Intensity

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 Reviewed by 
Mine-Chang
【Profile】作編曲家/プロデューサーとしてアーティストへの楽曲提供やCM音楽などで活躍するとともに、prime sound studio form所属のレコーディング・エンジニアとしても活躍中。

効果全体の深さを調整するINTENSITYと
周波数特性に変化を加えるBIAS

 ほかにはないユニークなプラグインで定評のあるZYNAPTIQ。同社のIntensityはMac/Windows対応のAAX/AU/RTAS/VSTプラグインで、ミックス/マスタリング/サウンド・デザイン向けのプロセッサーとのことですが、一体どのような特徴を持っているのでしょうか?

 

 ZYNAPTIQと言えば、サウンド・プロセッシングのコア部分にAI技術を用いた自動処理のプラグインが有名ですが、このIntensityも顔認識アルゴリズムを応用してサウンドのディテールを浮き彫りにするそうです。筆者もAI処理のプラグインはいろいろと試してきたものの、触れ込みのようにマジカルな効果が得られる体験はあまりしたことがありません。“AIに仕事を取られてはたまらない”という懐疑的なスタンスからのレビューですが始めてみましょう。

 

 Intensityをインサートして画面を表示させると、トラック・ボールのようなコントローラーが2つ表示されます。これは“トラックボール・スライダー”というZYNAPTIQ独自のユーザー・インターフェースで、基本的な役割としてはバーティカル・フェーダーです。画面左側のトラックボール・スライダーは、 プラグインのかかり具合をコントロールするパラメーターになっています。これを上げると、プラグインのアルゴリズムが“音のディテールだ”と分類する信号要素のレベルが増加。結果としてサウンドの明りょう度、厚みや音量が向上します。

 

 中央にあるボタンはLVL COMPで、内部処理により発生したレベルの変動を補正します。左側のトラックボール・スライダーはBIASコントロールとなっており、右側に回すとバイアスの強度が上がり、左側に回すとバイアスが逆の方向に強まります。画面中央のビジュアル・メニューが示す通り、このバイアス・カーブは周波数特性に重み付けのようなことを行い、処理結果に対してある種のEQがかかったような効果を生み出します。またモードが2種類から選べるようになっており、一つはプリセットの中から選択するもの(画面①)、もう一つはグラフィックEQのように各周波数帯域に対し−12〜+12dBの変化を加えるというものです(画面②)。画面左上のDRY-WET MIXでは、原音とエフェクト音のバランスを取ることでパラレル処理が行えます。

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画面① バイアス・カーブには、2種類のEQUAL LOUDNESSカーブとPRESENCE BOOSTカーブ、LINEAR TILTカーブなど計10種類のプリセットが備わっており、画面のビジュアル・メニュー・ウィジェットから選ぶことができる

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画面② CUSTOMモードのバイアス・カーブ。青い縦線は各周波数帯域のゲインを表しており、グラフィックEQのような要領でコントロールできる

標準状態からINTENSITYを調整するだけで
既にマスタリングしたようなパンチのある音に

 実際にマスターにインサートして、その効果を試してみましょう。ボーカル録りを終えたばかりのラフ・ミックスのセッションで使用してみました。まずはデフォルトの設定でINTENSITYを調整してみます(画面③)。どういうわけか、もうミックスを終えたような、さらに言うと既にマスタリングしたような質感になってしまいました。バランスが整っていて、パンチと広がりがあります(画面④)。

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画面③ デフォルトの状態から画面左のINTENSITYを調整するだけで、ミックスやマスタリングを済ませたような整ったバランスにでき、音のパンチや広がりも出てくる

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画面④ 出力部にはシンプルなゲイン段に加え、モダンなソフト・ニー・サチュレーティング・リミッターを搭載しており、サウンドにパンチを与える要素となっている

 通常、ミックスやマスタリングは、ある一定の質感をゴールにして調整するものですが、そこにたどり着くためにはまずふさわしいバランスを取り、不要な帯域を除去したり足りない帯域を補ったりして、何とか現代的な洗練された質感にすべくいろいろな努力をするものです。しかしそれらが一気にすっ飛ばされ、AI処理一発でモダンな音楽らしいパンチのある質感に変化してしまいました。何ということでしょう。

 

 今回使ったセッションは、明らかにドラムとボーカルが大き過ぎるはずなのですが、マスターにインサートしたIntensityが歌とドラムだけにコンプレッサーをかけてピークを抑えたような効果を生み出し、きちんとしたバランスにしてくれたのです。また、ややもすると埋もれがちなコーラスやシンセの細かなフレーズは、左右のスピーカーいっぱいに広がって香ばしく華やかな質感に。(控えめに言って)改善の余地があるラフ・ミックスに対しても、かなりの力技で完成形まで持っていくようなバランス調整能力があると分かりました。従来のコンプやEQでは、不可能なレベルかもしれません。

 

リズムやボーカルのバランスだけでなく
リバーブ感さえモダンな雰囲気になる

 マスタリング的な用途に使えば、さまざまなクリエイターが作曲し、さまざまなミックス・エンジニアがバランス調整を行い多様な質感に仕上がった楽曲を、ある一定のまとまりのある質感に仕上げる効果が得られそうです。それを検証するために、SOURCE ELEMENTS Source-Nexusを使用して既存のさまざまな楽曲をDAWにストリーミングし、Intensityを通して聴いてみました。すると予想通り、どんな楽曲も同じような質感に聴こえて、ある種のまとまり感のあるプレイリストになったのです。面白いことに、童謡や英会話教材といったおよそ現代的なミックスがされているとは思えないソースでも、Intensityを通すとリズムとボーカルのバランスはもちろん、リバーブ感でさえもモダンな雰囲気になります。良い悪いかは別として、ラウドネス・レベルもひところのマスタリングのように限界まで音圧を高めた状態に持って行くことができました(画面⑤⑥)。

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画面⑤ 童謡に施した設定。ラウドネス・メーターで測定したところラウドネス値は−6LUFS(ショート・ターム)/−4LUFS(ロング・ターム)辺りまで上昇した

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画面⑥ 出力部付近にある“CMP”を使用すると、入力と出力のラウドネス値をそろえることができる

 Intensityは、一般的なマスタリング用プラグインには無いような、強力な補正効果を持つことが分かりました。ソースの位相特性が変化しないため、DRY-WET MIX機能を活用したりDAW内でのパラレル処理が可能で、個性を殺すことなくこのプラグインならではの現代的な質感を少しだけ加えてみたり、作品全体の品質をモダンでパワフルなパンチのある音像にしたいときにとても有効です。

 

ZYNAPTIQ Intensity【AI搭載】

オープン・プライス(市場予想価格:38,940円前後)

 Requirements 
■Mac:OS X 10.8以降、INTEL製CPU(2コア以上)、AAX/AU/RTAS/VST対応のDAWソフト
■Windows:Windows 7以降、2コア以上のCPU、AAX/RTAS/VST対応のDAWソフト
■共通:AAX Native 32ビットの場合はAVID Pro Tools 10.3.6以降が必要

 

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