Photo:Hiroki Obara 取材協力:タックシステム
HALF H・P STUDIO BOF3は、東京・幡ヶ谷のポストプロダクション・スタジオ。4つのスタジオとプリプロ・ルームを1室持ち、主に洋画の吹き替えや字幕制作を手掛けている。昨年9月にSTAGE 5という部屋がDolby Atmos Homeに対応したので、その設備をレポートしよう。
オブジェクトの設定も直感的なAVID S6
STAGE 5がオープンしたのは2006年。13年目の昨年に更新の話が持ち上がり、Dolby Atmosへの対応に踏み切ったという。技術部エンジニアの中西一仁氏が語る。
「以前は5.1chまでの対応で、更新を機に7.1chにアップデートしようかという声もあったのですが、若いスタッフから“Dolby Atmosに興味がある”という意見が出て、挑戦してみることにしたんです」
「あるセミナーへ参加したのも、きっかけの1つです」とは、技術部エンジニア手塚孝太郎氏の弁だ。
「そのときに“Dolby Atmos環境のスタジオを使いたい”というスピーチがあったので、思い切ってみようと。我々の仕事は吹き替えがメインなので、Dolby Atmosのシステムがどれほど必要になるかは未知数でしたが、フル・スペックの環境を持っていればどんな仕事にも対応できますし、若いスタッフの士気も上がるでしょうから採用を決めました」
更新に際しては部屋の内装もアップデートしている。「日本音響エンジニアリングさんに設計/施工していただきました。このスタジオの用途を見越して、デッドな方向に調整されているんです」と中西氏が振り返る。
「DOLBY JAPANの中山尚幸さんからアドバイスをもらいながらの設計でした。機材については、コンソールとしてAVID S6 M40を導入しています。パネルに出ている情報の量が多いので、視認性が高く、操作しやすいですね。以前使用していたIcon D-Controlには“ここがもう少しこうなればいいのにな”という部分があったのですが、見事に解消されています。とりわけ中央のディスプレイに、各チャンネルの情報やAVID Pro Toolsのプラグインの設定値を出せるのがうれしい。また、タッチ・センス式なのでDolby Atmosのオブジェクトの位置を指で決めて、後からPro Toolsの方で微調整するようなオペレートも可能です」
ハイト・スピーカーで拡張する表現の幅
スピーカー・レイアウトについては7.2.4ch。GENELECのS360Aをフロントに3台、8341Aを8台、サブウーファーの7370Aを2台導入している。「ジェネレックジャパンの方々にもお越しいただいて“音が良い”と言ってもらえたので、その音質も特徴だと思います」と中西氏。Dolby Atmosのサウンドに関しては、どういった印象を持っているのだろう?
「やっぱりハイト・スピーカーを備えているのが大きいと思います。天井から音を鳴らすというのは7.1chでもできないことなので、表現の方法が増えるでしょう。現状は5.1chまでのタイトルの受注が多く、Dolby Atmosの制作はこれからという段階なのですが、いろいろとやりがいのある音作りに取り組めそうです」
この言葉を受けて、手塚氏も「今は吹き替えがメインですが、Dolby Atmosを活用できる仕事をいただければ、吹き替えにこだわることなく挑戦してみたいですね」と言う。
STAGE 5のそばにはマシン・ルームがあり、オーディオI/OのAVID Pro Tools|MTRX、そしてMac版の Rendering & Mastering Unit(RMU)が置かれている。「このRMUはAPPLE Mac Miniをベースとしています。Dolby Atmos Homeのマスター作成に対応するための機材です」と中西氏。
最後に、今後の展望を聞いてみた。
「Dolby Atmosは、まだコンテンツが少ないと思うのですが、APPLE iPhoneやサウンド・バーなどが再生に対応し始めていますよね。そういった身近なツールが普及して、関心を持ってくれる人が増えることを願っています」
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