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浦本雅史が語るDolby Atmos制作のポイント「立体音場のメリットは“音の視覚化”」

浦本雅史が語るDolby Atmos制作のポイント「立体音場のメリットは“音の視覚化”」

 サカナクションの作品にはインディーズ時代から携わり、現在はライブでのマニピュレートまで担当する浦本雅史氏。ライブ会場で6.1chサラウンドを実現した『834.194』のBlu-rayでDolby Atmosミックスを氏が手掛けたことは、昨年4月号で詳しく紹介した。それから1年以上がたち、Apple MusicでDolby Atmos Music配信がスタートする中で、氏が感じているDolby Atmosの可能性について、あらためて話を伺った。

体感を元にオーディエンス・マイクを位置決め

 サカナクションのライブBlu-ray『SAKANAQUARIUM 2019 "834.194" 6.1ch Sound Around Arena Session -LIVE at PORTMESSE NAGOYA 2019.06.14-』でDolby Atmosミックスを行った浦本氏。あらためて当時の制作を振り返ってもらった。

 

 「ライブの時点ではサラウンド化は想定していましたが、Dolby Atmosミックスを行うと決まったのは後になってからでした。とはいえ、大半のリスナーはステレオで聴くので、ステレオ・ミックスを作ってから、Dolby Atmosに展開するやり方でしたね。まずDolby Atmosで意識したのは、会場でマニピュレートしながら僕が感じた記憶……耳と体で感じた音を再現することでした」

 

 ライブ空間の再現では、オーディエンス・マイクの扱いがポイントとなったと氏は続ける。

 

 「会場後方の音になればなるほど頭上の方に行くっていうイメージです。後ろの音は聴き取りづらいと思ったので、オブジェクトを動かしながら調整した記憶があります。実際にマイクを置いた位置通りに定位させても、その通りにはなりませんでした」

 

 「新宝島」では、岩寺基晴のギター・ソロをオブジェクトを使って少し上に配置したともいう。

 

 「ちょっとした遊び心として、天から降ってくるようなイメージを作りました。少し上からギターが聴こえてくるようなことは、みんなほとんど体験したことが無いから」

 

 ここで得たノウハウを生かして、今年開催されたサカナクションのオンライン・ライブ『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』では新たな音場作りの試みもしてみたそうだ。

 

 「視聴者が自宅で見るものですが、空間は幕張メッセにしたかったんですよ(編注:配信元会場はシミズオクト 千葉スタジオ)。それで、オーディエンス・マイクを3Dで配置して、サンプリング・リバーブと合わせて使いました。そういう疑似体験を生み出すにはイマーシブは有効です。例えば、ギター1本であっても複数のセンドからそれぞれのオーディエンス・マイク位置に音を送れば、音場を作ることができますね」

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昨年1月、本誌主催のイベントで公開された『SAKANAQUARIUM 2019 "834.194"〜』のDolby Atmos Renderer画面。オブジェクトにはオーディエンス・マイクを配置。前方から後方にかけて、高さを調整して回り込むように置いている。シーンによってこのハイト側オブジェクトの位置は微調整された

ドライと部屋鳴りを共存可能に

 そんな浦本氏に、“Dolby Atmosの最大の魅力は?”と問うと、こんな答えが返ってきた。

 

 「自分が感じているところで言えば、“音の視覚化”というか。人間ってやっぱり動いているものに耳が向き、聴こえることが多いと思います。“音が見えるようだ”“演奏している姿が見えるようだ”という印象につながってくる。立体的な音場によって、そんな感覚が得られると思います」

 

 もう一つ、具体的な音作りに関しては、ドライでタイトな温色と空間表現との両立が可能な点に触れてくれた。

 

 「僕はやっぱりリズムが好きだから、スピーカーが増えることで、アタックも低音もしっかり近くで聴こえるように作れるのがメリットだと思います。例えば今までのステレオだと、ドライな音ならドライ、部屋鳴りがある音なら部屋鳴りのどちらかに決めるしかなかった。それが、L/C/Rはオンマイク、天井から部屋鳴りといった形に共存できる。リズムに限らず、センターにボーカルが居て、それはドライでも、L/Rに響きがあるとか、そういう表現が可能になるのが大きいと思います」

 

 現在新たにミックス・ルームを作っているという氏。Dolby Atmos対応も視野に入れているという。リスナーにもスピーカーで聴く機会を持ってほしいと考えているそうだ。

 

 「APPLEの空間オーディオは、ほとんどの人がステレオ再生装置で聴くので、自分たちが表現したかったものがどこまで再現できるかは、もう少し判断に時間がかかるでしょうね。バイノーラルにエンコードされるときのサミングで、どれだけ音量が上がるのか……とかも。でも、Dolby Atmos Musicでの作品作りには興味があります。バイノーラル再生だけじゃなくて、例えば映画館などで体験するみたいなイベントができたらいいなという気持ちもありますね。音作りのやり方によっては、バイノーラルで聴いたときにも、Dolby Atmosの利点が残せる手法もあるかもしれません。Dolby Atmos Musicも始まったばかりですし、正解がまだ無いから。多くの人が、やりたいようにやってみたらいいと思います」

 

浦本雅史
【Profile】Aobadai Studioチーフ・エンジニア/サウンド・プロデューサー。サカナクション、Eve、KID FRESINOなどの作品に携わる。サカナクションのライブではマニピュレーターも務め、バンドの表現にさまざまな側面から深くかかわる。

 Works 

『SAKANAQUARIUM 2019 "834.194" 6.1ch Sound Around Arena Session -LIVE at PORTMESSE NAGOYA 2019.06.14-』(完全生産限定盤:Blu-ray)
サカナクション
(ビクター/NF Records)

 

特設サイト「Dolby Atmos Music Creator‘s Summit」

【特集】Dolby Atmos Music〜空間オーディオの潮流

www.snrec.jp

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