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カールトン・リーンが語るDolby Atmos制作のポイント「スピーカーで行ったミックスはバイノーラルでも奥行きや広がりが感じられる」

カールトン・リーンが語るDolby Atmos制作のポイント「スピーカーで行ったミックスはバイノーラルでも奥行きや広がりが感じられる」

 2000年にTLC『ファンメール』でグラミー受賞。そのほかアッシャー、P!NK、クリス・ブラウンなどの作品に携わってきたエンジニアのカールトン・リーン氏。近年は日本に拠点を置いている彼は、新進気鋭のシンガー・ソングライターAlisaのデビューEP『BOUNDARIES -SET A-』収録曲「Lost in Translation」のDolby Atmosミックスを手掛けている。

Photo : Daisaku Urata

手持ちのツールでクリエイティビティを発揮

 リーン氏が最初にDolby Atmosについて知ったのは、映画作品の広告だったそう。

 

 「後に業界誌などで、Dolby Atmosは没入型のオーディオ・フォーマットであることを知り、映画を見に行くときには必ずDolby Atmosの映画館を選んだことを覚えています。私自身もDolby Atmosミックスをやってみたいとは思っていましたし、この2年ほどDolby Atmos Musicの需要増を感じていたので、さらに興味を持つようになりました。ただ、そのオファーが自分のところに来るとは思っていませんでした」

 

 オーストラリアはメルボルン在住のシンガー・ソングライター、Alisa。7月にリリースされた彼女のデビューEPの1曲、「Lost in Translation」のDolby Atmosミックスが、ユニバーサルからリーン氏にオファーされた。

 

 「まずは、Dolby Atmos Rendererのリサーチから始めました。今回、ミックスの下準備と言える作業はほとんど自宅でヘッドフォンを使って行い、その後、7.1.4chのセットアップがあるスタジオに行って仕上げました。正直に言えば、ヘッドフォンを使ったバイノーラルでの仕込み段階では、あまり実感は得られませんでしたね。私のヘッドフォンが古いモデルだからだったかもしれません。しかし、スタジオに行くと、複数のスピーカーで高さや奥行きを実感することができました。そうやってスピーカーでモニターしながら完成したミックスはバイノーラルでヘッドフォン再生しても奥行きや広がりが感じられるものに仕上がり、リスナーがヘッドフォンでリスニングする価値があるものに、そして今までと異なる体験をもたらすものになったと思います

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Alisa「Lost in Translation」のPro Tools編集画面。中央に立ち上がっているDolby Atmos Music Pannerでアルペジオが回転するような効果を与えている。ディレイはこの画面で確認できるだけで5種類、リバーブは3種類を組み合わせて使用。またほとんどのトラックをフリーズして、CPU負荷を下げているのが見て取れる

 Alisa「Lost in Translation」のミックスは、ステレオ版を元に制作されたという。

 

 「ステレオ・ミックスの基本的なサウンドはそのままですね。前後の空間を作り出すために、元のリバーブに加えて幾つかのリバーブを追加しました。Dolby Atmosのデモ音源をたくさん聴いたのですが、ヘッドルームに余裕があることに気が付きました。従って「Lost in Translation」では、ダイナミクスを感じられるようなミックスを心掛けてみました。イマーシブ・オーディオ、あるいは“空間オーディオ”というと、音が動き回るというイメージを持っている人が多いと思います。でも、この曲はボーカルとピアノが中心となるとてもシンプルなものです。だから、この曲はまさに没入感のある仕上がりを目指して、リバーブでリスナーを包み込むようにしました」

 

 氏が語るように、「Lost in Translation」はボーカルとピアノを軸にした楽曲。トラック数も非常に少ない。

 

 「アルペジエイターのような音をぐるぐる回して演出したりもしていますが、とはいえ主眼は空間作りです。サラウンド対応のプラグイン・リバーブなどは持っていないので、ディレイを組み合わせて、後ろの空間の広さなどを演出しようと考えました。機材が限られている環境下で、クリエイティビティを発揮して、どうすればより良いミックスになるのかを考えるのは、私の哲学なんです」

トリッピーなサウンドの演出に最適

 リーン氏は、この「Lost in Translation」での経験を受けて、Dolby Atmosのさらなる可能性についてこう言及する。

 

 「通常のステレオ・ミックスでは100tr以上の曲を扱うこともありますが、Dolby Atmosミックスでは、その全部を2chに詰め込む必要はない点がうれしいですね。例えばヒップホップやトラップ系の曲では、アトモスフェリックなサウンドが多いので、トリッピーなサウンドの演出には最適ではないかと思います。Dolby Atmosを想定してゼロから曲を作ると、そうした可能性はさらに広がるでしょう。今は、パラダイム・シフトがまさに起こっているところです。歌詞や曲に合わせて、オブジェクトが移動してもいいかもしれません」

 

 氏がDolby Atmosに可能性を見出しているのは、我々が普段から3次元で音を体感しているからだという。

 

 「ライブに行けば、たとえ小さなクラブやバーだったとしても、後ろの壁や天井から空間を感じることができます。Dolby Atmosではそのような空間を作り出し、その場に居るような体験をすることができる。そして、リスナーは今まで気付けなかった音が聴けるようになる……私なりの表現ですが、“鳥肌モノの瞬間”を体験できると思います」

カールトン・リーン インタビュー 〜Dolby Atmos Music Creator’s Summitより

 

カールトン・リーン
【Profile】アトランタをベースに、TLC、アッシャー、P!NK、クリス・ブラウン、レオナ・ルイスなどの作品を手掛ける。TLC『ファンメール』でグラミー受賞。2016年より東京を拠点に活動。King & Princeやヒプノシスマイク、Red Velvetなどの作品に携わる。

 Works 

Boundaries - Set A - EP

Boundaries - Set A - EP

  • Alisa
  • ポップ
  • ¥1426

『BOUNDARIES -SET A-』
Alisa
(ユニバーサル)

 

特設サイト「Dolby Atmos Music Creator‘s Summit」

【特集】Dolby Atmos Music〜空間オーディオの潮流

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