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感覚ピエロがAbleton Liveを使う!ライブ実用例~バンド内で完結するライブ用システムの制作

感覚ピエロがAbleton Liveを使う!ライブ実用例~バンド内で完結するライブ用システムの制作

楽曲制作に限らず、マルチプレイヤーの中核を担うシステムやバンド編成を問わない表現ができる楽器として、ライブ現場でも目覚ましい活躍を見せるDAWソフトAbleton Live。ここでは、アーティストによるその実用例を紹介していく。横山直弘(vo、g)、秋月琢登(g)、滝口大樹(b)、アキレス健太(ds)から成る4人組ロック・バンドの感覚ピエロ。ツアーやフェスへの出演など、ライブ活動を精力的に行う彼らは、マニピュレーターを入れずに、メンバーによる操作のみで完結するLiveシステムを構築している。ライブ用プロジェクトの制作を手掛ける横山が、シンプルな操作性を実現した制作手法を語る。

感覚ピエロ × Ableton Live ライブ・セッティング

 メイン機はAPPLE MacBook Proを使用し、USBハブを経由してKORG NanoPad2×2台をUSB接続。加えてUSBハブにはMacと冷却用のファンの電源も接続する。オーディオI/Oはラインで8系統出力可能なUNIVERSAL AUDIO Apollo 8を使用。Apollo 8からPAへは、リズム・シーケンス、ギターやシンセなどの上モノ&入場SE、コーラスなどの声モノをそれぞれ2chずつと、ドラム用クリック、ギター&ベース用クリックを1ch出力している。また、ドラマーのアキレス健太のモニタリング用には、BEHRINGER Xenyx 502を設置。Apollo 8からドラム用クリック、PAからシーケンスや生演奏のギターの音などが返ってくるシステムになっている。

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Ableton Liveを含む機材一式は、ドラム横に設置。ライブ中、同期音源のコントロールはドラマーのアキレス健太が行う

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同期音源の再生/停止にはKORG NanoPad2×2を使用。各楽曲の頭にロケーターを設定し、上段の左上から右下にかけてライブの曲順にMIDIアサインしている。下段のNanoPad2では、右下2つのパッドに再生/停止を割り当てている

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音を作ることや鳴らすことに専念させてくれる

 感覚ピエロでライブ用プロジェクトの作成を手掛ける横山。Ableton Live導入に至った契機は何だったのか?

 「ライブで同期を使いたいとPAの方に話したら、“Liveが良いらしいよ”と教えてもらって使うようになりました。ライブでは同期音源のシーケンサーとして使っていて、やることはMTRとほぼ一緒ですけど、いろいろな意味でLiveは融通が効くんですよね。Liveは全体で1個の楽器のように感じるんです。シーケンスやプラグインがシングル・ウィンドウで表示されて、オーディオをダブル・クリックすれば波形が出る。クリップ・ゲインもすぐいじれるし、オート・フェードを自動的にバックグラウンドでやってくれるのも助かります。直感的だし、音を作ることや鳴らすことに専念させてくれますね。Live 11からコンピングができるようになったので、制作でもガンガン使っています」

 ライブ用プロジェクトは、アレンジメントビューでライブごとに作成。プロジェクト画面を見ると、そこにはそのライブでの演奏曲のみならず、感覚ピエロのほぼ全曲のシーケンスが並べられている。

 「セッションの左側に本編で使用する曲を並べて、右側にはライブ用のシーケンスがある曲が全部いつでも流せるように入れてありますね。ライブではドラマーのアキレス(健太)がMIDIコントローラーKORG NanoPad 2を2台使ってコントロールするので、パッドそれぞれに、曲の頭にセットしたロケーターをその日のライブの曲順に合わせてアサインしています。演出上つなげたいものは連続して流れるように組んでいて、曲と曲の間はプロジェクト上で間隔を空けて並べるんですけど、その秒数はリハーサルで全部仕込んでいますね。間隔を詰めるときに便利なのが、command(Windowsの場合Ctrl)+shift+deleteというDelete Timeのショートカットです。スパッと小節ごと切れる上に全トラックを前に詰めてくれるので、曲の整理も速くできるし、トラブルも起きません」

 

Ableton Live プロジェクト・ウィンドウ

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①ライブ演奏曲の配置
ライブ演奏曲はプロジェクトの左側に配置。MIDIアサインで各ロケーターに移動するようになっているが、続けて再生される曲に関しては、スタジオで適切な曲間の小節数を探って調整を行う

②演奏曲以外の羅列
ライブ演奏曲以外もいつでも流せるように、ライブ用シーケンスがある楽曲は常にプロジェクト上に羅列している。Liveは動作が軽いため、曲数の多さによる不具合などは感じたことが無いという

 

自分たちが作ったものを再現でなく“表現”できる

 リスクヘッジの観点でも横山はLiveに厚い信頼を置く。

 「僕は2016年製のMacBook Proを使っているのですが、Live自体がトラブルを起こしたことは一度も無いです。各機能へアクセスする階層が深いとトラブル・シューティングがしにくいですけど、Liveは目で見えるところで完結しているので、エラーの原因が分かりやすいですよね。例えば、パッドを押して曲が再生されなかったのは、ロケーターとトラックの頭が離れていたせいだ、とか。だからLiveはリスクヘッジの意味でも良いですね。楽曲を作っているときにも感じるのですが、ミュージシャン目線で作られたDAWだということがよく分かります。バッファー・サイズは一番大きい2,048サンプルに設定しています。クリックを曲ごとにオーディオで作っていて、ほかのパートと同じ時間軸で動くからバッファー・サイズを変えてもずれないんです。オーディオ・データは全部内蔵SSDに入れています。オーディオ・トラックを走らせるだけならCPUの負荷は0~1%なので、本当に安心です」

 生演奏のバンド・サウンドとLive内の同期音源のバランスを取る上では、バンド結成当初からライブのサウンドを支えてきた音響チームとの連携がポイントになっているという。

 「感覚ピエロの音響チームはツアーやフェスでも毎回一緒で、結成当初から付き合いのある方がPAを担当しているので、新曲をライブでやるときには逐一ステムのデータを送っていますね。PAはライブ会場で音を流すプロなので、ライブ用スピーカーのレンジ感や生で鳴っている音との差分などを全部考えた上で、同期のレンジ感を整理した状態のデータを返してもらっています」

 ライブでの演奏にLiveを使った同期音源を導入することは、バンドでの表現の選択肢を増やすことにつながる。その可能性はサウンド面のみにとどまらない。

 「例えばダンス・ミュージックのような表現なら、シンセやウォブル・ベースっぽい音でバンドに厚みを加えることもできるし、クリックで映像を同期させて歌詞やアニメーションを流すという表現もできますよね。同期を使わないのも手ですけど、使えるようになっておくと表現の幅が広がると思います」

 最後に横山は、録音作品をライブで“表現”することに触れてこう締め括った。

 「ライブに来てくださる方は聴いてきた作品をどうやってステージで表現するか楽しみにしてくれていると思うし、実際に演奏する音と、バンドでフォローし切れないものを合わせることで、その日にしか鳴らせない音が表現できるとすごく良いんじゃないでしょうか。ライブで自分たちが作ったものを“再現じゃなくて表現したい”というときにLiveがあると、お客さんに自分たちの作った音楽の魅力が伝わると思いますね」

 

 PICK UP! 
シンプル操作のMIDI Learn

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 横山が「これがあるからLiveを手放せない」と語るほど重宝しているのが、MIDIマッピングを柔軟に組める“MIDI Learn機能”。画面右上の“MIDI”ボタンを押すとMIDI Learnモードになり、マッピングしたいロケーターやパラメーターなどをクリックして、MIDIコントローラー側の任意のパッドやボタン、ノブを動かすだけで簡単にMIDIマッピングを組むことができる。横山は、その日のライブの曲順に合わせてKORG NanoPad 2のパッドに曲のロケーターをアサイン。アキレスが曲を割り当てたパッドと再生のパッドを押すという2段階の操作のみで曲の再生を行えるように組んでいるという。

 

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横山直弘

【Profile】1992年5月30日生まれ、北海道岩見沢市出身。ロック・バンド感覚ピエロのボーカル/ギタリストで、作詞/作曲/編曲/マニピュレートを担当。門垣良則氏(MORG)に師事しレコーディングやミキシングも手掛ける。バンド活動のほか、LiSA、水樹奈々に書き下ろし楽曲を提供するなど、精力的に活動中。

 Recent Work 

『僕は彼女を愛せない』
感覚ピエロ
(JIJI INC.)

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