Max for Liveは、ビジュアル・プログラミング・ソフトCYCLING '74 Maxの開発元であるCYCLING '74と共同で生み出されたプラットフォーム。ソフト音源やプラグイン・エフェクトを独自に作成でき、Liveに付属するほかのツールと併用することも可能です。Live 10 Suiteユーザーの中には“何だか難しそうだな”と思う方も居ることでしょう。まずはその道のプロが作ったMax for Liveを使い倒してみてはいかがでしょうか? Live 10 Suiteには、Max for Live用のPackが20個以上も付属しています。ダウンロードはAbletonのWebページで可能です。ここではPackの中から“音楽制作で使える”Max for Liveデバイスを厳選したので、一挙ご紹介していきましょう。
監修/解説:草間 敬
Live 10 Suite付属 Max for Live Pack その1
Max for Live Essentials
Abletonが、Max for Liveデバイスで特に有用なソフト音源やオーディオ/MIDIエフェクト、オーディオ・データ、MIDIクリップなどをまとめたPack。無料なので、まずはこれを一番最初にインストールするべきでしょう。
Bass [Instrument]
Max for Live Essentialsには、3つのソフト音源があります。Bassはその中の一つで、名前の通りベースに特化したモノフォニックのソフト・シンセ。Oscillatorセクションでは、サイン波/ノコギリ波/矩形波/三角波、そして1オクターブ下に設定された三角波を自由にミックスすることができます。
FilterやMasterセクションに“Drive”や“Distort”といったノブが搭載されているのも印象的。実際に使ってみるとかなり野太く、ブリブリなベース音が鳴らせます。
Poli [Instrument]
ハイパス/ローパス・フィルターや3種類のコーラスなどを内蔵するポリフォニックのソフト・シンセ。Oscillatorセクションには、ノコギリ波、矩形波、1、2オクターブ下で鳴らせる矩形波のほか、リング・モジュレーターやノイズ・ジェネレーターも搭載しています。Live 10 Suite付属のAnalogと比べるとシンプルで、コード弾きなどのバッキングではオールマイティに使えるでしょう。
Multi [Instrument]
6種類のシンセシス・エンジンを一つのデバイスにまとめるという、普通はあまりない珍しいソフト・シンセ。波形を選ぶごとにDepth/Brightness/Feedback/Morphなど、それらに応じた4つのパラメーターが表示されます。
画面右端には、アタック/リリース/ボリュームという常時表示される共通のパラメーターを搭載。とてもユニークなシンセを作れるのもMax for Liveならではだと思います。
Pitch Drop [Audio Effect]
テープやターンテーブルの回転速度を徐々に遅くしていったときに起こるピッチの変化を再現するプラグイン・エフェクト。“Drop Duration”で、音が止まるまでの時間を調整できます。アレンジやライブにおいて、“ここぞ”というところに使うとよいでしょう。
Convolution Reverb [Audio Effect]
コンボリューション・リバーブ・プラグイン。ホールなどで実際に計測したIRデータを元に、リアルな残響音を再現することが可能です。Liveには、元から付属するリバーブ・プラグインのReverbがありますが、僕の場合、初期反射がリアルなリバーブが欲しいときはConvolution Reverb、リバーブのテールを自由にコントロールしたいときはReverb、というように使い分けています。
Buffer Shuffler [Audio Effect]
入力されたオーディオをバッファーに取り込み、各ステップごとにスタッター/ゲート/ピッチ/パンなどのさまざまな効果を付与できる多機能なプラグイン・エフェクト。“手軽にいろいろ遊んでみたい!”という方は、画面最下段中央にある“Dice”ボタンを押してみましょう。サイコロを転がすように、すべてのステップがランダムに変化するので面白いです。
LFO / Device Randomizer / Envelope Follower / Map8 / MultiMap / XY Pad [Audio Effect]
上記6つのデバイスは、Max for Live Essentialsの中にある“Control Devices”というフォルダーに格納されているもの。主にソフト音源や、プラグイン・エフェクトのパラメーターをコントロールすることができます。
まずはLFOから。画面最下段に“Map”と表示されたボタンがありますが、これを押すとボタンの点滅が始まるので、ほかのソフト音源やプラグインのパラメーターをクリックしてみましょう。すると一瞬にしてオートメーションが設定されます。このことをLiveでは“マッピング”と言います。一度マッピングした設定は、右隣にある“X”ボタンで解除が可能です。このMapボタンは、これらControl Devicesすべてに搭載されていて、任意のパラメーターに簡単にアサインすることができます。
LFO
例えば愛用のソフト・シンセにピッチを揺らすパラメーターが無い場合、このマッピング機能を使ってLFOでピッチを揺らすことができます。シンセのモジュレーターを幾つでも増やせるようなもので、汎用性が高いプラグインだと言えますね。
Device Randomizerは、ソフト音源やプラグインのパラメーターを最大30個までランダムに動かすことができ、Autoモードではランダマイズの周期も調整できるプラグイン。そしてEnvelope Followerは、入力されたオーディオ信号のレベルによってマッピングのパラメーターをコントロールできるという、ユニークなプラグインです。アイディア次第では、これらを使っていろいろ面白いことができるでしょう。
Device Randomizer
Envelope Follower
Map8とMultiMapは、マッピングしたパラメーターを操作するためのプラグイン。Map8は8つのMapを搭載し、それぞれを個別にコントロールすることができます。MultiMapは、最大8つまでのMapを1つのノブでまとめて制御可能。それぞれ違うチャンネルにインサートしたプラグインのパラメーターでも、まとめて操作できるのが便利ですね。たくさんのノブを扱うライブの前などに、Map8やMultiMapを用いてしっかり準備しておけば、ミスの少ないパフォーマンスにつなげられるでしょう。
Map8
MultiMap
XY Padは画面を見れば分かる通り、XYパッドを使ってほかのソフト音源やプラグインのパラメーターをコントロールすることができます。
XY Pad
そのほかMax for Live Essentialsの中には、“Control Devices MIDI”というフォルダーがあり、ここで述べたControl Devicesと同じコンセプトのMIDI対応プラグインが格納されています。いずれも地味なプラグインですが、多くのLive 10 Suiteユーザーが“一番よく使う”と言わしめるほど汎用性が高いものばかり。これらによって、音作りの可能性がとても広がるでしょう。
Arp [MIDI Effect]
Live 10のアルペジエイター・プラグインには、全エディションに付属するArpeggiatorがありますが、Arpはそれよりも多機能な16ステップのアルペジエーター・プラグイン。ベロシティや音価の調整だけでなく、ほかのプラグインのパラメーターをコントロールしながらシーケンスすることができます。
MIDIMonitor [MIDI Effect]
入力されたMIDIデータを自動的に文字で表示してくれる便利なプラグイン。上から下に情報が流れていき、今どんなMIDIデータが入ってきたのかをしっかり確認することが可能です。僕はよく、MIDI関連のMax for Liveデバイスを作るときなどに活用しています。
Instant Haus [MIDI Effect]
簡単にハウス・ミュージックのドラム・パターンを生成できるプラグイン。各ドラム・パーツそれぞれにPatternノブを搭載しています。Patternには12種類のリズム・パターンが収録されており、ユーザーはこれらを組み合わせて好きなドラム・パターンを作り出せるのです。ベロシティやスウィングも調整できます。ソフト・サンプラーのDrum Rackに、デフォルト設定のInstant Hausを挿すだけでも、あっという間にハウス系のドラム・パターンが作れます。ぜひいろいろな音色で試してみてください。
Mono Sequencer [MIDI Effect]
最大64ステップまで対応する単音のシーケンサー・プラグイン。ピッチ/ベロシティ/オクターブ/音価/リピート数をレーンごとに設定できます。画面中央にはパターンをランダマイズするrandomボタンも付いているので、偶発的なフレーズ作りにも便利でしょう。
また、生成したパターンをそのまま移調できるTranspose機能も搭載。シーケンスをループをさせ、じわじわと変化を楽しむような人にもお薦めのプラグインです。
Live 10 Suite付属 Max for Live Pack その2
Creative Extensions
サウンド・デザイナー/グリッチ・プロデューサーのアメージング・ノイズ氏とのコラボレーションPack。クリエイティブかつ攻撃的なサウンドで、積極的に変化させるエフェクトが多い印象です。
Color Limiter [Audio Effect]
中央にあるダイアルを使って、半音単位でディレイ音の音高を調整できるプラグイン。Rateではディレイ音の間隔を、Reverseではその音を逆再生する割合を決められます。Pitch Hackは少し変わったピッチ・シフター的エフェクトとしても使えるでしょう。
Gated Delay [Audio Effect]
16ステップのシーケンス・ディレイ・プラグイン。画面最下段に並ぶ各ノブでディレイの音作りが行えます。また画面上段にあるオレンジ色のステップは出力を、水色のステップはリバースするタイミングを設定することが可能です。
Pitch Hack [Audio Effect]
中央にあるダイアルを使って、半音単位でディレイ音の音高を調整できるプラグイン。Rateではディレイ音の間隔を、Reverseではその音を逆再生する割合を決められます。Pitch Hackは少し変わったピッチ・シフター的エフェクトとしても使えるでしょう。
Live 10 Suite付属 Max for Live Pack その3
Stray Cats Collection
良質なMax for Liveデバイスを数多く開発するマックス・フォー・キャッツ氏とSONIC BLOOM、AbletonがコラボレーションしたPack。OBERHEIM SEMにインスパイアされたソフト・シンセのMSEや、シーケンス・プラグインなども含んでいますが、ここではオーディオ・エフェクトの幾つかを紹介します。
Color [Audio Effect]
アナログ・レコードやテープなど、音の劣化をシミュレートするプラグイン・エフェクト。レコード・ノイズ、ヒス・ノイズ、ドライブ、ウォブルなどを付加することができます。
Verbotron [Audio Effect]
本家のMaxにおいて、Juhana Sadeharjuが作成したGigaverbという有名なアルゴリズムがあるのですが、それを利用したリバーブ・プラグイン。現実離れした広がり感や、ものすごくテイルの長い残響音などが作れるので面白いです。
Stochastic Delay [Audio Effect]
“変態的”ディレイ・プラグイン。画面中央下段に見えるサイコロのボタンをそれぞれ押すと、RESOLUTIONとDELAY UNITの比率がランダムに変わるので、面白いパターンを探してみるとよいでしょう。さらに、ディレイ後段には簡易的なリバーブも付いているため、音のなじみは良好です。
Column:奥深きMax for Liveの世界
Live 10 Suiteに付属するMax for Live Packは音楽制作に役立つようなものばかりですが、実はこれだけではありません。ほぼ毎日のように新しいMax for Liveデバイスが、世界中のプログラマーたちの手によって生み出されているのです。彼らが“こんなデバイス作ったよ!”と投稿し合っているWebサイトがこちらmaxforlive.com。このサイトには有償/無償含めて多数のオリジナルMax for Liveデバイスが掲載されています。ここでは、その中から個人的に愛用しているものをご紹介しましょう。
Reface CS Edit
これは僕が最近リリースしたプラグイン。シンセサイザーYAMAHA Reface CSのエディターです。このシンセはプリセットが保存できないので、自分でエディターを作ってみました。画面とReface CS本体のどちらを操作してもOKで、できた音色は画面右上の赤い“Dump”ボタンを押せば.advファイルとして保存可能です。Live 10より本体データの送受信ができるようになったので、Reface CSからのパラメーター読み出しにも対応しています。
LFO-Cluster
日本有数のMax for Liveプログラマー兼サウンド・デザイナーでもある鈴木健太郎氏によるLFOプラグイン。Mapボタンによってほかのプラグインなどに搭載されたパラメーターを最大6つまでコントロールできます。画面中央にある星の軌道運動のようなデザインがユニークです。
Tempo Slide
Tempo Slideは、名前の通りテンポAからBへスライドしてくれるプラグイン。画面左端にある“SET TO”に目的のテンポを設定して画面中央の“START”ボタンを押せば、現在のテンポから最長16小節かけて段階的にテンポを変化させることが可能です。
BIP
BIPとはBounce In Placeの略で、リサンプルの作業をとても楽に行えるプラグインです。アレンジメントビューにあるクリップをセレクトし、このデバイスを1回クリックするだけで、新規トラックを追加して録音までやってくれます。正規版は有償ですが、機能を制限した無償版もあるのでぜひ試してみてください。僕はとても重宝しています!
Cameraad
コロナ禍によりオンライン・ミーティングやレッスンがとても増えた昨今、Liveプロジェクト画面を共有しつつ、カメラの映像を2つ同時に映し出せるプラグイン。とても愛用しています。こちらも無償でダウンロード可能です。
監修/解説
草間 敬
【Profile】アレンジャー/エンジニア/シンセ・プログラマー。AA=、RED ORCA、SEKAI NO OWARI、BIGMAMA、MAN WITH A MISSIONなどの作品やライブに携わる。Ableton認定トレーナー。
【Recent Work】
Live 10 Suite 製品情報
ABLETON Live 10 Suite
80,800円(税込)
関連記事