エンジニアのToshihiko Kasai(葛西敏彦)が声を掛けたのは、アンビエントからポップスまで手掛けるシンガー・ソングライターのTakuro Okadaと、インスタレーションなどへの楽曲提供を行う音楽家のYuma Koda。この3人が作り上げた楽曲「To Waters of Lethe」は、ピアノやマンドリンなどを用いた幻想的なアブストラクト作品となった。
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Amazon Music Unlimited - 葛西敏彦, 香田悠真 & 岡田拓郎 『To Waters of Lethe (BINAURAL)』
360 by deezerでもお楽しみいただけます。
【動画】Okada Takuro, Kasai Toshihiko, Yuma Koda × 360 Reality Audio
【動画】360 Reality Audio × Kasai Toshihiko(葛西敏彦)
水のように流動的に変わっていく構成の音楽
「一番に思い浮かんだのがOkada君とKoda君でした。立体音響をテーマにしたときに一緒にやってくれそうな2人を選んだんです」と話すのは葛西氏。今回の企画に参加するにあたって、Kodaはこのように考えたという。
「これまでにも、立体音響にはかかわったことがあったのですが、ともすればアトラクションチックに陥りがちで音楽性が削がれてしまうことに悩みがありました。しかし、今回のメンバーとなら心配無く作り込めそうだと思ったんです」
楽曲の構成について、Okadaはこう話す。
「楽器には、ピアノやアコギ、12弦ギター、マンドリン、クラリネット、シンセ、ベルやシンバルといったパーカッション、アコーディオン、バイオリン、チェロなどに、水の音を使っています。最初から“360 Reality Audioの音像を生かせるような曲を作りたいね”と3人で話していましたね」
コード進行やメロディ・ラインは、Kodaが作ったのだそう。
「音楽性を損なわずに360 Reality Audioの楽曲をつくるには、和声の流れと立体感のリンクが大事だと思ったんです。水のように、流動的に変わっていく構造を持った音楽にしようと考えました」
楽曲のキーワードは“水”だとOkadaが続ける。
「水は“いろいろなものに変容する”というイメージがあります。このことを音楽の聴取によって聴き手に想起させるには、360 Reality Audioが持つ独特の音像がピッタリなんじゃないかなと思ったんです」
葛西氏は、楽曲のレコーディングについて説明してくれた。
「最初は少ない音数の曲を想定していたので、Ambisonicsでの録音をしていたんですが、制作が進むにつれてあまり適さないと思い、モノラル・マイクとステレオ・マイクを併用しての録音に切り替えました。点が多い音楽性になったので、この方が楽曲に適していると判断したんです」
素材は程良い距離で録るのがポイント
録音時のポイントはマイクとの距離だと葛西氏は言う。
「360 WalkMix Creator™で距離感をコントロールするために、遠過ぎず近過ぎず、程良いところで録音しました。楽器の音量感に応じて変わりますが、具体的には1mを基準に±50cmくらい。離れて録った音は、360 WalkMix Creator™上で近付けても遠い音のままなので、最終的な音の距離感をイメージしながら録音することが大事ですね」
葛西氏はモノラル・マイクとステレオ・マイクを同時に立てて収録したというが、そのメリットについてはこう語る。
「ステレオ・マイクで録ると音源によっては若干質量が足りないように感じるときがあるんです。そんなときに、モノラル成分を足すことで、特に中低域の量感をEQとはまた違った感じでコントロールできます」
ACOUSTIC FIELD久保二朗氏の協力の下、スタジオには8chキューブ・システム(上層4ch+下層4ch)を構築し、AVID Pro Toolsでミックスしたのだそう。
「まずはスタジオのデフォルト仕様でもある2.1ch環境で作業し、ある程度2ミックスとしてまとめました。そこから8chキューブに移行したんです。僕の立体音響作品の制作では8chキューブを基本システムとしています。それと同時にHPL(バイノーラル)化して、ヘッドホンでも交互にモニタリングしていたんです」
ミックスではイマーシブ・サウンド制作プラグインのNOVONOTES 3DX Standardを使い、8chキューブの設定にしてパンニングやオートメーションなどを整えた。最終的には360 WalkMix Creator™内で8つのオブジェクトを8chキューブと同じ立方体になるように配置して微調整を行ったという葛西氏だが、大事なのは“ステレオ・ミックスをしっかり作り込むこと”だと説明する。
「ステレオ環境ではスペースが限られているので、周波数帯域のカブリを無くしたり、パンニングしたりする作業が必要ですよね。これがしっかりできていれば、イマーシブ・ミックスのときはそのステムを立体的に散らしていくだけなので楽なんです。つまり、一般リスナーはバイノーラル化された音源を聴くわけなので、そのときにステレオ・ミックスがきちんとなされた音源なら、イマーシブ・ミックスをバイノーラル処理してもすっきりとした音像になるわけです」
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