Michael Kanekoが所属するorigami PRODUCTIONSから「Michaelのバイノーラル収録をRITTOR BASEで行うので、見に来ませんか?」とお誘いいただいた。通常の音楽ライブ番組収録と恐らく異なるであろうスタイルにも興味を持ち、現場に伺うことにした。
画と一致するサウンドをその場でバイノーラル・ミックス
番組はBSやケーブルテレビなどで放映している『WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽 』(運営:WOWOWプラス)のオリジナル企画『WOW!iSM』。放送、配信とメディアを跨いで展開しているスタジオライブ・シリーズ「WOW!iSM―L!VE― from RITTOR BASE」には、これまでKenta Dedachi 、川崎鷹也、Anly、フレンズが出演してきた
収録現場に着いて驚いたのは、近藤邦彦(k)、多田尚人(b)、松浦大樹(ds)をメンバーに迎えたバンド・セットだということ。RITTOR BASEはサンレコでも多数のイベントを行ってきた自社スペースなのでその規模感は分かっていたが、フロアいっぱいにバンドの楽器とカメラが並ぶ姿は圧巻だ。
そして、事前に「バイノーラル」と聞いていた録音は、なんとその場での2ミックス収録。エンジニアの溝口紘美氏は、メイン・コンソールALLEN&HEATH SQ-5でモニター・ミックスを作りながら、放送用のメイン・ミックスを手掛ける。
「バイノーラル」というとダミーヘッド・マイクでのワンポイント収録をイメージする人がまだ多いだろうが、「WOW!iSM―L!VE―」での録音手法は全く異なる。電子音楽家のKatsuhiro ChibaがRITTOR BASE用に制作したリバーブ・エンジンCubic Chiverbでイマーシブなリバーブを付加。ACOUSTIC FIELDがRITTOR BASE用にカスタマイズしたHPL(Headphone Listening)システムでバイノーラルにエンコードし、コンソールでまとめたサウンドを、ZOOM F6Nに録音する。
演奏者も、モニターにヘッドフォン/イアフォンを使用。外音として聴こえるのは、ドラム、アンプ類のみで、その中でかすかにMichael Kanekoの生声が聴こえる。もちろん関係スタッフはヘッドフォンやイアフォンで録音される音=放送されるバイノーラル・ミックスを確認。リハ中にその音を聴かせてもらうと、目の前のバンドが演奏しているさまがそのまま音となっているように感じられる。何度も足を運んでいるRITTOR BASEの音場はよく理解しているつもりだが、それと全く違和感が無い。これこそが「WOWiSM−L!VE」でバイノーラル放送を行っている理由なのだということを実感した。
藤原さくら&さらさをゲストに迎えた収録
本番は、6月29日にリリースされたMichael Kanekoのコラボレーション・アルバム『The Neighborhood』の楽曲を中心に展開。アルバム同様、藤原さくらをゲストに「DRIVEAWAY」を、さらさをゲストに「SHIGURE」を披露した豪華なものとなった。
Michaelのそよ風のような歌声と熱っぽいギター、それを支えるバンドとの丁々発止に、思わず時間を忘れて演奏に見入ってしまう。通常のテレビ・スタジオでの収録よりもグッと近い位置で演奏しているので、お互いにコンタクトが取りやすいことも奏功しているのだろう。最後はMichaelのアコギ弾き語りでしっとりと幕を下ろした。
昨今ではASMRの流行もあって、バイノーラル・サウンドが脚光を浴びるようになった。しかし、頭の周りを回る、耳元でささやくといったギミック的な使われ方が注目されがちだ。音楽の中でも、テレビ放送でライブ演奏を見せるものであれば、少なくとも音楽的なバランスがきちんと取れた上で、臨場感を演出するべきだろう。
その点、「WOW!iSM―L!VE―」での試みは、ライブ演奏を、その演奏している場で見ているような臨場感、あるいは没入感を目指したものだと感じられる。だからといって、そのために必ずしも実際の空間で鳴っている響きそのものをマイクでとらえる必要はない。視聴者が望むのは「あたかもその場で演奏しているような音」だ。バイノーラル技術を使い、ステレオ放送でそんなサウンドを届けようとする「WOW!iSM―L!VE―」、Michael Kaneko登場回は9月5日23時〜OAとなる。ぜひご覧いただき、Michaelの美しい歌声と、ゲストとのやり取り、バンドのインタープレイを楽しんでもらいたい。