注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店が語り合う本連載。今回はANTELOPE AUDIO Zen Go Synergy Coreを紹介する。同社初のバス・パワー駆動対応のデスクトップ型オーディオ・インターフェースで、上位モデルと同じくAFCテクノロジーやSynergy Core、ディスクリート・マイクプリを搭載。これまで培った技術を惜しみなく注ぎ込んでいる。Antelope Audio Japanの小長谷成希氏、Rock oN Companyの安田都夢氏にZen Go Synergy Coreの魅力を語っていただいた。
Photo:Takashi Yashima(メイン)
Zen Go Synergy Core
56,000円
ANTELOPE AUDIO初となるバス・パワー駆動に対応したデスクトップ型オーディオ・インターフェース。4イン/8アウトで、同社が誇るクロック・テクノロジー、AFC(Acoustically Focused Clocking)を搭載する。また、FPGAとDSPを統合したSynergy Coreにより、各チャンネルでリアルタイム・エフェクトを使用可能。ニアゼロ・レイテンシーでのモニタリングで、エフェクトのかけ録りなどができる。
●Zen Go Synergy Coreはどういった理由から誕生したのでしょうか?
小長谷 “安くて簡単なものが欲しい”という意見が以前からすごく多く、それを踏まえて開発されたのがDiscrete 4でした。しかし、Discrete 4が出た後も“もっと安いモデルを”という声があり、より手に入れやすい価格のモデルを開発することになりました。それがZen Go Synergy Coreです。
安田 Zen Go Synergy Coreは価格だけでなく、コンパクトで持ち運びができるのが大きなメリットですね。
●ANTELOPE AUDIO初のバス・パワー駆動も持ち運びのしやすさに寄与していると思います。リア・パネルにはUSB-C端子が2つありますね。
小長谷 一つはコンピューター接続用、もう一つは給電用になっています。Zen Go Synergy Coreはスタンドアローンでも動作するので、市販のモバイル・バッテリーや充電器で給電して使うことが可能です。また、サポート外ではありますが、タブレットなどモバイル・デバイスと接続することもでき、APPLE iPad Proでの動作は確認されています。これまでオーディオ・インターフェースをモバイル・デバイスで使うときに問題だったのが、接続端子が1つしか無いことでした。Zen Go Synergy Coreでは、給電用USB端子を使って本体の駆動ができ、接続したモバイル・デバイス側への給電も可能です。
●出先での作業が多い方には重宝される機能ですね。
小長谷 フィールド・レコーディングや、動画撮影時の音声録音をされる方などから“ANTELOPE AUDIO製品を持ち回って使いたい”という声はいただいていました。Discrete 4などは18Vの電源が必要となるため、バッテリーを使おうとすると業務用くらいしかありません。市販のモバイル・バッテリーで駆動できるのはメリットでしょう。また、ANTELOPE AUDIOの省電力設計は世界でもトップ・クラスと言えるため、モバイル・バッテリー駆動でも長時間の動作が見込めます。
●価格とサイズにより、多くの人が手に入れやすいモデルとなりましたが、扱いやすさを考慮したインターフェース設計などはされていますか?
小長谷 当初は難しいことは一切できなくして、ソフトウェア・ミキサーでのルーティングも必要無いようなインターフェース設計が考えられていましたが、そうすると製品の魅力が半減してしまいます。ですので、サイズをコンパクトにして価格を抑えつつも、世界のプロの現場で採用されてきている上位機種と変わりない設計となりました。
安田 本体でのコントロールはエンコーダーと3つのボタンと、とてもシンプルです。持ち回って使うには良さそうですね。
●イン/アウトのルーティングを行うソフトウェア・ミキサーですが、今回はループバック機能が備わったようですね。
小長谷 コロナ禍で問い合わせが多かったのが、配信でのループバックについてです。通常だと、コンピューターに仮想ドライバーを入れ、ANTELOPE AUDIOのソフトウェア・ミキサーでのルーティングを行うことでループバックが可能で、これは今までの製品でも行えました。しかし、ユーザーが自分でそれらを理解して設定する必要があるため、分かりやすくループバック・チャンネルを用意したわけです。
●内蔵のマイクプリはどのような特徴を持っていますか?
小長谷 Zen Go Synergy Coreにはディスクリート・マイクプリが2基備わっています。このマイクプリのコンセプトはビンテージなオールラウンド。NEVEやAPIといったマイクプリの良いところを、さらに現代的にアレンジしたようなイメージです。例えばNEVEのマイクプリでは、高域が伸びつつ倍音が加わることによる“汚れ”が生まれます。その汚れが無く、クリーンに高域まで伸びるのが特徴です。
安田 奇麗に録れるマイクプリで現代の制作にマッチしていると思いますね。ANTELOPE AUDIOをはじめ、各社のオーディオ・インターフェースのマイクプリ性能が良くなっているので、最近はわざわざ外部マイクプリを通さない方が良い結果になることもあるような気がしています。
●ANTELOPE AUDIOはクロックも高い評価を得ています。Zen Go Synergy Coreに搭載されているAFCテクノロジーについて、あらためて教えてください。
小長谷 AFCとはジッター・マネジメントのテクノロジーです。クロックでは絶対に精度の話が出てきますよね? しかし、ANTELOPE AUDIOは精度ばかりを重要視しているのではありません。もちろん、精度を突き詰めるのは良いことですし、デジタル・オーディオとしては当たり前のこと。ただ、ANTELOPE AUDIOは精度だけを良くしていっても音は良くならないと知っています。一定の精度まで実現できたら、ジッターのコントロールが重要になってくるんです。AFCではジッターを完全に修正するのではなく、変調を利用してジッター量をコントロールし、簡単に言うとアバウトさを残すことで音楽的な音になる、という考えです。
安田 面白い考え方ですよね。確かに、精度は突き詰めるのではなく少しアバウトさがある方が音楽的になるというのは分かる気がします。
小長谷 開発者は数値でなく、最終的に耳で聴いて良い音かどうかを大切にしているんです。
●FPGAとDSPを組み合わせたSynergy Coreも搭載し、リアルタイム・エフェクトにも対応しています。
小長谷 Zen Go Synergy Coreには37種類のエフェクトが付属しています。Synergy Coreによって、レイテンシー無しでエフェクト音をモニターしながらかけ録りすることができるんです。
●ソフトウェア・ミキサー上でチャンネルにインサートして録音時に使うという形になるわけですね。
小長谷 そもそもリアルタイム・エフェクトは、オーディオ・インターフェース内にチャンネル・ストリップを形成するということがメインです。DAWで使うプラグインは、既にみなさん良いものをお持ちだったりしますので。また、DSPエフェクトは他社も作っていますが、ANTELOPE AUDIOではFPGAを併用することでDSP単体よりもレイテンシー無くエフェクトを使ったレコーディングが可能になります。入力に対する反応速度は桁違いと言えるでしょう。Synergy Coreのエフェクトはインプットで一番威力を発揮するんです。
安田 エフェクトの種類も豪華になってきましたね。アンプ・シミュレーターもあり、それをループバックを使って配信できるのが面白い。今後の使われ方が気になります。
小長谷 実機エミュレーション系のエフェクトはちょっと癖が強いラインナップになっています。日本ではあまりなじみが無いものが多いです。一応マニュアルはありますが、ANTELOPE AUDIOとしては“チャンネル・ストリップはこういう構成です”とか“ボーカルにはこのエフェクトを使ってこういうパラメーターで”という解説は全くしていません。やはりターゲットがプロシューマーであるため、あえて行っていないのだと思います。“我々はこれらを用意したから、使うのはあなた次第ですよ”というスタンスを保っているのでしょう。
●ターゲットを明確にして開発を行うことが、製品のクオリティの高さにつながっているのかもしれません。
小長谷 スタジオ・クオリティの音と自由度の高いルーティングなどは上位機種と変わらず、自宅や出先でもスタジオとそん色ない環境で作業ができる製品に仕上がりました。また、楽器プレイヤーの方にもお薦めですね。ギタリストの中には、ハードウェアのアンプ・シミュレーターをオーディオ・インターフェース代わりに使っていらっしゃる方も多く居ます。Zen Go Synergy Coreとリアルタイム・エフェクトでドライ音とウェット音を同時に録り、後からプラグインで調整するなど、制作システムを少し複雑にしたいという人にもぜひ使っていただきたいです。
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