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瀧口博達 × AMPHION One18 〜音職人の「道具」第11回

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一流のプロが制作手法や愛用機材を語る本コーナー。今回登場していただくのは、米津玄師や西野カナなど、多くのアーティスト作品を手掛けてきたマスタリング・エンジニア、瀧口博達氏だ。Warner Music Masteringと軒を連ねる氏のプライベート・スタジオ=Tucky's Masteringでは、ニアフィールド・モニター・システムとしてAMPHIONのOne18(2ウェイ・パッシブ型)+Amp100 Monoが採用されている。こだわり抜いたプライベート・スタジオにAMPHIONを導入した経緯や、マスタリングで使う上でのメリットも含め、詳しく話を聞いた。

Photo:Takashi Yashima

 

音職人・瀧口博達の「道具」
AMPHION One18

One18はナチュラルで粒立ちの良いサウンドです ー瀧口博達

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 フィンランドのメーカー、AMPHIONによる2ウェイ・パッシブ・モニター・スピーカーのOne18。6.5インチ径のアルミニウム製ミッドレンジ/ウーファー、1インチ径のチタニウム製ツィーターを装備しており、自然かつ透明なサウンドとレスポンスの良さを目指して製作されている。瀧口氏はパワー・アンプとして同社のAmp100 Monoを採用。また、One18はインシュレーターのDMSD 60Proを使ってスタンドへ設置されている。

 

One18は抜けが良く奥行き感もあり
余計なEQ処理をせずに済む

 1983年に日本ビクターへ入社し、以降JVCカッティングセンター(現JVCマスタリングセンター)、parasight masteringを経て、現在は自身のスタジオTucky's Masteringで活動するマスタリング・エンジニアの瀧口博達氏。業界歴は38年にもおよび、これまでに数多くの作品のマスタリングを手掛けてきた。Tucky's Masteringは2019年に設立され、瀧口氏の初めてのプライベート・スタジオということでルーム・アコースティックから電源トランス、ケーブル、アウトボードなど、細部に至るまでこだわり抜いた空間になっている。

 

 「スタジオができてからも少しずつ機材面のブラッシュアップをしています。一番大きな変更点はラージ・モニターのパワー・アンプをAMPHION Amp500 Mono(編注:生産完了)にしたこと。以前と比べ、低域が抜けてきてクリアな印象になりました。ガラッと景色が変わったような感じです。現代の音楽では低域のスピード感は重要ですからね」

 

 音を扱う上で欠かせないスピーカー。瀧口氏はニアフィールド・モニター・システムにもAMPHIONを導入し、スタジオ設立時から愛用してきた。スピーカーがOne18、パワー・アンプがAmp100 Monoという組み合わせだ。AMPHIONを選んだ理由を振り返ってもらった。

 

 「各社のニアフィールド・モニターを聴き比べたのですが、やはりほとんどはパワード・スピーカーでした。個人的にはパワード・スピーカーの音の癖が気になってしまうので、パッシブが好みなんです。そこでOne18を試してみたところ、本当にナチュラルな音で驚きました。楽器の響きにリアリティがあり、奥行きも感じられる。それらは僕がスピーカーで重視しているポイントなんです。ラージ・モニターにAmp500 Monoを入れた結果が良かったので、One18の方も現行製品のAmp700にしてみるのもありですね。余裕を持って駆動させることで、より音色のリアリティさが出てくるのではないかと思っています」

 

 Tucky's Mastering設立前は他社のニアフィールド・モニターを使っていた瀧口氏。AMPHIONに変えたことは、マスタリング作業へどのような影響を与えたのだろう?

 

 「例えば、モニターする音がくすんでしまっていれば、高域を余計に持ち上げてしまいます。One18のように最初から抜けが良くて奥行き感もある音を再生できていれば、余計なEQをすることも少なくなるわけです。その土台があった上で、クライアントの好みに合わせてもうちょっと低域を出すなどの引き出しを準備できます。また、音圧を目一杯大きくする必要があったとしても、しっかりと奥行きがある音を求めていけるんです」

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Tucky's Masteringのスタジオ内。ラージ・モニターにはPMC MB2を使っており、その手前内側にOne18が並ぶ。デスクには、ABENDROT Everest 701やDANGEROUS MUSIC Bax EQ、BETTERMAKER EQ 232P MKII、MASELEC MEA-2、API 5500、CURRENT CSP150A、MERGING Hapi、VERTIGO SOUND VSC-3、MASELEC MTC-1X がマウントされている

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One18を駆動するためのパワー・アンプ、AMPHION Amp100 Mono(生産完了品)。ステレオ・アンプで各チャンネルへ100Wを出力する。ラージ・モニターのPMC MB2もAMPHIONのパワー・アンプ、Amp500 Mono(生産完了品)で駆動させている

電源トランスやケーブルなど
ちょっとの積み重ねが良い音へつながる

 One18はインシュレーターのDMSD 60Proを使ってスピーカー・スタンドへ設置されている。One18の性能をさらに高めてくれるアイテムだという。

 

 「parasight masteringのときに初めて使い、それからDMSDのファンなんです。低域が自然に締まってくれて、音がグッと前に出てくるようになります」

 

 Tucky's Masteringでは、出水電器によるカスタム電源トランスによって240Vの電源が引き込まれている。ケーブルをトランスに直付けし、純度の高い電源を確保したこともOne18の音に良い効果をもたらしているようだ。

 

 「モニター・スピーカーを含め、スタジオの機材たちは電源やケーブルを変えるだけで音も変化しますし、できるだけ良い音を出してあげたいんです。機材たちが持つ本来の音を引き出すため、カスタム電源トランスやケーブルにもこだわりました。これからもいろいろと試して、楽器が持つサウンドを自然に再生できる音を突き詰めていきたいですね」

 

 ここで瀧口氏にマスタリングについての話も聞いてみた。CDからストリーミングが主流の世の中になり、音圧に対する考え方は変わってきたが、現場ではどのような要望を受けるのだろうか? 「“もっと音圧を”と言う方はほどんど居なくなりました」と瀧口氏は語る。

 

 「ストリーミング・サービスのノーマライズ機能をオフにすれば問題ありませんが、ほとんどの方がオンの状態で聴かれていると思います。そう考えると、やはり音圧を上げ過ぎるのは得策ではありません。とはいえ、クライアントの希望もありますし、CD用に高めの音圧にしたもの、ストリーミング用に音圧を抑えたものの2種類を提案することはあります」

 

 ストリーミング・サービスで望まぬリミッティングをされないためには、マキシマイザーなどで音を突っ込み過ぎないことも大切。だが、近年ではラウドネスを考えた曲構成をしている作品も多いと瀧口氏は言う。

 

 「R&Bやヒップホップでは、曲の最初には低域が全然無いけれど、サビではすごく太いベースが入ってくるなどの構成になっている作品が見受けられます。ラウドネスは平均値ですから、そのようにバランスを考えた作りにしているわけです。低域と高域の配置を意識することで、全体として大きく聴こえるように仕上げられます」 

 

Selected Works

『アイラヴユー』
SUPER BEAVER
(ソニー・ミュージックレコーズ)

 SUPER BEAVERのメジャー再契約後初となるアルバム。バンド・サウンドがあたかも目の前で奏でられている雰囲気を、最大限引き出せるようにマスタリングしました。

 

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『1ST』
SixTONES
(SME)

 枠に収まり切れないSixTONESの魅力と、ジャンルを超えた楽曲の魅力を力強くかつ繊細に、そして楽曲が輝きつつも統一感が出るように仕上げています。

 

『田中将大』
ももいろクローバーZ
(キングレコード)

 田中将大投手へ贈った歴代応援歌を収録したアルバム。楽しく元気と勢いが出る雰囲気と、今のメンバーの大人の魅力を掛け合わせ、余すところなく引き出しました。

 

サブウーファーが無くとも低域が見えやすい
自宅制作にもAMPHIONはお薦めできる

 自身でミックスからマスタリングまで手掛けるクリエイターも多い。自宅環境でのマスタリングで気を付けるべきこととは何だろうか?

 

 「部屋の環境によって、中高域は出ているけど低域が出過ぎている、もしくは出ていないという状況になっている人は多いでしょう。スペクトラム・アナライザーなどで視覚的にチェックすることもできますが、やはり体感で得る情報で判断できるのがベストです。壁とスピーカーの距離を調整する、吸音材などを設置する、サブウーファーを導入するなどの努力は大切だと思いますね。リファレンスがしっかり聴ける状況でないと、余計なEQやコンプをかけてしまうことにつながります」

 

 リファレンスとなる音を再生できる環境を構築することが、良いミックスとマスタリングを実現するのに欠かせないと言う瀧口氏。その近道の一つとして、AMPHIONのスピーカーはお薦めできると語る。

 

 「Tucky's Masteringでは、One18と壁との間にかなり距離があるため、低域は控えめに聴こえていますが、自宅の環境ではより壁と近い距離に置くことになると思いますし、サブウーファーが無くとも低域がしっかりと感じられるでしょう。音作りはもちろん、ミックスにおいてはそれぞれの楽器の奥行きが見え、定位の判断もしやすくなると思います。One18のナチュラルで粒立ちの良いサウンドは、自宅制作環境でも生きてくるはずです」

 

AMPHION 製品情報

www.mixwave.co.jp

 

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