横浜ReNY β|音響設備ファイル【Vol.93】

横浜ReNY β|音響設備ファイル【Vol.93】

野球場や大型アリーナ、大型ホール、劇場を擁し、日常の中にエンターテインメントがあふれている神奈川県横浜市。中でも官庁やオフィス・ビルが集まる関内駅周辺は、歴史ある街並みやベイ・エリアなど見どころに恵まれ、同市の中心地区としてふさわしいにぎわいを見せている。そんな関内駅から徒歩1分の複合ビルの1階に、新しいライブ・スペース横浜ReNY βが誕生した。早速訪ねてみよう。

複合ビルのテナントゆえの徹底した遮音 ReNY αで好評だった大型LED画面も導入

 横浜ReNY βは、RUIDO、ReNY、SHIBUYA REXなどを展開するRUIDOグループ系列の新しいお店。ReNYブランドを冠したライブ・スペースとしては、新宿、赤羽、名古屋に次ぐ4店舗目だ。フロアの収容人数は400人。8月4日のグランド・オープン公演には清春が出演し、横浜の新しい音楽スポットの門出を華々しく彩った。RUIDOグループの次なる拠点として、なぜ横浜の街が選ばれたのか。運営を担当するアズミックスの総括マネージャー、上野賢次に尋ねた。

 「再開発が進んだ横浜は、かねてから出店候補地でした。ただReNYブランドは“照明も音響もハイクオリティなエンタメ・ライブ・ハウス”がコンセプト。それを実現するための天高があり、照明映えするような場所に出会えなかったんです。今回それが見つかり、出店できました」

 建築音響設計を担当したのは、アコースティックエンジニアリング代表の入交研一郎。音響/照明設備のプロデュースはセカンドステージ所属の榎本玄輝だ。どちらもRUIDO系列のライブ・ハウスを何度も手掛けている。入交は「ほかの店舗に比べると厳しい条件のテナントでした」と苦笑した。

 「上の階は静かな事務所で、階下はシミュレーション・ゴルフの店舗。だから天井を二重で遮音するなど、遮音はほぼフル・スペックです。また、400人収容というのは決まっていたので、音響機材もパワーがあるものを導入することが予想されました。となれば、遮音性能が低いと結局ローカットをする必要が生じたりして、システム本来の音が出せなくなる。そういった意味では条件的に厳しいテナントでしたね」

 そんな逆風を跳ね除けて、オープンにこぎ着けた横浜ReNY β。機材システム面で店側からどんなオーダーがあったのかを榎本に聞けば、「特になかったんです」との答えが。

 「信頼してくださっているのか、これまでRUIDOグループ社長の落合(壽年)さんから要望をいただいたことはありません。ただ、落合さんは奇をてらったものや派手なものが好き(笑)。だからいつも、“ほかにないものを”と考えています」

 入交もうなずきながら、こう続けた。

 「それが落合さんから僕らに対してのオーダーだと思いますよ。今回のは、フロアの壁にマルチカラーのLEDストリップを埋め込むデザインをしており、榎本さんが“演出として使えるようにしたら面白いんじゃ?”とアイディアを出してくれて、ライティング・コンソールで制御できるようにしたんです」

 ReNYといえば、赤羽ReNY αのステージ背面に設置された250インチのLEDビジョンがシンボリック。個性的な演出ができると評判が高いこの設備はHARAJUKU RUIDOに踏襲され、今回の横浜ReNY βでもひと際の存在感を放っている。ステージ背面の幅4,000mm×高さ2,500mmのスクリーンを中心に、さらに両サイドに幅2,000mm×高さ2,500mmのスクリーンを設置しているというから圧巻だ。

 「ライブ中に歌詞を表示させるなど、さまざまな演出に使っています。映像を駆使してライブをしたいという声は高まっており、そこは時代にマッチしている部分だと思いますね」

ステージ背面に幅4,000×高さ2,500mm、両サイドに幅2,000×高さ2,500mmのLEDビジョンを設置。個性的な演出を可能にする、店のウリの1つだ

ステージ背面に幅4,000×高さ2,500mm、両サイドに幅2,000×高さ2,500mmのLEDビジョンを設置。個性的な演出を可能にする、店のウリの1つだ

フロア壁に埋め込んだLEDストリップ(線のように見えるところ)は、照明卓で制御して演出に利用可能

フロア壁に埋め込んだLEDストリップ(線のように見えるところ)は、照明卓で制御して演出に利用可能

 上野がそう自信をのぞかせる一方で、少し気になるのが音響面だろう。反響によりステージの中音(ナカオト)が濁るようなことはないのだろうか。入交が補足する。

 「他店舗の実績から中音に問題がないことは分かっていました。ガラスやアクリルのような保護パネルが張られていたらまた変わりますが、LEDビジョンのテクスチャー自体はそれほど反射がキツいわけでもなく、若干の吸音性があるとみています。ステージ内の吸音材は、ほぼ天井だけですよ」

系列店での実績と現代的なニーズへの対応 そこから逆算して導入を決めた音響システム

 音響機材も見ていこう。「ReNYブランドのお店の出演者は、ノン・ジャンルでハイエンドなイメージ。だから色付けがなく、弾いた音が素直にフロアに届く空間を目指しました。特定ジャンルに特化した“昔っぽい”ライブ・ハウスというより、現代的でニュートラルな音環境です」とは入交の弁。具体的には、フロアは少しドライな音響に仕上げたとのこと。この音響を生かすべく榎本が選んだのは、L-ACOUSTICS 115XT HiQとサブウーファーSB18IIiから成るスピーカー・システムだ。115XT HiQは片側3基ずつフライングし、SB18IIiはステージ下に埋め込んだ。ステージは2重でコンクリートを打つなど、低域の回り込み対策を徹底している。榎本が言う。

 「系列店にL-ACOUSTICSのスピーカーを導入している店が多く、知見があるので第一チョイスでした。さらに“視界を邪魔しないもの”と考えて、115XT HiQを導入しています」

メイン・スピーカーのL-ACOUSTICS 115XT HiQは、片側に3基ずつフライング。系列店のHARAJUKU RUIDOにも導入したモデルで、出音の奇麗さと客席からの視界を邪魔しないサイズが採用理由

メイン・スピーカーのL-ACOUSTICS 115XT HiQは、片側に3基ずつフライング。系列店のHARAJUKU RUIDOにも導入したモデルで、出音の奇麗さと客席からの視界を邪魔しないサイズが採用理由

ステージ床下に埋め込まれたサブウーファーのL-ACOUSTICS SB18IIi。ウーファーを埋め込むためにステージに二重でコンクリートを打つなど、低域の回り込み対策も行った

ステージ床下に埋め込まれたサブウーファーのL-ACOUSTICS SB18IIi。ウーファーを埋め込むためにステージに二重でコンクリートを打つなど、低域の回り込み対策も行った

サイド・フィルとしてステージ両脇にセットされたELECTRO-VOICE SX300

サイド・フィルとしてステージ両脇にセットされたELECTRO-VOICE SX300

ウェッジ・モニターのELECTRO-VOICE TX1152FM

ウェッジ・モニターのELECTRO-VOICE TX1152FM

 FOHをのぞき込めば、そこに鎮座するのはデジタルPAコンソールのYAMAHA QL5。こちらも榎本が説明してくれた。

 「乗り込みPAが誰でも使えることは重要。また、最近の傾向として、この規模の店でもイヤモニを使う方が多かったり、数多くのチャンネルを使いたいという要望もあるんです。となると、自ずと出力が豊富なデジタル卓になりました」

PAコンソールはYAMAHAのデジタル・ミキサーQL5。“誰が乗り込みで来ても使えること”“演者のさまざまなオーダーに応えられること”“サウンドに癖がないこと”を理由に採用された。ブース内はアウトボードを使わないシンプルなレイアウト

PAコンソールはYAMAHAのデジタル・ミキサーQL5。“誰が乗り込みで来ても使えること”“演者のさまざまなオーダーに応えられること”“サウンドに癖がないこと”を理由に採用された。ブース内はアウトボードを使わないシンプルなレイアウト

パワー・アンプ類がまとめられたラック。左のラックにCROWN XLS 1502を4基、右のラックにPOWERSOFT T604を3基収納。右のラック下にはQL5につながるDante対応I/OラックYAMAHA Tio1608-D2×2もセット

パワー・アンプ類がまとめられたラック。左のラックにCROWN XLS 1502を4基、右のラックにPOWERSOFT T604を3基収納。右のラック下にはQL5につながるDante対応I/OラックYAMAHA Tio1608-D2×2もセット

照明&映像セクションは、ライティング・コンソールのAVOLITES Tiger Touch II(奧)と、その拡張フェーダーのTiger Touch Fader Wing(手前)が中心。Tiger Touch Fader Wingの上にはDMX512コントローラーのDMX-48 Light Consoleも用意

照明&映像セクションは、ライティング・コンソールのAVOLITES Tiger Touch II(奧)と、その拡張フェーダーのTiger Touch Fader Wing(手前)が中心。Tiger Touch Fader Wingの上にはDMX512コントローラーのDMX-48 Light Consoleも用意

 PA機器のセレクトについて、榎本も「店の規模感とベスト・マッチのシステム」と手応えを感じている。

 「オーバー・スペックで機材のポテンシャルを生かせないケースもあり、その見極めも重要。115XT HiQは奇麗な音が出るスピーカーですし、QL5も癖がなく、素の音を解像度高く届けられる。シンプルさも含めて、現代的なシステムです」

 演者のニーズへの対応も含め、多店舗運営ならではの経験値が生かされた横浜ReNY β。上野に展望を聞いた。

 「歴史あるライブ・ハウスが多い横浜ですが、現代的なシステムを備えたハコは実は少ない。“ハイスペックな演出ができる店”として認知され、地元ミュージシャンが東京に出ずとも大きくなれる環境を作れたらいいですね。この街でそれが実現できたら、同店の知見を元に弊社のライブ・ハウス事業のグローバルな展望も開けていくと期待しているんです」

取材に協力いただいた方々。左から、施工を担当したアコースティックエンジニアリングの入交研一郎、音響/照明設備をプロデュースしたセカンドステージの榎本玄輝、運営会社アズミックスの総括マネージャー上野賢次、アコースティックエンジニアリングの磯部雅彦

取材に協力いただいた方々。左から、施工を担当したアコースティックエンジニアリングの入交研一郎、音響/照明設備をプロデュースしたセカンドステージの榎本玄輝、運営会社アズミックスの総括マネージャー上野賢次、アコースティックエンジニアリングの磯部雅彦

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