2022年6月に設立26周年を迎えた仙台のライブ・ハウスMACANA。その姉妹店として、8月5日にグランド・オープンしたのがROCKATERIA(ロッカテリア)だ。サンレコ的な目玉は、フロア向けに用意されたVUE AUDIOTECHNIKのラインアレイ・スピーカー・システム。導入の理由や使用感を中心にレポートしていこう。
コンパクトかつ十分な遠達性のラインアレイ
ROCKATERIAは、仙台駅より徒歩15〜20分、青葉通一番町駅から徒歩2分の繁華街に位置している。入居中のビルには2019年末まで別のライブ・ハウスが入っていたが、その内装を生かしつつリノベーション。キャパシティは、通常250人のMACANAよりややコンパクトな200人となっている。「規模からして、インディーズ・アーティストの方々にもご利用いただきやすいと思います」とは、運営会社であるマカナの代表、佐藤洋一氏の弁だ。
「MACANAにはメジャー・アーティストの出演が多いので、週末のスケジュールが1年先まで埋まるような状況が続いていたんです。だからインディーズの方々が週末を押さえにくく、5年以上前から姉妹店のオープンを検討していました。そんな折、現在のビルに空きが出たので、コロナ禍で大変な時期でしたが先々のことを考えて申し込んだのです。MACANAの目と鼻の先ですし、週末の出演をご希望の方に“新しい会場を作ったのですが、いかがでしょう?”という提案もできるようになりました」
両店舗を使ったサーキット・イベントなどで相乗効果も生まれそうだ。気になるROCKATERIAの音響設備は、アメリカのブランドVUE AUDIOTECHNIKのラインアレイ・システムを擁するもの。片側につき、フルレンジのパッシブ機AL-4が4台ずつ吊られており、パワード・サブウーファーのHS-28はグラウンド・スタックで1台ずつ。
AL-4は、4インチ径の低域ドライバー2基とベリリウム・ダイアフラムのコンプレッション・ドライバー1基を備え、外形寸法480(W)×139(H)×261(D)mmとコンパクトさを重視した設計だ。HS-28には18インチのドライバー2基が入っているため、左右を合わせて18インチ×4基という強力な超低域環境となっている。スピーカーの選定を手掛けたのは、仙台の音響会社、サウンドデザインのエンジニア安田圭吾氏だ。
「弊社は以前から、AL-4と低域8インチの3ウェイ・モデルAL-8を仮設PAに使っていて、その良さを実感しています。まずはコンパクトさが魅力。ROCKATERIAさんをご覧の通り、ステージ脇に設置したときの圧迫感が無く見晴らしが良いですし、それでいて音は会場後方まで均一に飛ばせるんです。しかも耳に痛くない。ベリリウム・ダイアフラムが、この音質に寄与しているのではないかと思います。ドラムの金物も奇麗に鳴らすことができ、例えばシンバルは目の前で聴こえるようなリアルさです」
「初めて設置したとき“これで終わりですか!?”と聞いてしまったくらい。もっと台数を連結させるだろうと思っていたので」と、佐藤氏もそのコンパクトさに驚いた様子。
「これだけ小さいのに十分な音量が出せるんです。本当に驚きましたね。またステージの見晴らしの良さから、バンドによっては各メンバーが真ん中へギュッと集まらずに済むというか、立ち位置の間に余裕を持たせることができそうです。サブウーファーに関しても、省スペースなものがよくてHS-28を選んでもらいました」
そのHS-28に関して、MACANA/ROCKATERIA所属のPAエンジニア武山明日架氏はこう語る。
「当初は、ブロックを敷かず床にじか置きしていたんです。それでダンス・ミュージックをかけてみたら建物が揺れるくらいの振動があって、ものすごいパワーを感じました。フロアが満員になっても、低音が吸われて迫力が失われるようなことはないでしょうし、近頃は同期モノを使うアーティストが多いので、そういった音楽の低域の解像度を担保するためにもHS-28は頼もしいですね」
ネットワークで各スピーカーを一括制御
AL-4の駆動には、VUE AUDIOTECHNIKのパワー・アンプV6-Dを使用。V6-DはALLDSP製のフル・カスタマイズDSPを搭載し、EQやタイム・アラインメント・ディレイ、クロスオーバーなどのコントロールに対応する。一方、サブウーファーのHS-28もDSPを備え、本体内でスピーカー・プロセッシングが可能。これらはイーサーネット・ケーブルでつなぐことにより、専用のSystemVueソフトウェアを使って一括制御できる。安田氏がこう語る。
「ROCKATERIAさんでは、SystemVueをインストールしたノート・パソコン→V6-D→2台のHS-28という順に接続しています。SystemVueではAL-4とHS-28をリンクさせて制御できるようになっていて、ディレイで位相を合わせたり、低域の膨らみをEQで削ったり、音量を調整するなどして一体感が出るようにしているんです」
“返し”が聴き取りやすい理由
さて、先述の通りAL-4は吊り設置されているが、それによるステージへの回り込みの少なさはミュージシャン・モニターのクオリティ・アップにもつながっているそうだ。「ステージそのものも強化して、演奏しやすい環境を整えています」と、佐藤氏が説明する。
「低音が回って“何を弾いているか分からない”という状態にならないよう、アコースティックエンジニアリングさんに相談して、ステージの下にグラスウールをすき間なく詰め込みつつ表面を新しいボードで覆いました。甲斐あって、タイトな返しが得られるようになりましたね。安田さんに選んでもらったMARTIN AUDIOのモニター・スピーカーLE100も素晴らしい性能で、往年の機種よりコンパクトなのに音がきちんと聴こえてくるんです」
LE100は同軸構造で、ナチュラルな音質を特徴としている。このほかROCKATERIAでは、かつてフロアにあった段差を排してフラットなスペースにしたりと、要所をアップデート。ライブだけでなくDJイベントにも対応するそうで、仙台のシーンに新たな歴史を刻んでいくだろう。