ハイエンドなオーディオI/Oを提供するAPOGEEから、シリーズ第3世代となるDuet 3が登場した。コンパクトかつ、フラッグシップ・モデルと同等のサウンド・クオリティを実現していることも魅力だが、このDuet 3では新たにDSPを内蔵。同社の対応プラグイン・エフェクトを使ったかけ録りが行えるのもポイントとなっている。この連載では、クリエイター/エンジニアにDuet 3をお試しいただき、その秘められた能力を探っていく。今回Duet 3をテストするのは、ソロ・プロジェクト=スカートで活動するシンガー・ソングライター、澤部渡だ。
Photo:Hiroki Obara
APOGEE Duet 3〜DSPのパワーを得た第3世代
Duet 3(77,000円/9月30日までのイントロ・プライス)は2イン/4アウトのオーディオI/O。トップ・パネルはインジケーターと大きなロータリー・エンコーダーのみを装備するというシンプルなデザイン。表面には強化ガラス(ゴリラ・ガラス)を採用し、持ち運び用途も考えられた堅牢な設計となっている。ブレイクアウト・ケーブルを介して入出力が可能。別売りのDuet Dock(22,000円)を装着すれば、リア・パネルに各接続端子を備えることができる。USB-Cポートは2系統を用意し、USBバス・パワーだけでなく、外部電源供給でも駆動する。
録音における選択肢が多いのがDuet 3のアドバンテージだと思います(澤部渡)
打ち込みがメインのクリエイターと違い、僕のように生音を録ることが多い人にとって、良いオーディオI/Oを導入することはとても意味があると感じます。特に今は自宅で録音したものを本チャンに使うことも増えていると思いますし、デモのクオリティを上げることは重要ですね。
自身で行う録音はあくまでデモ用であることがほとんどですが、4月にリリースしたPUNPEEさんとのコラボ楽曲「ODDTAXI」では、それぞれの自宅で制作を進めました。本番のレコーディングを自宅環境で行うことで、自分の意識を変える機会になりましたね。このようなコラボの場合、お互いに音をどこへ落とし込むのかを考える必要がありますし、録音時にはできるだけクリアにサウンドを録っておくことが大事だと思います。良いサウンドで録れていれば、コラボ相手の方向性に合わせて加工していくのも容易になりますから。
Duet 3で声を録音してみたところ、“今使っているマイクは自分の声に合っていないかも”と感じたんです。マイクプリの解像度の良さによって、マイクの特性が分かりやすくなり、自分の声との相性が見えてきたのだと思います。
詳細な操作はソフトウェアのApogee Control 2から行うことになりますが、ここでできることがとても便利です。僕はモニター・バランスをすごく気にするタイプなので、スタジオでもいつも調整してもらうのですが、Duet 3はApogee Control 2上で2系統のミックスを作り、メイン・アウトとヘッドフォン・アウトへ送ることができます。
また、チャンネル・ストリップ・プラグインのSymphony ECS Channel StripがDSPで動作して、レイテンシー無くかけ録りができるのも素晴らしい。最初から音を作り込んでエフェクトのかけ録りをするのは大事なことだと思っています。パフォーマンスにも影響しますし、素のまま録って後からどうとでもなるというのはなんだかロマンチックじゃなくて。
モニター・バランスやかけ録りなど、録音における選択肢が多いのがDuet 3のアドバンテージだと思います。時間をかけて使っていくことで、備わっている魅力がどんどん分かってくるオーディオI/Oだと感じました。自宅制作の機会が増えている中、Duet 3でオーディオI/Oから制作環境をアップグレードする。現代において、それはミュージシャンとして有利になる選択かもしれませんね。
Symphony ECS Channel Strip
DSPが搭載されていることにより、Symphony ECS Channel Strip(DSP版は付属、Duet 3ユーザーはネイティブ版を50%オフで購入可能)を使ってレイテンシー無くエフェクトのかけ録りが可能。ボブ・クリアマウンテンが開発にかかわっており、コンプとEQ、サチュレーションを備えている。“シンプルな操作性で、音の変化も分かりやすいのが良い”と澤部は語った。