2カ月にわたりAMS NEVEの魅力を紹介するこの企画。ここからは、プリアンプ/EQの1073にフィーチャーし、AMS NEVE製品に厚い信頼を置くエンジニアの山内"Dr."隆義氏をはじめ、数々の1073ユーザーの声から、AMS NEVEが今なお作り続ける“1073”がプロの音に欠かせない存在であり続ける由縁を探る。ここでは、AMS NEVEマネージング・ディレクターのクラブ・マークツリー氏へのE-mailインタビューの中から、1073にまつわるコメントを紹介。そして、現在AMS NEVEが現行モデルとして生産を行なっている1073シリーズのラインナップを見ていこう。
1073Nは初期の仕様を満たすように設計
AMS NEVEでは、現在も多くの1073搭載モデルを生産している。それらの開発時に、基準とする特定の個体があるのか尋ねたところ、直系メーカーならではの強みを感じさせる答えが返ってきた。
「NEVE 1073の鉛筆画の原画や仕様書、トランスの極めて詳細な非公開の難解な仕様書などは、私たちだけが持っています。1073がクラシック音楽の録音で確立した音は、明らかに、図面から取り出したばかりの、適切な初期仕様のユニットを使ったものだったでしょう。AMS NEVE 1073Nはこの仕様を満たすように設計されています」
しかし、1073のように長年生産している製品では、使用パーツの生産終了なども起こるだろう。それらの入手困難な部品について、代替品をどう入手するのか尋ねると、「当社はこれらの製品の発売当初から部品を購入しており、サプライヤーとは非常に長い付き合いをしています」と返答したクラブツリー氏。使用パーツの中でも、現行1073シリーズで採用するMARINAIR製のトランスは特別な存在のようだ。
「トランスは本物の1073のサウンドの鍵を握っています。理論とリスニングの組み合わせによって独自に達成されたオリジナルの仕様から、非常に多くのパラメーターがこれに寄与しています。それは良いワインと同じで、味わえば分かることです」
1073は名機であり、その音が広く求められるが故に、市場には数多くの他社製クローンやプラグインも出回る。それらについてクラブツリー氏は「クローンを買うのは、ロレックスの偽物を買うようなものです。うまくいくかもしれないし、そうでないかもしれない」と例えた上で、こう続けた。
「AMS NEVEだけが本物の1073を製造しており、品質管理、真正性、そして時代を経てもその価値を保ち続ける家宝であることの証明は重要なポイントです」
クラブツリー氏が自信を持って世に送り出す、NEVEの血統を受け継ぐAMS NEVE 1073シリーズ。この先は、バリエーションに富んだ現行のラインナップを見ていこう。
AMS NEVE 1073シリーズ ラインナップ紹介
ここでは、現在AMS NEVEが現行モデルとして生産を行なっている1073シリーズの各機種を紹介。機能性やプリアンプ搭載数などの異なる8機種がラインナップされている。
1073N
1970年代に発売されたNEVE 1073の仕様を元に設計/製造したマイクプリ/EQ。12kHz固定のHF(高域)、カット/ブースト機能付きの切り替え可能なMF(中域)、LF(低域)で構成される3バンドEQとハイパス・フィルターを搭載する。入出力にはMARINAIRトランスを採用。リア・パネルにはマイク/ライン入力(XLR/フォーン・コンボ)やDI入力、ライン出力(XLR)のほか、マイクや楽器などを直接接続するためのI/Oコネクタ、+48Vファンタム電源などを搭載している。
1073LB
API 500互換モジュール・ラックに搭載可能なマイクプリ・モジュール。入出力段にMARINAIRトランスを採用する。マイク/ライン入力は5dBステップ刻みで変更でき、出力は+5〜−20dBで調整可能。1073LBEQ/2264ALBモジュールのプロセッシングをインサートできる。
1073LBEQ
API 500互換モジュール・ラックに搭載可能な3バンドEQモジュール。ハイパス・フィルターも備え、本体下部にはEQイン/アウト・スイッチが搭載されている。スタンドアローン・モジュールとしての使用のほか、同一ラックに設置された1073LBとペアリングしての使用が可能となっている。
1073DPA
1Uラックに2基のマイクプリを搭載。入力ゲインと出力トリムコントロールを両チャンネルに備えるほか、+48Vファンタム電源と位相反転スイッチを装備する。
1073DPD
1Uラックに2基の1073マイクプリとADコンバーターを装備する。最大24ビット/192kHzでの出力が可能で、DSD(Direct Stream Digital)にも対応する。
1073SPX
3バンドEQとハイパス・フィルターを備えた1073マイクプリを1基搭載。ユニット前面にマイク/ライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)、DI入力を備える。
1073DPX
3バンドEQとハイパス・フィルターを備えた1073マイクプリを2基搭載。各チャンネルは独立し、オプションとしてデジタルI/Oモジュールにも対応する。
1073OPX
リモート・コントロール可能な1073プリアンプを8ch搭載。MARINAIRトランスを採用したマイク入力のほか、オプションでDante/USB接続に対応する。