こんにちは、音楽クリエイターのMEG.ME(めぐみー)です。今回は、ゼロイチの楽曲制作の工程後編を紹介しながらAvid Pro Toolsにおける制作の魅力についてお話しします。
プレイリストにメロディのアイディアをメモ
連載第3回では本記事の書き下ろし曲「Breeze(仮)」のトラックの骨組み、構成を解説しました。極力音数を減らしたシンプルなトラックで歌を聴かせるダンス曲を目指し、トラックの細部、アレンジは歌入れをしてから仕上げることに。私はトップラインを作る際、セクションごとにトラックをループで再生しながら鼻歌でメロを探り、良いと思ったフレーズをシンセで打ち込みメモします。音色はオケに埋もれにくいNATIVE INSTRUMENTS Massiveのデフォルト音源を使用。
インストゥルメントトラックのMIDIもプレイリストで複数パターン保存できます。トラック名の右をクリックしてDuplicateを選択するか、control(WindowsではStart)+]でプレイリストを作成。
メロのアイディアをどんどんメモして、比較しながらイメージに近づけます。セクションが1つできたら、前のセクションからのつながりを確認しましょう。曲の流れが大事です。複数の歌唱メンバーがいる想定で、リード・ボーカル以外にサブのリード・ボーカル、ラップ・パート、コーラス(サビ)パートを作ります。音程にしがたいラップは、大まかなリズムのみをメモ。試行錯誤を繰り返し、メロの大筋が完成です。バース(平歌/Aメロ)はクロマティックに動くラインで少しルーズに歌うイメージ。プリコーラス(Bメロ)は、リード・ボーカルの見せ場なので、気持ちよく歌い上げられるようにロング・トーンも入れました。また、メンバーで歌い分けられるように追っかけ+変化を付けてパート分け。後半はコーラスに向けて譜割を細かくして畳みかけ、テンションを上げます。コーラスは、Kポップでもよく使う、複数人でラップっぽく歌うスタイルにしました。
バース部分はメロに合わせて、シンセ・ベースのラインを変更。エラスティックオーディオのX-Formで音程を調整します。つなぎ目はノイズが乗りやすいのでクロスフェードで自然に整えます。続いて曲のイメージを伝えやすくするため、できたメロに仮歌詞を乗せます。言葉の乗りに合わせてメロを調整するのも生きたメロを聴かせるのに重要な過程なので、音符と言葉の響きの両方を意識します。
インスト&ボーカルのキー調整で男性ボーカル風に
続いて仮歌のレコーディング。男性ダンス・ボーカル・グループ用の曲なので、男声の仮歌が必要です。そこで、曲全体のキーを半音3つ上げ、録音したボーカル・トラックを半音3つ下げると、なんと私の声がハイトーンの男性ボーカルに!
具体的には、まずインストのAUXトラックにWAVES Sound Shifter Pitchをインサートし、TransposeのSemitonesを+3してインストのキーを上げます。
続いてボーカル・トラックを作成。プレイリストを作って、数回歌ってからShift+↑↓で聴き比べて良いテイクを選びます。OKテイクは分かりやすいように赤色を付け、FIXのトラックに貼ります。今回はリード・ボーカルとラップを2本ずつ録りました。
エラスティックオーディオでX-Formを選び、メニュー・バーのClipからElastic Propertiesを選択。セミトーンを−3すると、男性ボーカルのような声になりました。
これらの音程とタイミングをCELEMONY Melodyneでエディット。近年MelodyneはPro Toolsに統合され、格段に作業しやすくなりました。エディター画面が下に表示され、Pro Toolsとの行き来がスムーズに。ボーカル・トラックの波形をコピペすると編集済みのMelodyneデータもコピーされるので、繰り返す歌唱ポイントなどは素早く編集できます。さらに、リード・ボーカルを複製してオクターブ下げのパートも制作。メイン・ボーカルからハモを作るのも手軽ですが、今回は人数感を出すためハモは私の地声で録りました。
Avid Lo-Fiで複数の素材の音質をなじませる EQ IIIのフィルターをオートメーションで変化
歌メロが完成したら、アレンジの作業に戻ります。なるべく音数を増やさず仕上げるために音作りと同時進行します。歌のリズムを立たせるため、Pro Tools Sketchで作成したドラム・トラックのキック、スネア、ハイハットをNATIVE INSTRUMENTS Battery 4で打ち込み直します。ハイハットはさらに細かいフレーズをリアルタイム録音することで、ビートが立ちスピード感が出ました。これらの音色はPLUGINS THAT KNOCK Knockで調整して、より派手な印象に。
シンセ・ベースはAvid EQ III、OUTPUT Thermal、OEKSOUND Soothe2で音作り。また、プリコーラスに別の音色でシンセ・ベースを打ち込みました。
続いて、セクションの切り替わり部分にフィルを足します。今回はSpliceから素材をインポートして加工。Verse 1前のフィルは2種類の素材を組み合わせた上でシンバルのライザーも加え、これらの音質をAvid Lo-Fiでなじませました。Lo-Fiは操作が簡単で効果が分かりやすく、使い勝手が良いのでインポートした素材のトラックに多用しました。
プリコーラスでは元のスネア・ロールをスネアのビルドアップ・サンプルに差し替え。EQ IIIでかけたフィルターがコーラスまでに戻っていくようにオートメーションを書きました。
次にボーカル処理。ピッチ・シフトしたオーディオは音の立ち上がりが鈍くなって迫力に欠けるので、WAVES Smack Attackで音のアタックを突き、メロと言葉をハッキリさせます。
そして、チート技とも言えるWAVES Studio Rack。人気のエンジニアのプリセットをダウンロードして使えたり、コンプやディエッサー、EQ、リバーブなどをラックに組んだりできるプラグインです。これを使い、ピッチ・シフトで鈍くなったボーカルを明るめに仕上げました。女声のハモは、なじみを良くするためにリード・ボーカルと同じプラグインを使いフォルマントを調整。リード・ボーカル、ハモ、ラップをAUXトラックにまとめて全体で音を作れば、ミックスまで終了です。
マスター・トラックではWAVES Abbey Road TG Mastering Chainで全体の印象を決め、Soothe2で整えてからSLATE DIGITAL FG-X2で音圧を調整。これでコンペ用ワンコーラス・デモが完成です。
全4回にわたり私の実際の制作工程を見ていただきましたが、いかがでしたか? Pro Toolsは制作においても機能性とさまざまな可能性を持っています。皆さんの音楽制作に何かヒントになれば幸いです。ありがとうございました!
MEG.ME
【Profile】3歳からピアノ、7歳で作曲を始める。数々のコンクールで受賞歴を持ち才能が注目される中、大学では作曲を専攻し音楽知識をさらに深める。その後、シンガー・ソングライターの活動を経て、2011年8月よりMEG.ME名義で作家活動をスタート。クラシックからポップスまで多様なジャンルを得意とし、ミュージカルや舞台音楽なども手掛けるほか、キーボーディストとして世界各地で演奏活動をするなど、作詞/作曲/編曲家、プレイヤーとしてマルチに活躍するクリエイター。
【Recent work】
『GRLOW』
Natural Lag
(avex)
Da-iCEのメンバー花村想太がボーカルを務めるバンドNatural Lagの初フル・アルバム。MEG.MEが編曲を手掛け、本連載の題材にもなった「What Time」も収録
Avid Pro Tools
LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:15,290円(年間サブスク版)、30,580円(永続ライセンス版)|Pro Tools Studio:46,090円(年間サブスク版)、92,290円(永続ライセンス版)|Pro Tools Ultimate:92,290円(年間サブスク版)、231,000円(永続ライセンス版)
REQUIREMENTS
Mac
▪macOS Sonoma 14.3.1、最新版のmacOS Monterey 12.7.x または Ventura 13.6.x
▪M2、M1あるいはINTEL Dual Core I5より速いCPU
Windows
▪Windows 10(22H2)、Windows 11(23H2)
▪64ビットのINTEL Coreプロセッサー(I3 2GHzより速いCPUを推奨)
※上記は2024年3月時点