こんにちは。バイオリニスト/作編曲家の門脇大輔です。前回は、僕の宅録環境とストリングス多重レコーディングの手順についてお伝えしました。今回は、僕が普段から行っているAVID Pro Toolsを使用したストリングス・アレンジの方法と、そのMIDIデータを活用してAVID Sibeliusで楽譜作成をするまでのフローをお話したいと思います。
Sibeliusでの譜面作成を想定して
トラックの数は最少限にする
SibeliusとPro Toolsを連携すると、Sibeliusで作った譜面をMIDIデータとしてPro Toolsに送ることも可能になりますが、僕はPro Toolsで作編曲を行い、レコーディング現場に持って行く譜面作成のためにSibeliusを使用しています。この方が、直感的な作編曲作業と緻密(ちみつ)な譜面作成をよりスムーズに行うことが可能になるからです。
また、Pro Toolsで打ち込んだMIDIデータをSibeliusにエクスポートして作業する際には、Pro Toolsで先に済ませた方がよいことと、Sibeliusで行った方がよい作業をきちんと認識して、効率良く作業することが大事です。今回は僕が普段行っている、歌モノのストリングス・アレンジと譜面作成のフローを例にして紹介していきます。
まず僕は、Pro Toolsで1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロのトラックを作成します。その際、それぞれ奏法別に音源を立ち上げるため、レガート/ピチカート/トレモロ/スタッカートなど必要に応じてトラックを作成します。メインで使っているストリングス音源は、AUDIOBRO LA Scoring Strings 2.5です。LA Scoring Strings 2.5は、リバーブ成分がほとんど収録されていないオンマイクなニュアンスなので、Jポップなど縦のリズムが重要な楽曲でもソリッドに響きます。その際、後処理でEQや空間系エフェクトをかけやすいように、内蔵のエフェクトはオフにして使用しています。
また、ストリングスの1パートは10人ぐらいで演奏した際の倍音で成り立っているため、よりリアルな音に仕上げるために、LA Scoring Strings 2.5とSPITFIRE AUDIO Spitfire Studio Strings ProfessionalをNATIVE INSTRUMENTS Kontakt内でレイヤーして使います。こうすることでPro Toolsのセッション画面をなるべくシンプルにできるだけでなく、Sibeliusにエクスポートした際に譜面の仕上げ作業を短縮できるのです。譜面作成は作編曲作業の締め切り直前にあわてて行うことも多いので、ミスを減らすためにもこれが大事な工程になっています。
また、MIDIノートをマウスで打ち込むことで、ベロシティや音の長さ、タイミングの編集作業を並行して進めていきます。ストリングスのベロシティ設定で初心者が陥りがちなことが、抑揚を激しく誇張し過ぎること。しかし、ストリングスはそこまで極端に強弱を付ける必要はありません。そういった意味でも、マウスでの打ち込みは調整がしやすいためお勧めです。
またストリングス音源は、アタックのタイミングがタイムライン上で遅れていることが多いです。そんなときには、発音タイミングをトラックごとに一括で速めることが可能なMIDIトラックオフセットを使うと、素早く調整することができます。
譜面作成段階での修正を減らすため
Pro Toolsの楽譜エディタで下準備
このようにしてMIDIでの打ち込みを終えたら、そのデータをSibeliusにエクスポートします。なのですが、その前にPro Toolsで下準備をするのが譜面作成の時短のコツです。
まずは、Pro Toolsのウィンドウで“楽譜エディタ”を選択。表示された大譜表の上で右クリックをして“記譜表示トラック”を選択します。選択しているトラックに、この段階でト音記号などの音部記号を設定しましょう。また、その下にある“クオンタイゼーション表示”という項目を、最少でも“32分音符”に設定するのをお勧めします。この設定をこれ以上細かい音符に設定にしてしまうと、10連符などでかけ上がるようなフレーズがきちんと音符として楽譜に反映されません。Sibeliusでの修正を増やさないためにも、この設定はPro Tools上で忘れずに行います。
また、この段階でキーも設定して、調号を追加するのがスムーズです。トラックの部分ごとに設定できるため、転調する楽曲などでも安心。これが終わったら“ファイル”メニューから、送信>Sibeliusを選択してエクスポートします。
音符間隔などを自分好みに設定
ハウススタイルとして保存して使う
ここからはSibeliusでパート譜とスコア譜を作る方法を簡単に紹介したいと思います。ところで、バイオリニストはレコーディング現場で譜面を受け取って初見で演奏することが多いです。そのため、バイオリニストが直感的に反応できる奇麗な譜面作りが大事になります。スラーやタイなどの位置1つが、演奏&録音されるテイクの完成度に深くかかわることを強く意識します。
僕はパート譜とスコア譜のどちらを作る際にも、外観タブ内のハウススタイル>インポートであらかじめ保存しておいたカスタマイズを適用します。この設定内容は、同じく外観タブ内の“音符間隔ルール”で小節の間隔などを整えた際のデータや、音符と臨時記号の間隔などより詳細に調整できる“記譜ルール”などの内容を含みます。
このように自分好みのハウススタイルを構築できたら、外観タブ内のハウススタイル>エクスポートで、カスタマイズを保存しましょう。次に楽譜を作成する際にも、その設定を活用すれば、効率良く譜面作成をすることができますね。
最後に作った譜面を印刷する場合は、ファイル>印刷で行います。Macの場合command+Pでも、同じ画面へのアクセスが可能です。また、クライアントにPDFで楽譜を納品する場合などでは、ファイル>エクスポート>PDFを選択し、“スコアとすべてのパート(別ファイル)”を選ぶことでスコア譜とパート譜をそれぞれPDFにすることができます。
2回にわたり僕のストリングス・アレンジについてお話ししてきましたが、いかがだったでしょうか? さまざまな音楽制作の参考になったらうれしいです。短期間の連載でしたが、ありがとうございました!
門脇大輔
【Profile】1981年生まれ、鳥取県出身。バイオリン奏者/作詞家/作編曲家として活動。東京藝術大学在学中より、バイオリンの未知なる可能性を追求すべくJポップのレコーディングやライブのほか、映画音楽、ドラマ音楽、CM音楽のレコーディングにも多数参加。演奏にとどまらず、ストリングスを効果的に使った作編曲家としても活躍している。水樹奈々、Official 髭男dism、Superfly、EXILE、BiSHなど、多くのアーティストをサポート。
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製品情報
https://www.avid.com/ja/pro-tools
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