こんにちは。ギタリスト/作編曲家の篤志と申します。今回から僕なりのAVID Pro Toolsの使い方を紹介していきます。過去にお世話になっている諸先輩が既に本コーナーに寄稿されてることもあり重責を感じておりますが、微力ながら何かのお役に立てれば幸いです。
初回は、僕が普段行っているギター・レコーディングと後処理のフローを、使用しているプラグインやエフェクト・チェインと合わせてご紹介したいと思います。
ストリップサイレンスで
弾くべき部分を分かりやすく表示
僕がギター・レコーディングを行うのは、自分が作った曲のアレンジか、外部からギター録音を依頼されるかの2パターンです。自分の曲ならばPro Toolsのセッションが既に用意できていますが、外部から依頼された場合は、まずセッション作りからスタートです!
最初に確認するのは、プレイバック・エンジンの“H/W バッファサイズ”。録音時には“128サンプル”に設定して、“再生/録音中はエラーを無視”と“I/Oレイテンシを最小限にする”にチェック。
バッファサイズが大き過ぎると、音の遅れ=レイテンシーが発生します。遅延が大きくなるのを避けるために数値を変更するのですが、下げ過ぎるとコンピューターに負荷がかかり録音中に停止してしまうことも! そのため、自分が弾きにくく感じない程度の値を探してみるとよいでしょう。ただ、CPUネイティブのDAWである以上レイテンシーは必ず発生するので、あまり神経質にならず、自分が満足できる状態が見付かればOKです。
ほかの編曲家からギターの差し替え/アレンジの依頼を受ける場合は、ギターのパラデータやインスト・ミックス、ボーカル・ステムがそれぞれ一本ずつのオーディオ・データで送られてきます。指定が無ければ、僕は32ビット・フロート/48kHzでギターを録ります。しかし、ビット・レートは後から変更できるので、最初のセッションは24ビット/48kHzで作り、ギター録音前にセッション全体を32ビット・フロート/48kHzにすることで、HDD容量を節約したりする貧乏性な僕です。
そうしたら全体を聴きつつ、曲構成に合わせてマーカーを追加し、ストリップサイレンスを使ってギターの各パートがどこにあるのか視覚的に分かりやすくします。いちいち波形を探すよりも、クリップとして分割されている方が弾くべきパートの見落としが無くて楽です。
付属のTime Adjusterを使い
クリックの発音タイミングを微調整
続いては、クリックを設定しましょう。依頼された楽曲が生演奏をベースにしているならば、レコーディングの際に使用したクリック・トラックが一緒に送られてくることもあります。しかし、そうでない限りは、自分で“トラック” → “クリックトラック作成”から用意しましょう。僕はここで自動的にインサートされる、AVID ClickⅡを愛用しています。
送られてくる楽曲のドラム・パートは、サンプルを直接張ったり、サンプラーで鳴らしたり、ドラム音源を使ったMIDI打ち込みであったりと手法はさまざま。グリッドに沿って張られたデータは基本的にグリッドよりも後ろで鳴ることが多く、クリックが“ 走る”という状況になりがちです。さらにバウンス時の設定によって、すべての音のタイミングがグリッド・ラインより大幅に後ろにあるなんてデータも少なくはありません。そういった際には、クリック・トラックにPro Tools付属のTime Adjusterをインサートして、発音タイミングがオケと合うように微調整します。
これも先述のバッファサイズと同じように、感覚で決めます。自分も曲に乗れて、クリックが気持ち良く鳴る場所を探りましょう。ここまでの作業と使用機材の選定や弦の状態確認はレコーディングの前日までに終わらせます。
ライン録りでピュアな音を収めて
アンプ・シミュレーターで加工
やっと、レコーディングができる環境が整いました! 僕はアンプを鳴らしながらレコーディングということは滅多にせず、アンプ・シミュレーターのNATIVE INSTRUMENTS Guitar Rig 5のみで完結する場合が多いです。
特別な意図が無い限り、DI/リバースDI/レベル・コンバーターを搭載しているUMBRELLA COMPANY Signalform Organizerを使用してライン録りをします。専用ケーブルのActive Hi-Z Cableを使うとピュアな音で録れるのでお気に入りです。この一台でリアンプ作業もまかなえるのはとても便利だと思います。
それ以外では、マルチエフェクトのLINE6 HX Stompを使ったり、“いなたい”サウンドを録りたいときはリアンプしています。チャンネル・ストリップのMANLEY Voxboxやトランスを使った自作のDIなどを使うことも多いです。トランス・メーカーJENSENのWebサイトには回路図も公開されているので、工作系のギタリストの方々はぜひ、見てみてはいかがでしょうか。
録音後はEQとコンプで音色調整
ミックス用のAuxトラックを作成する
無事ギターが録れたら後処理をします。ボーカルが本番のテイクではないことがほとんどなので、ミックス的な引き算の処理よりも音色調整的なEQやコンプ処理をWAVES SSL4000 E-Channelで行うことが多いです。
自分がアレンジャーの場合はここからAUXトラックを作成してバスを組み、ミックス作業の準備をしていきます。同じような役割/音域のパートや、同じ演奏でのL/Rやマイク違いのトラックはバスで整理。こうすると狙ったパートを感覚的に処理できるようになるのです。L側で上げた帯域をR側で下げていたなどの混乱を防ぐこともできますし、全く同じ処理を複数トラックにする必要もなくなります。
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ギターの中でも特にエレキギターは、決して周波数レンジが広い楽器ではありません。Pro Toolsとプラグインを駆使すればクリアなサウンドを追求することもできますが、むしろナローでノイジーな音の方が良い場合もあります。ですから、“ギター本来の魅力を忘れないように”心に留めてレコーディングと後処理をすることが大切です。ではまた来月!
篤志
【Profile】1982年生まれ。サポート・ギタリストとして音楽キャリアをスタートさせ、KAT-TUNへの楽曲提供をきっかけに作編曲家としての活動を開始。音楽グループTHE野党のメンバーとしての活動経験も生かして、藍井エイル、EXiNA、湘南乃風、ポルノグラフィティなどさまざまなアーティストへの楽曲提供/アレンジ/プロデュース/ミックスをトータルで手掛けている。それ以外にも、ミュージカル『刀剣乱舞』の舞台音楽などにかかわる
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