W371Aは3つのモードを搭載
ノッチの補完や音像の濁り防止を実現
まずはそれぞれの概要から見ていこう。発売から5年になる8351Aは、8351Bにアップデートされた。後発の8341A、8331Aに使用された新しい技術を組み込むため、内部設計や基盤などを一新。内蔵クラスDアンプの出力向上や周波数特性の改善、−4.7kgの軽量化などに成功している。
The Onesシリーズの最上位モデルとして新登場したのが8361A。8351Bよりも二回りほど大きな357(W)×593(H)×347(D)mm、31.9kgという筐体の存在感は圧倒的。“より出力が大きなものを”という声に応えるべく、アルミ製エンクロージャーとして製作できる限界の大きさになったそうだ。
もう一つ新たに加わったのがアダプティブ・ウーファーのW371A。発表当初は筆者も“新しいサブウーファー?”と勘違いしていたのだが、実際にはアダプティブ・ウーファーという名前の通り、The Onesモニターと組み合わせることで、リスニング環境を積極的にコントロールするという他に類を見ない追加型ウーファーである。なお、W371Aと組み合わせ可能なのは8341A以上の機種となり、8331Aは推奨されていない。400(W)×1,108(H)×400(D)mmという筐体のフロント上部に356mm径、背面下部に305mm径のドライバーが設けられており、この2つが適宜動作することでリスニング環境にさまざまな変化をもたらす。
具体的には、The OnesモニターとGLMシステムを組み合わせ、GLMソフトウェア上で低域のクロスオーバーを最適な状態に調整。1つのフルレンジ・システムとして低域表現を豊かにする。さらに、以下3つのモードが選択可能だ。
1つ目は補完モード。レコーディング・スタジオなどルーム・アコースティックがしっかり調整された部屋でも、リスニング・ポイントによって特定周波数の落ち込み(ノッチ)が発生することが多い。これを補完することでよりフラットな特性を実現させる。
2つ目は連続指向性モード。リスニング・ルームの環境によって、低域に近付くほど指向性がぼんやりと広がってしまうのを矯正して、低域の指向性を高めるモードだ。
3つ目はアンチ・リフレクション・モード。反射音により音像が濁るのを防ぐため、特定の方向に無音領域を生成する機能だ。背面、側面、床面と3方向の中から状況に応じて選ぶことができる。
ローエンドから中低域まで繊細に表現
低域の定位もリアルで作り込みに有効
では、実際に試聴したインプレッションを書いていこう。まずは8351B。先代の8351Aは上品なサウンドで、低域から高域までバランスの良い優れたスピーカーである。しかし、スタジオでのリズム録りのときなど、出力的に物足りなく感じることがあった。8351Bはパワー感が向上。新採用のMDCドライバーの影響か、中高域の表現力や押しの強さなどの改善が感じられた。
次に8361A。一聴して、8351Bの音像をさらに一回り広げたようなサウンドに驚かされた。低域の豊かさ、高域の伸びが抜群で、ゆとりを持ってたっぷりと鳴っている感じが大変好印象である。
続いて、8361AにW371Aを補完モードで組み合わせてみる。ウーファーを追加するということで、さぞかし低域がぐっと出てくるのだろうという想像は見事に裏切られる。もちろん量感は増えるのだが、むやみやたらに低域だけが膨らむのではなく、ローエンドから中低域辺りまでの表現がより繊細になっている印象。さらに、補完モードのおかげで低域のつながりが良くなり、全体がよりスムーズに聴こえた。
連続指向性モードに切り替えると、キックやベースなどの音像がセンターに密度高く集まってくる。これまで、リスニング環境次第で100Hz以下の低域が広がって聴こえる経験があり、それも量感の一部分として受け流していた。しかし、この連続指向性モードにすることでより低域の定位感がリアルなるため、ミックス時など細かく追い込む際には非常に有効だと感じた。アンチ・リフレクション・モードは聴くことができなかったが、機会があったら試してみたい機能だ。8351Bとの組み合せでも聴いたのだが、8351Bの出力に合わせてすべてが調整されるため、8361Aのときと比べて音像が一回り小さくなるだけで、全体的な印象は変わらなかった。
8361AとW371Aがあれば、ラージ・モニターは要らないかもしれない。さらなる進化を遂げたGENELECの音場表現を目の当たりにした筆者の正直な感想である。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2020年3月号より)