60のスタイルに対応するフレーズ再生
ドラッグ&ドロップでMIDI化も可能
Virtual Drummerの良いところは、何と言っても軽くてシームレスな操作性を持つところ。ソフトを立ち上げてから音を鳴らすまで無駄が無く、ロード時間などの創作のテンションを下げる工程が一切無いことです。面倒な作業や待ち時間というのは、アイディアを失ってしまうことにつながりますので、スムーズな操作ができることは重要でしょう。
MIDIノートのC1~B2にはワンショット、C3~B4にフレーズ・パターンがアサインされています。画面左上のメニューでキットやパラメーター設定を含むプリセットが選択でき、画面右上にある“STYLE”でフレーズのタイプが選択可能。STYLEは60種類あり、スタイルごとに23パターンのフレーズを収録しています。画面上にはバーチャル鍵盤“Interactive Keyboard”があり、フレーズがアサインされた鍵盤の上半分をDAWのトラックにドラッグ&ドロップすれば、フレーズをMIDIデータに変換可能。このように、長年のDAWユーザーは少しも迷うことなくすぐに使える操作性です。
画面右上にあるMicro Timingをクリックすると、フレーズ演奏のタイミングを調整するパラメーターが表示されます。フレーズの再生速度を倍速や1/2速にしたり、スウィングを調整できるのは他社音源にもある機能ですが、Virtual Drummerでは突っ込んだ演奏(PUSH)、タメのある演奏(PULL)の具合を決めるパラメーターもあるのです。これは単純なランダマイズではないので、生っぽい演奏をさせるには完ぺきなフォロー・アップでしょう。また、クオンタイズ具合を調整するHumanizeも備えています。
プリセット・メニューで選択したプリセットにはドラム・キットや各サウンド設定が含まれていますが、任意のドラム・キットに変更することも可能。画面中央左側にあるDRUM KITセクションに5種類のキットが用意されていて、音色のバリエーションの違いをワンクリックで確認できます。キット選択の際、演奏しながらであっても止まることなく一瞬で変えられるのは、ほかのドラム音源と一線を画す部分でしょう。また、DRUM KITの右側にあるSlamでは、キットのサウンドにパンチやスナップを加えることができます。
Virtual Drummerの変わった機能として、下にピッチ・ベンドするにつれてフレーズのスネアの音量が下がり、上にピッチ・ベンドすればキックの音量が下がります。これによって落ちサビやブリッジ、ループ演奏時のクレッシェンド、デクレッシェンドが簡単に作れますね。
6種類のMIX PRESETで
簡単に全体のサウンドを調整できる
ミキサー画面は必要最小限の機能だけを搭載しており、とても分かりやすいです。もちろん各パーツのパラアウトも可能。Virtual Drummerらしいのが、各パーツのアウトのチャンネルが最初から決まっていることです。ビギナーにも優しく、チャンネル番号を選択する手間を省いているという点は忙しいプロにとってもありがたいでしょう。
ドラム・キット全体の音色はMIX PRESETで調整可能。僕が気に入っているのはAmountというパラメーターで、簡単に効果の深さを変えられます。例えば、Solid 2でMIX PRESETにCRUSHを選んだときは、Amountを上げるほどコンプ感が強くなりました。ミックスに使われたエフェクト全体が深くかかるといった印象です。
MasterセクションにはReverbとMaximizeのほか、Saturateが備わっているのも面白いポイント。ボリュームや複雑なパラメーターをいじることなく、オケとのなじみ方を簡単に調整できます。
サウンドについては、トランジェントをしっかりとらえた音が収録されているので、楽曲の中で埋もれにくく、使いやすい印象です。Solid 2は一番オーセンティックで、生演奏系にスムーズになじみます。オール・ジャンルに使えますが、特にポップスとの相性が良い感じです。僕のお気に入りはPhat 2。ピッチが低くてリリースが長めのスネアのキットが多く、70'sソウルやディスコ、エレクトロ……といったダンス/クラブ系に特化していて、現在アジアを席巻するシティ・ポップに持ってこいだと思います。そしてHeavy 2はハード・ロック/メタルなどのジャンルに特化したサウンド。グランジや現代パンク、メロコアにもいいでしょう。キットを選んでSlamのつまみを上げるだけでそれっぽくなります。
Virtual Drummerの特徴は制作時の操作性の良さ、設定反映のリアルタイム性です。エフェクトのかかり具合やキット、パターン変更が楽曲を止めずにできます。トライ&エラーがしやすく、浮かんだアイディアを創作へダイレクトに反映させるための工夫がされていると感じました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年10月号より)