ワンウィンドウモードを新規搭載
1trに最大48のエフェクトを使用可能
何と言っても今回の大きなトピックはユーザー・インターフェースの大幅な改良と、ミキサーコンソールのチャンネルストリップやVCAフェーダー、エフェクト・チェインのプリセットなどの実用性の高い機能拡張です。ここ数年で24インチを超える大画面モニターもかなり手頃な価格になり、画面の作業領域が広がってきました。DAWの操作画面も、複数のウィンドウを作業によって切り替えるマルチウィンドウから、一つの画面に複数のエディット画面を収めるシングル・ウィンドウへとトレンドが移行しています。
Abilityもその時流に対応し、“ワンウィンドウモード”が搭載されました。特筆すべきなのは、従来のマルチウィンドウと簡単に切り替えることができる上に、操作頻度の高いミキサーやピアノロールなどを単独でフローティング・ウィンドウにできる点。ワンウィンドウと組み合わせてサブモニターにはミキサー画面だけを表示させるなど、複数モニターを使用したマルチモニター環境にも対応しています。大画面ではワンウィンドウ、ラップトップではマルチウィンドウに切り替えるなど、モニター環境に応じてユーザー・インターフェースを瞬時に選択でき、ユーザーの使い方にマッチした操作画面の組み合わせをカスタマイズ可能です。
ミキサー周辺は大幅に機能がアップされました。インサート・エフェクトはかけ録り用のREC EFFECT、フェーダー前段のPRE EFFECT、フェーダー後段のPOST EFFECTにそれぞれ最大16個、計48個(!)が1trに使用可能です。筆者は、ミックス時に違う種類のコンプやEQを比較しながら一番マッチングの良いものを探したりするので、PREだけで16個あるのはとても心強いです。また、複数のエフェクトの接続や設定を“FX Chainプリセット”として保存できるようになりました。試行錯誤して作った設定が、ほかのトラックや曲で瞬時にリコールできます。さらに、GateやComp、EQ、Saturation、Limiterといったエフェクトが“STRIPエフェクト”としてミキサーコンソールに組み込まれました。必要なものだけをオンにして表示し、接続順もドラッグして簡単に変更できます。使用頻度の高いエフェクトが手軽に呼び出せ、すぐに使用できるのは大きなメリットです。
パン&センドにも対応のVCAフェーダー
作編曲を支援するCHORD PADも追加
個人的にうれしかったのが、ミックス・ダウンなどで多用するグルーピングに関する機能の選択肢が増えたことです。今までは、複数トラックの相対的なバランスを維持したまま音量をコントロールする場合、グループ・トラックでサブミックスを作るという一択でしたが、Ability 3.0 Proでは“VCAフェーダー” “Channel Link”という2つの機能が加わり、計3つの方法から状況に応じて選択できるようになりました。中でも、ミックス・ダウンなどで重宝するのがVCAフェーダー。これはプロ用の大型コンソールに装備されていた、電圧制御アンプ(VCA)で複数トラックの音量を同時にコントロールする機能をデジタルでエミュレーションしたものです。本来、コントールできるのは音量のみですが、Abilityのユニークな点はパンやセンドなどもコントロールできること。これは一度使うと手放せないほど便利です。例えば、ブラス・セクションなどで楽器ごとの相対的な位置関係を保ったままパンを左右に移動したり、セクション全体のリバーブの深さを手軽に調整することなどができます。
そのほか、ミックスコンソールでの操作を記録し、画面左のヒストリーウィンドウ(履歴)で最大100ステップ前までの状態に戻すことができる“ヒストリー機能”も追加されました。従来のアンドゥの進化形として今後DAWの定番となりそうな機能です。さらに音源の強化も図られています。人気のプレイバック・サンプラーIK MULTIMEDIA SampleTank 4 SEと、ハイゲイン・ギター・アンプのシミュレーターAmplitube Metalがプラグインとして加わりました。また、作編曲の支援機能としては、指定したキーのダイアトニック・コードを中心に、セカンダリー・ドミナントやパッシング・ディミニッシュなど、そのキーで使えるコードをクリックするだけで演奏できる“CHORD PAD”が搭載されたのも重要なポイントです。
今回のバージョン・アップは単に機能やプラグインが増えただけではなく、視認性を含めて全体の操作感がかなり向上/充実したと思いました。DAWのここ数年の動向を見ていると、開発のフットワークが一番軽快だったのはAbilityであったように感じます。またここからの発展が楽しみです。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年10月号より)