軽さと頑丈さを両立したボディ
高域が伸びて低域がすっきりしたサウンド
LCT 040 Matchは1本でも発売されていますが、ステレオ・ペアリングされた2本セットが用意されています。より個体差の少ないペアが選定されており、2本同時に使用する際には、より精度の高い録音が可能。例えば、ドラムのオーバー・ヘッドやピアノなど、ステレオでの使用を想定しているのであれば、1本ずつ買うよりも2本セットの購入をお勧めします。
まずはスペックを説明しましょう。コンデンサー・マイクですので、ファンタム電源供給(48V)が必要になります。指向性はカーディオイド。最大音圧は135dB SPLで、ダイナミック・レンジは115dB、定格ロード・インピーダンスは1kΩです。
では実際に使用してみましょう。まずLCT 040 Matchを手に取ると、とても軽量なので驚くと思います。軽さと頑丈さの両立もこのマイクの特徴になっているようです。軽い方が扱いやすいですし、あってはならないことですが、落下した際にも本体へのダメージは少ないと思います。その軽さがチープに感じるかと思いきや、非常にしっかりとした奇麗な作りなので、安心感と満足感があります。
LEWITTが推奨するアコースティック・ギターのサウンドからチェックしてみましょう。正直、音を聴いて非常に驚きました。これほどまでキャラクターがしっかりしているマイクはなかなか無いからです。高域がとても伸びており、中低域から下はかなりロール・オフされていて低域はすっきり。予想とはかなり違ったサウンドで、既にエフェクト処理が施されたような音になっています。
話が脱線してしまいますが、筆者は最近バイクを物色中です。バイクには原始的な燃料供給装置を使ったキャブレター車と、コンピューターが制御を行うインジェクション車があるのですが、キャブレター車はそれなりに調整やメインテナンスが必要になります。要するにキャブレター車の場合は“バイクを運転する”と、“バイクを調整する”という全く別の2つの作業が必要になるのです。
そんなことを考えていたときに、ふと今回のレビューを通してあらためて気付いたことがあります。“楽器を録音してその音を調整する”という行為と、“楽器の演奏をする”という行為は別のもので、両方をこなすというのは大変だということ。全く別の作業が必要という難しさは、キャブレター車にも通じることです。そんな中、エンジニアでない人でも良い音が録音できるようなマイクがあれば最高です。これだけ便利な世の中になっているのですから、誰にでも簡単に良い音で楽器を録音できてもいいはず。しっかりと音のキャラが立ったLCT 040 Matchはそういうマイクになっていると感じます。
トランジェント・レスポンスが非常に良く
中高域の音の立ち上がりが際立つ
ではアコースティック・ギターの録音に再度挑みます。先ほども述べた通り、かなりキャラクターの濃いサウンド。周波数特性を見ると200Hzからロール・オフし、2kHzから上は最大で6dB近くブーストしているのです。イメージとしてはアコースティック・ギターが入っているポップスのミックスを終えて、最後にアコースティック・ギターだけをソロで聴いているイメージ。EQなどの処理を施したようなサウンドです。また中低域からロール・オフされているせいか、マイキングがシビアでなくても抜けの良い、オケになじみそうなサウンドが得られます。LEWITTが明記している通り、トランジェント・レスポンスが非常に良く、中高域の音の立ち上がりは際立っています。これなら録音知識の少ない方でも良い音が録音できると思いました。ただ、ギターのソロ演奏やナイロン弦の場合には、逆にハイエンドを若干抑える必要が出てくるような気がします。
引き続きマンドリンとピアノの録音をしてみましたが、サウンド的にはアコギのときと同様の印象。マンドリンの場合は若干元気が良過ぎる感じがありました。ピアノも抜け感が素晴らしく、まるでエキサイターをかけたかのようなサウンドです。使い方によっては非常に助かる音質で、どうしても抜けが良くならない場合などにLCT 040 Matchを足すことで、かなり良い結果が得られると思います。
最後にドラムのスネアに使用しました。音はとても好印象で、弊社サウンド・ダリにも導入したいと思うほどです。近接効果を良い感じに抑え、アタック感や裏の響き線をうまく拾ってくれます。コンデンサー・マイクならではのワイドなレンジ感や音の立ち上がりは非常に興味をそそられました。
全体的な印象として、近接のマイキングを得意とし、指向性はハイパー・カーディオイド寄りなので、音のかぶりも少ないと感じました。低域がすっきりしているので、低音楽器などにはなるべくオンマイクで使う方がベターだと思います。いろいろと試していきましたが、LEWITTが掲げるキャッチ・コピーは真実そのものでした。とてもコスト・パフォーマンスに優れたマイクになっています。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年9月号より)