微調節に対応するアウトプット・ゲイン
4ポイントのハイパス・フィルターを装備
ご覧の通り、パネルは同社おなじみのオールドNEVEを意識した配色と操作子となっています。それでは一番上のゲインから順に、機能面について見ていきましょう。
ゲイン・ノブは左に回すとライン・レベル、右へ回すとマイク・レベルで調整ができます。マイク・ゲインは、オールドNEVEと同じく80dBまで対応。ライン/マイク入力はAPI 500互換の規格上、接続端子を共有する仕様となっています。レベルを表示するLEDランプはCLIP/0VU/−20dBuの3つで、マスター・ボリューム(O/P)通過後のレベルが表示されます。0VUは−18dBuに調整されていて、挙動としてはやはりピークというよりVUらしい感じです。その右側には48Vファンタム電源のオン/オフ・スイッチを構え、オン/オフの状態をLEDライトで確認できます。
続いて下段には47/82/150/270Hzの周波数ポイントを備えるハイパス・フィルター(HPF)とマスター・アウトプット(O/P)のゲイン、PHASE(位相反転)を配備。ハイパス・フィルターとPHASEにはオン/オフ・スイッチが装備されており、こちらもLEDライトでオン/オフが表示されます。マイク・プリアンプにおける必要な機能が十分に備わっていますね。一番下にはDIイン(フォーン)も搭載されています。こちらの入力インピーダンスは10MΩとかなり高めで、ピエゾ・ピックアップからCDプレーヤーのラインまで、幅広い入力に対応可能です。これはなかなか使えるのではないでしょうか。
回路はオール・クラスAディスクリート設計で、ノース・ハリウッドのハンドビルド製品となっています。基板の写真を見る限りカスタム・トランスだけではなく、WIMAのメタライズド・フィルム・コンデンサーなど、オーディオ・グレードのパーツがふんだんに使われているようです。
スムーズなハイエンドと
芯があって張り出した中低域
それでは実際に使っていきます。まずはエレキギターの収録でチェックしてみました。第一印象は“太い!”の一言。レコーディング・エンジニアが好むようなサウンドをいとも簡単に出してくれます。例えるならNEVE 1272辺りをほうふつさせる芯があって張り出した中低域と、スムーズなハイエンドが特徴です。いやな倍音は抑えられて、気持ち良い部分だけがよく聴こえてきます。開放的というよりはしっかりまとまったサウンド、という印象です。
次はスネアに使ってみたところ、リッチなサウンドになってとてもいい感じです。トランジェントは抑え気味なのですが、1272よりスピード感があります。胴鳴り感がぐっと前に出てきながらもアタックは固くならず、扱いやすいサウンド。オフ気味のマイキングでも十分低域が出てくる感じです。
続いてスネアでゲインを上げて、サチュレーションを狙ったセッティングも試みました。こちらはオールドNEVEとは違った特性で、やや明るめのひずみ具合という印象です。しかしそのつぶれ方たるや非常に音楽的で、好感の持てるキャラクターとなっています。かなりオーバー気味にひずませるとパリパリとは言わず、コンプをかけたような飽和感が得られていい感じ。これならひずみも積極的に使っていきたいです。さらにトランスのカラーが原音に加わり、ビンテージ感も十分に味わえます。
ボーカルではハイパス・フィルターの切れ具合がとても的確に感じました。音質は、声のおいしい中低域をしっかり出しながらもブーミーにはなりません。コンデンサー・マイクでは気持ち良いシビランスを表現してくれます。
最後にDIインからアナログ・シンセを入力してみました。シンセに関しては今までさまざまなDIを試してきましたが、歴代のベストに近いかもしれません。上モノだけではなくベース音も良い鳴りっぷりで、太いだけでなく高域も奇麗に伸びています。少しクリップさせるくらいまでにゲインを上げてもかっこいいですね。素材のおいしいところをうまく引き出してくれるDI、といった質感です。
最近スタジオに出入りするエンジニアの間で“AURORA AUDIOはいいよ!”という声が聞こえてきて、実際に知り合いが同社製品を購入していたのですが、GT500も期待を全く裏切らない仕上がりになっていました。価格は少々高めではありますが、このクオリティなら納得です。DAW内で仕上げるのが普通になってきた昨今、マイク・プリアンプに求められるのは“いかにデジタル感を排除するか”だと思うのですが、それに答えてくれる製品だと思います。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年8月号より)