持ち出したくなるコンパクトで軽量な筐体
細かな設定が可能なリミッターを内蔵
箱から出してまず最初に驚いたのはその軽さです。特徴的な4つのマイク・カプセルを頂に据えた円すい型のフォルムは片手の上に乗ってしまうほどコンパクトで、アウトドアへも積極的に持ち出したいサイズ感。筐体底部にはカメラ三脚用のねじ穴も付いているので、市販の三脚にそのまま設置することも可能です。筆者も時折マルチチャンネル用のレコーディングを行うのですが、その際には複数本のマイクやアームなどを持ち出すのでどうしても荷物が多くなってしまいがち。しかし、H3-VRはこの大きさで4ch/360°レコーディングが可能なので、フットワークの軽さは大幅に変わるでしょう。
録音フォーマットはAmbisonics A/B(FuMa/AmbiX)、ステレオ、バイノーラル。サンプリング・レートはそれぞれ44.1kHz/48kHz/96kHz、ビット・レートは16もしくは24ビットのWAV形式となっています(バイノーラル録音時の上限は48kHz)。個人的には192kHzまで対応してほしいところですが、4ch同時録音であることを考えると十分なスペックでしょう。Ambisonics形式の録音データは本体内でステレオ/バイノーラル方式に変換しながらモニタリングできるので(96kHz録音時のモニターはステレオのみ)、ヘッドフォンで収音状態を確認しながらマイク・ゲインの調整が可能です。
本体のディスプレイ・サイズは小さめですが、録音に必要な情報は最低限表示されているので問題無く操作できました。筐体側面にあるダイアルでマイク・ゲインの調整はすぐに行えますし、視認性の高いRECボタンも1回押せば録音がスタートします。内蔵のリミッターはピーク時に音のクリッピングを防ぐだけでなく、アタック/リリース・タイム、スレッショルドを細かく設定できるのには驚きました。また本体設置時には位置センサーによって検出されるマイク・ポジションがディスプレイ上に表示されるので、水平器が無くても素早く正確なセッティングが行えます。
音源の位置や細かいニュアンスも収音
専用アプリでの遠隔操作が可能
今回は“三脚にH3-VRを設置した、街頭の環境音”と、“スタジオでH3-VRを取り囲むようにさまざまな楽器を鳴らした音”をAmbisonicsとバイノーラルでレコーディングしてみました。全体的に録り音も素直な印象で、Ambisonicsの録音では人々の喧騒や点在する音源の位置、スタジオで使用したシェイカーやカリンバなど楽器の細かいニュアンスも余すことなく集音することができました。バイノーラル録音したデータも、マイクの周囲を動く音像はなかなかの再現度です。高めの三脚に設置しても筐体がコンパクトなおかげで重心が不安定になることも無く、ディスプレイに表示されるマイク・ポジションを確認しながらスムーズに設営ができて、なんともストレスフリー。ただ、屋外に持ち出して使用してみると、H3-VR特有の形状が故にパッキング時に傷が付かないか不安になるので、専用ケースが欲しいところです。
またAmbisonicsデータ再生モードをトラッキングに設定すると、筐体の向きを変えるだけで聴きたい方向の音を再生することができるので、屋外で収音した360°オーディオをその場で確認する際にコンピューターを経由する必要がありません。再生音源の位置を本体の傾きで選択するこの機能は個人的にとても興味深く感じました。
さらに、ZOOMから提供されている無償のソフトウェア、ZOOM Ambisonics Playerを使用すると、Ambisonics内の方式変換やAmbisonicsから5.1chサラウンドに変換したり、上下/左右/傾きを調整するなどの編集を行うことができます。
実際にAmbisonicsで録音したデータをバイノーラルで再生しながら音源の抽出方向を変えて試聴していくと音像の変化がとても面白く、特に“ROLL”(傾き)を調整していくと音の天地がひっくり返るような、日常の中では有り得ない音像体験をすることができました。また別売りのBluetoothアダプター、BTA-1を本体に装着すれば、iOSアプリのH3 Control経由でリモート操作も可能です。
常に変化し続けるサウンドスケープのレコーディングにおいて、手軽に全方位の環境音を余すことなく記録できるというのはとてもうれしいことです。360°オーディオの特色を生かしたさまざまなコンテンツに活用できそうですし、この価格でこのクオリティの4ch/360°同時録音ができるのは画期的なのではないでしょうか。これからVRオーディオを導入したいと考えている人には最適な製品だと感じました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年1月号より)