前面が開いたショック・マウントは
着脱性と近距離のマイキングに優れた作り
ROSWELL PRO AUDIOは南カリフォルニアに拠点を置くブティック・マイクロフォン・メーカー。創業者のマット・マクグリン氏はDIYマイクロフォン・キット・パーツを製造するMICPARTSの運営や、世界有数のマイクロフォン・データ・ベースとして知られるWebサイトrecordinghacks.comを主催するなど、長年スタジオ・マイクロフォンの世界にかかわってきた人物です。そんな彼の豊富な知識から作り出される製品には製造方法にもこだわりがあって、カプセルを専用の旋盤にて削り出して製造ロットから最良のものを選択し、ノイズとカラーレーションが低減されるように選別した個体が使用されています。また、カリフォルニアで手作業のハンダ付けと組み立てが行われ、個別にチューニングとテストが実施されているそうです。
専用のキャリング・ケースを開けると、中にはマイク本体と、フラッシュ・マウント・フェイスと呼ばれるショック・マウントが同梱されています。このショック・マウントは金属製で、前面に何も遮るものがなく、マイクを簡単に脱着することが可能。また、この構造のおかげで楽器やボーカリストに可能な限りセッティングを近付けて、自然な接近効果を得ることができます。この辺りも多くのマイクを扱ったことがあるマクグリン氏だからこその発想だと思いました。
機能は必要最低限で、オムニ/トゥルー・カーディオイドの切り替えスイッチと、大音量の録音ソースにも対応できるように−10dBのPADスイッチが付いているのみ。個人的にシンプルな作りのマイクは好きなのでうれしいポイントです。
価格以上のきめ細かさと密度
豊かな中域で原音再現性の高いサウンド
今回は、アコースティック・ギターとボーカルを使用してテストをしてみようと思います。最初に接続して思ったのはとても静かでノイズが少ないということ。これはマイクで最も大切なことで、よく設計されている証明でもあるでしょう。
まずはアコースティック・ギターのアルペジオから試していきます。通常通り60cm程度離れた場所から12フレットを狙ってマイキングをしました。全体の特徴としてはごまかしの無いナチュラルな音です。新しいマイクにありがちな、ミックスを意識してEQが施されたような音とは対局にあるサウンドと言えるでしょう。誤解を恐れずに言うなら“すごく良い音”や“驚きの音”などという感じではないのですが、長く付き合える良い機材というのは最初の印象は地味なものが多いので、個人的には好印象。帯域ごとの特徴は、高域に嫌なピークや癖が無く、豊かな中域で、低域は自然な質感になっています。中域に関してはこのくらい出ている方が弾きやすいですが、楽曲によってはミキシング時に少し帯域の整理が必要になってくるかもしれません。
次にアコースティック・ギターでのストローク。ここで気付いたのが出力レベルが大きく、感度が高いということです。マイクの出力レベルが大きければプリアンプのゲインを大きく上げなくて済みますし、感度の高さはローノイズという特徴の裏付けだと思います。
ボーカルでもテストしてみましょう。まずはつぶやき系のボーカルを接近効果を狙って録音してみたところ、低域が奇麗に録れました。歌モノのボーカルでは通常のセッティングでも良い音で録れたのですが、低域のキャラクターにうまみがあるのではと考え、マイクを歌手の口よりも少し高い場所に設置して、少し下向きに角度を付けた状態でも録音しました。すると、破裂音を避けつつ胸の響きをうまくとらえることができました。上記のように低域に少しおいしさがありますが、ボーカルによってはEQやローカット、コンプレッサーをうまく使っていく必要性があるでしょう。しかし、音のきめ細かさと密度は価格以上のものを感じましたし、男女問わずボーカルの良さを引き出すことのできる守備範囲の広いコンデンサー・マイクだと思いました。
本機のテストを行い一貫して感じたことは、音の忠実性。今回は残念ながら試すことはできませんでしたが、オムニ・パターンでアンビエンス・マイクなどにも最適なのではないでしょうか。
長年スタジオ・マイクロフォンの世界にかかわってきたマット・マクグリン氏による本製品。こだわりの材質選びから製作工程、チューニング、テストと誠実さを欠くことなくユーザーに製品を届けていることの熱意が感じられるマイクです。今まで自分たちがスタジオで使用してきたマイクの知識から良い点とそうでない点を整理して、低価格にて扱いやすいマイクを実現しているんだなあと、使いながら感じました。
10万円前後という価格を考えると、驚きのパフォーマンスです。まずはショップでの試聴をお勧めします。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年8月号より)