厳選パラメーターで直感的操作が可能な
“分かりやすいFMシンセ”
スチール製のマット・ブラックな筐体はELEKTRONのハードウェアらしいシンプルで理路整然としたデザイン。ラバー製ノブは指にしっかりなじみ、モードによって発光色が変化するボタンや有機LEDディスプレイは暗い場所でも見えやすく、直感的に演奏やエディットができます。ワンポイントのボタン・カラーがデザインのアクセントになっているだけではなく、操作性/視認性にも優れていることが、実際に演奏してみると感じられますね。Machinedrum SPS-1 MKIIと並べてみても奥行き、高さがほぼ一緒で統一感がありとてもスッキリしています。最大64ステップのシーケンサーと組み合わせ、シンセ・トラックとMIDIトラックを各4系統搭載。ハードウェア・シンセなどをつなげばDigitoneからパターンを鳴らすことも可能です。またELEKTRONでは定番となったOverbridgeに対応予定。USBでコンピューターと接続すると、専用AU/VSTプラグイン経由でDAWからDigitoneのパネルと同じインターフェースを持つ画面上で操作できるようになります。
触ってみた最初の印象は、FMシンセシスがこんなにも分かりやすく行えるのか!という驚きと喜びでした。ディスプレイにはエディットに必要なパラメーターが厳選され、本体ノブの配置とリンクして表示されているので、FMシンセによく言われる音作りのつらさは全く感じず、直感的に音を創造していくことに集中できます(画面1)。
LP/BP/HPの切り替えが可能なフィルターのほかエフェクトも充実していて、オーバードライブ、コーラス、ディレイ、リバーブがあり、幅広い音作りが可能です。特にオーバードライブやコーラスが気持ち良く、ハイファイなFMシンセの透き通った音像をひずませたり広げたりと、多彩な音色作りに一役買っています。
もちろん豊富なプリセット音源も用意されているので、そこから自分の好きなサウンドを選択&エディットしていくことで新たな音色を生み出すことも可能です。
条件付きパラメーター・ロックで
パターンに予期せぬ変化を加える
ELEKTRONのお家芸、パラメーター・ロックも健在です。さまざまなパラメーター(FMアルゴリズムまでも!)を、ノブを使ってステップ単位でリアルタイムに変化させ、それをシーケンスに記録しておくことが可能。さまざまな表情のサウンドを簡単に生成することができます。
さらに注目すべき機能の一つとして“条件付きロック”も見逃せません(画面2)。これはシーケンサーで設定したトリガー・パターンそれぞれに“発音の振る舞い”を個別に設定することができるモード。パターンの何回中何回発音されるか、PAGEボタンを押したときにフィルがトリガーされるか/されないか、X%の確率でトリガーさせるかなど、ステップごとに細かく調整ができるので、一つのシーケンスから演奏を拡張させていくことが可能です。それぞれのステップに割り当てていくことで、シーケンス全体にダイナミックかつ有機的な変化を付けることができます。設定によっては音色のスイッチングのようなこともできるので、ライブ・パフォーマンスにも活用できる機能です。トリガー条件について詳しく理解していなくとも、ノートごとにいろいろと“条件付きロック”を設定していくうちに、予期せぬパターンを発生/発展させていくことができる“魔法の機能”だと感じました。
LEDが点灯するTRIG 1〜16キーの感触も良く、とても演奏しやすい印象です。リズムではなく、メロディや和音の打ち込みをステップ式で行うのは慣れが必要かなと思いましたが、ステップごとに音を割り当てていく際にTRIG 1〜16キーとAdd Notes(♫マーク)キーを使用すると、ディスプレイにキーボードが現れるので、今どこの鍵盤を押さえているのか、確認しながら打ち込むことができます。内蔵アルペジエイターなども活用しながらLive Recordingモードで大まかなフレーズを弾いた後、細かくパラメーターを詰めていくと、とてもスムーズにパターンを作成できました。もちろんMIDI IN、OUT、THRU端子も付いているので、自前のMIDIキーボードを使って打ち込むことも可能です。
ちなみに細かい部分ですが、バンク・セレクトの際の待機時間(BANKを押してからTRIG 9〜16を押してバンク選択するまでの時間)が増えたことが個人的にはうれしく、ライブ時など片手で次のバンクを選ぶ操作がしやすくなりました。
充実したプリセット音色を聴いても分かるように、Digitoneは本当に幅広い音色を作ることができます。そのほか音を厚くするUNISON SPREADや、FMアルゴリズムにもアサインできる自由度の高い2基のLFOなど、魅力的な機能がたくさんありますので、実際に触ってみることを強くお勧めします!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年6月号より)
撮影:川村容一