フロント・アドレス型を採用
背面からのかぶりを大幅に抑制
まずは外観を見てみてみると、フロント・アドレス型のコンデンサー・マイクです。ボーカル用をうたうコンデンサー・マイクで、フロント・アドレス型はあまり見かけないですね。ここにも設計者のこだわりや工夫が見られるようです。
仕様については、24〜48Vのファンタム電源で動作し、指向性の切り替えやPAD、ローカット・フィルターなどは付いていません。グリルの内側にはスクリーンが入っているため、近距離で使用するとき以外は外部のポップ・フィルターが要らないようです。指向性は、フロント・アドレスという設計から狭い単一指向なのかなと想像しましたが、むしろ逆。フロントの半球全体で一定の周波数応答を持つワイドな単一指向性です。実際にスタジオでNEUMANN U87と比べてみたところ、ボーカリストがダイアフラムの正面から外れていくにつれてU87は周波数特性が著しく変化し、フォーカスが崩れていったのに対して、SV33はボーカリストがダイアフラムの真横に来るくらいまではディテールを崩しません。
そして構造上の利点なのか、ボーカリストが背面(フロントの半球と真逆側)に来るとグッとレベルが下がります。これは、使用時にどう影響してくるのでしょう? 残響の多い部屋でレコーディングする場合、収音されるのは“実音(声)+残響”となるため、深くコンプレッションすると声が遠く聴こえてしまうこともあります。ですがSV33は背面からのかぶりが少ないため、深くコンプをかけても音が遠くなりにくいというメリットがあるのです。検証してみると、やはりU87よりアンビエンスが少ないという結果でした。また、歌い手によっては体全体を揺らしつつパフォーマンスする方も居らっしゃいますが、正面のスイート・スポット辺りでの音色変化も概ね少ない印象です。こうした特性は構造に起因するものでしょうか、かなりの工夫がうかがえます。本機はスタジオでの使用を前提に開発されているようですが、構造面から考えて、ルーム・アコースティックにクセのあるプライベート・スタジオなどでも威力を発揮すると思います。
声を張ったときの飽和感が少なく
近接効果による音色変化も緩やか
SV33の音“色”をチェックする前は、QTCシリーズのイメージから、時にシビアと感じられるほどのフラットな周波数特性を想像していましたが、テストしてみると歌にフォーカスするようチューニングされていることが分かりました。唇の動きが分かるようなリアリティを備えつつ、低域の押し出しもしっかりと感じられます。例えるならば、U87で収めたボーカルの超高域をEQでブーストし、キンキンと耳に痛い成分は抑制。濁った帯域を整理しつつ、存在感としての低域を少し持ち上げたような音……そんな印象です。現代のニーズに応えた、完成品に近い出音だと思います。
なのですが、カラーとしてはEARTHWORKS伝統の“透明感”を覚えました。声を張ったときの飽和感、ひずみ感が少ないためにそう思ったのかもしれません。S/Nに関しても申し分ないです。近接効果による音色の変化も緩やかで、低域の増減以上に、ボーカリストがマイクから離れていっても空気感としての高域が変化しにくいのが印象的。取扱説明書には、オンマイクだけでなくちょっと離してみたり、角度を付けて頭や体全体で鳴っている倍音をとらえるようなマイキングにもトライしてみてほしいと書かれていますね。
ボーカリスト以外のソースでもチェックしてみました。アコースティック・ギターのカッティングを録ってみたところ、曲調との関係もあってほかの音から浮いてしまったため不採用になりましたが、アルペジオなどの弱音パートを楽器の響きにフォーカスして(ルーム感はあまり入れず)録りたいときに活躍してくれそう。また、アコギからの距離を長めに取っても高域が奇麗に伸びるので、うまく響きをとらえられると思います。
続いてはストリングス・カルテットのバイオリンに立ててみましたが、ほかの3本とのバランスが取れずに、こちらも不採用となりました。録り音を聴いてみると、きちんと4本のSV33をそろえて録ってみたくなるリアリティがあったのですが、やはり声やソロ楽器といった“主役”向きのマイクのようです。あえて言うならば、大音量ソースや金属的な音よりも、小さな声や繊細な出音をそのままとらえるのに向いていると思います。また見た目を含め、ぜひヒップホップやラップでも使ってみてほしいです。ハイファイ系のサウンドでありながら声がちゃんと前に来ますし、打ち込みのオケに負けない明りょう度を備えているので、きっとマッチすると思います。
今回のテストは、指向性やソースとの距離による音の変化、ささいなことで変わる出音など、録音の基本を再認識させてくれました。このユニークな構造のSV33を使い、さまざまなシチュエーションでマイキングを実験するのも楽しいと思います。付属の豪華なチェリー・ウッド・ボックスと併せて、録音の道具として長く使っていけるのではないでしょうか。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年5月号より)