UNIVERSAL AUDIO PolyMax Synth レビュー:専用ハードウェア無しで使用可能なUADプラグインのポリフォニック・シンセ

UNIVERSAL AUDIO PolyMax Synth レビュー:専用ハードウェア無しで使用可能なUADプラグインのポリフォニック・シンセ

 UNIVERSAL AUDIO PolyMax Synthは、ハードウェアのポリシンセをモデリングしたソフト・シンセです。同社のオーディオ・インターフェースApolloのような専用ハードウェアを接続することなく使えるUAD Nativeプラグインで、macOS 10.15 Catalina以降、またはWindows10/11で動作。UAD Sparkのサブスクリプションでも使用可能です。

アタックからリリースまで上質なシンセの鳴り

 まず特筆すべきはシンセの“鳴り”です。1音鳴らすと、アタックからリリースまでデジタル音源と思えない上質な空気感をまとっていて、本当にDAW上で鳴らしているのか不思議に思うほどでした。単体で鳴らすだけでも満足してしまいそうですが、多様な音が必要な楽曲の中で使用したときにこそ真価を発揮するシンセです。バンド・サウンドのように生で録音された音がメインの楽曲でも、PolyMax Synthが持つ上質な空気感は無理なく混ざるのではと感じました。

 ユーザー・インターフェースはシンプルで、音作りに必要最小限でありつつも高品質な機能を備え、各ツマミの効きも分かりやすいので、シンセ初心者にもやさしいです。ENVELOPE/AMPLIFIERセクションのデザインはかわいく、鳴らしている音のADSRの各タイミングで各ツマミが光るなど、細かい遊び心が楽しいです(例えば、音の立ち上がりでAttack、鍵盤を離したときにReleaseのツマミが光ります)。

 操作画面とプリセット選択画面が分かれているので、音色の検索が非常にしやすく、プリセット選択画面はツマミをいじり出した瞬間に閉じるので、アイディアを失わないためにスピードが必須となる音色選びの過程でも、煩雑にならず直感的な操作が可能です。

プリセット選択画面(画面左)と操作画面(同右)が分かれ、音色が探しやすい

プリセット選択画面(画面左)と操作画面(同右)が分かれ、音色が探しやすい

実際の曲作りにフォーカスしたジャンル別プリセット

 プリセットのカテゴリー分けは“確かにこのジャンルで使ってみたいかも”と思わせてくれる、実際の曲作りにフォーカスした音が選ばれています。プリセット音源のクオリティは非常に高く、立ち上げただけで即戦力として使えそうな音源が多い印象です。

プリセット選択画面。GENREタブでは、ジャンルに分けて絞り込みが可能。カテゴリーは実際の曲作りにフォーカスした音が選ばれている

プリセット選択画面。GENREタブでは、ジャンルに分けて絞り込みが可能。カテゴリーは実際の曲作りにフォーカスした音が選ばれている

 特に気になったプリセットをタイプ別に紹介します。PadやPolyは、ステレオの広がり方が素晴らしく、ステレオ・イメージャーなどで調整せずとも楽曲の中で強力な存在感を放ちそうです。Leadカテゴリーの音色は、抜けが良く、ハイがきつくないものが多いです。音圧を稼がずに勝負したい昨今のダンス・ミュージックを作るのに最適ですし、ほかのジャンルでも無理なく効果的に使用できるでしょう。

タブを切り替えるとタイプ別でのカテゴリー分けが表示される。筆者のお気に入りは上から左列2段目のPad、中央列1段目のPolyなどで、ステレオの広がり方が素晴らしいと評価

タブを切り替えるとタイプ別でのカテゴリー分けが表示される。筆者のお気に入りは上から左列2段目のPad、中央列1段目のPolyなどで、ステレオの広がり方が素晴らしいと評価

 FXカテゴリーには過剰に演出された音色が無く、“実践的な飛び道具”としてそのまま使える音色が多い印象でした。サウンド・デザインやアンビエント・ミュージックのような抽象的な音作りだけでなく、かっちりとしたポップスの中にスパイスとして混ぜても効果を発揮するでしょう。

ナチュラルなリバーブ・サウンド

 次に付属のエフェクトを見ていきます。SPACE FX(リバーブ)セクションは特にSPRINGのモノラル具合、飛び方が抜群でした。楽曲の最後やブレイクのタイミングで、このリバーブの余韻が聴こえたらかなりかっこいいだろうなと妄想しています。MOD FXセクションはPHASER、FLANGER、CHORUSともに、デジタル・エフェクトにありがちな“かかっています”感がなく非常にナチュラルでした。単に音像を広げたいときにも使えそうです。

 また、私はシンセを操作する際、音作りに大きく影響するCUTOFFのクオリティをかなり重視するのですが、PolyMax SynthのCUTOFFは上質な開閉作業が可能でした。

ピッチ・ベンドの可動域を調整できるBEND AMT

 最後に、個人的に気に入った機能を幾つか紹介します。まずはWHEELSセクションにあり、ピッチ・ベンドの可動域を決められるBEND AMT機能です。MIDI鍵盤の性能に依拠せず、簡単に好きなベンド具合でシンセ・ソロを演奏できますし、オートメーションで可動域を書けば、よりカオスな音像を作れると感じました。

WHEELSセクションの左端にあるBEND AMTでは、ピッチ・ベンドの可動域を設定可能だ

WHEELSセクションの左端にあるBEND AMTでは、ピッチ・ベンドの可動域を設定可能だ

 次にOSCILATORのMIXセクションにあるNOISEです。楽曲の聴感を良くするためにあえてピンク・ノイズやホワイト・ノイズを付加したい場合に使うと、ナチュラルな質感のノイズが得られます。同じOSCILATORにあるFM(OSC2)=フリケンシー・モジュレーション・ノブはどの音色に使っても効果的で、サチュレーションのような効果や、ワイド感が増す仕上がりにもなるので多用すると思います。

OSCILLATOR 1と2の間にあるMIXセクションでは、NOISEを付加できる。筆者お気に入りのFM(OSC 2)ノブはOSCILLATORセクションの左下に位置し、音色によってはサチュレーションのような効果やワイド感を増幅できる

OSCILLATOR 1と2の間にあるMIXセクションでは、NOISEを付加できる。筆者お気に入りのFM(OSC 2)ノブはOSCILLATORセクションの左下に位置し、音色によってはサチュレーションのような効果やワイド感を増幅できる

 PolyMax Synthは、私がいつもソフト・シンセに後から加えるノイズやサチュレーション、ステレオ・イメージャーやオートメーションなどの処理をせずとも、内部の高品質なエフェクトやオシレーターでナチュラルにその音作りが可能です。そのため楽曲を制作する際に“ひとまずアイディアを試すために最初に立ち上げるシンセ”として非常に優れています。ぜひいろいろなジャンルで使用してみてください。

 

ESME MORI(エズミ・モリ)
【Profile】プロデューサー/シンガー・ソングライター。CM音楽、アーティストへの楽曲提供/プロデュース、劇伴など多岐にわたる活動を行う。自身の作品として1stアルバム『隔たりの青』をリリース。

 

UNIVERSAL AUDIO PolyMax Synth

ソフトウェア単体:199ドル
UAD Spark(サブスクリプション):19.99ドル/月額、149.99ドル/年額

UNIVERSAL AUDIO PolyMax Synth

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15/11/12/13
▪Windows:Windows 10/11
▪共通項目:INTEL、AMDまたはApple Siliconプロセッサー、インターネット接続(ダウンロード、オーソライズ用)、iLokアカウント、UA Connectアプリケーション、1〜10GBのSSDストレージ
▪対応フォーマット:AAX/AU/VST

製品情報

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