U・D・O(ユー・ディー・オー)は、普段からシンセの情報をチェックしている方なら聞いたことがあるかもしれません。英国のブリストルに拠点を置く新進気鋭のメーカーです。同社の主力機であるSuper 6がついに日本へ上陸しましたのでその全貌をレポートさせていただきます。
12ボイスのデジタル・オシレーターを搭載 SUPERモードで広がりの音に
Super 6は“バイノーラル・アナログ・ハイブリッド・シンセ”とうたわれている通り、立体音響の一つであるバイノーラル機能を搭載したポリフォニック・シンセです。デジタルのオシレーターにアナログの信号処理を行うというハイスペックな内容となっています。製品としては49健の鍵盤を搭載したモデルと鍵盤なしのSuper 6 Desktopがラインナップされており、鍵盤モデルはブルーとグレーの2色、Desktopはホワイトの1色のみです。
今回、お借りしたのは鍵盤モデルのグレー版で、筐体の質感にとても高級感があり、第一印象は“かっこいい”の一言。鍵盤はFATAR製です。それなりの重量があり、ソフト・ケースに入れて背中に担ぐには少々重いレベルですが、スペック的に言えば標準的といえます。電源トランスも本体に組み込んでおりチープさは全く感じません。過去の名機にインスパイアされたというだけあって、ビンテージとモダンのシンセのいいとこ取りをしたような機能を持っています。
では、その機能を詳しく見ていきます。仕様はざっくり言うと、12ボイスで2デジタル・オシレーター+HPF+LPF+VCA、これにADSRタイプの2エンベロープ・ジェネレーター+2LFO、さらにはマトリクス・モジュレーションで相当複雑な音作りができます。
12ボイスなのになぜ“Super 6”という名前なのかというと、BINAURAL(バイノーラル)モードをオンにするとL/Rで2つのボイスを消費するため実質的に6ボイスで動作することを前提にしているからです。このモードでは広がりが増す感じのサウンドに変化します。BINAURALモードでのそのほかの効果は後述します。
オシレーターはU・D・O独自のダイレクト・デジタル・シンセシス(DDS)と呼ばれるもので、FPGAベースで50MHzというハイサンプリング・レートで波形を生成するとのこと。非常にクリアでデジタルくささを感じない音を出してくれます。波形はクラシックなサイン波、ノコギリ波、パルス波、三角波、ノイズのほか、これらとは別にオシレーター1(DDS1)のみ2バンク×16種類の独自波形を選択可能です。
この波形はWAVEボタンを押すことで簡単に切り替えられるので、 “メニュー・ダイビング”と言われるような、小さな液晶ディスプレイで深い階層に入っていくまどろっこしさがありません。音的にはウェーブテーブルのようなものを想像していただけたらと思いますが、コンピューターとUSB接続して別波形に置き換えることもできます。
BINAURALモードでのDDS1には、SUPERモードという設定が用意されており、これはDDS MODULATORセクションでオンにできます。
これは中心オシレーター(セントロイド・オシレーター)と呼ばれる主軸になるオシレーターに対して、広がり成分として位相をずらすことができる6つの姉妹オシレーター(シスター・オシレーター)をミックスするというモード。DETUNEつまみを上げていくとシスター・オシレーターが気持ちよく広がっていくのが分かります。理屈はともあれ、音としては非常に分厚くリッチな音を作りやすい機能と言えるでしょう。位相に関しては2次元的にずらしているのではなくダイナミクスに対しても挙動を変えているようなので、そこがバイノーラル的な要素となっているのかもしれません。またSUPERモードにはフルと1/2の2モードがあり、これは効果の強弱と考えてよさそうです。
次にオシレーター2(DDS2)ですが、こちらにはハード・タイプのオシレーター・シンク(SYNC)や鍵盤中央でDDS1とDDS2をクロスフェードさせる機能(X-FADE)のほか、LFOに切り替えることもでき、その際はDDS1のサブオシレーターとして動作します。これらのオシレーターのほかに外部オーディオ入力をフィルターに送り込むことも可能です。
DDS MODULATORセクションでは、前述のSUPERモードの調整のほか、モジュレーション・ソースの選択も可能で、クロス・モジュレーションもフェーダー一つでかけられます。さらにそこへDDS2のオシレーター・シンクをオンにすると、DDS2がDDS1にフリケンシー・モジュレーションされます。これは事実上ウェーブ・フォールディングのような効果をもたらしますが、KORG Mono/Polyに付いていたモジュレーション機能に似ているかもしれません。
アナログ仕様のローパス・フィルター オシレーターでモジュレーションも可能
VCFは完全にアナログの仕様で、-24dB/octタイプのレゾナント・ローパス・フィルターを搭載しています。
これはPPG Wave 2.3に搭載されていたVCFチップ、SOLID STATE MICROTECHNOLOGY SSM2044の現代版、SSIのVCFチップを採用しているとのこと。筆者のスタジオには本物のWave 2.3があるので比較してみたのですが、キャラクター的にはかなり似ています。レゾナンスを上げると少しローが引っ込んでいって、強調されるカットオフ周波数周辺がシャープに立ち上がっていくところなどもそっくり。非常にキレのいい音楽的かつ上品さが漂う特性のフィルターです。
ローパス・フィルターの前段にあるハイパス・フィルターもアンサンブルの中でうまく音を置いていくためには積極的に使える機能ですが、それだけに終わらず本機ではHPFスイッチを“TRK”にすると、カットオフがローパスと連動してバンドパス的なかけ方もできるのもユニークです。
VCFではDRIVEスイッチによってひずみも加えられます。近年のアナログ・シンセには搭載されていることの多い機能ですが、本機では軽いサチュレーションとしっかりディストーションになる2モードが用意されており、カットオフとレゾナンスの位置によってひずみ方はかなり変わるようです。この辺りはアナログの面白いところだと思います。
DDS2をカットオフのモジュレーション・ソースとしても使用できます。DDS2を通常のオシレーター波形で使っていた場合はFM(フリケンシー・モジュレーション)となり、ひずんだリング・モジュレーターのような複雑な倍音が付加されます。またDDS2をLFOに切り替えていた場合には、LFO1とは別の第2のLFOをソースとしたワウ効果を出せます。
そのほか、当然エンベロープでフィルターをスイープさせることもできるのですが、変わり種としてENVスイッチを“1+2”にするとENV1とENV2の両方を同時にかけることができます。設定次第ではかなり複雑で変態なエンベロープ・カーブが生成されます。
次にVCAです。デフォルトではENV2がVCAを動かしていますが、実は2つのエンベロープとは別に固定エンベロープが2つ用意されており、これらはサステイン・レベルがマックスで固定されているタイプなので、これをVCAに使ってENV1をオシレーターに、ENV2をフィルター用に割り当てるなんてことも可能です。
DYNAMICSスイッチは、鍵盤のベロシティでVCAをコントロールするかどうかを決定します。スイッチ一つでベロシティをオンにできるのはとても使いやすいです。またLFO 1もVCAにデフォルトでつながっており、ツマミを上げればすぐにトレモロ効果が出せます。
エンベロープですが、こちらは伝統的なADSRタイプ。ENV1だけ“H”というつまみがありますが、これはアタック・ホールドで、要するに鍵盤を押してから実際にアタックが出るまでのタイムラグを調整するものです。エンベロープ・カーブは逆相にもできるので、ピッチにアサインして音のアタック部分にちょっとした“引っかかり”を付けたりするのはよくある手法です。
KEYTRACKがフィルター・セクションではなくエンベロープに付いていることを不思議に思うかもしれませんが、これは鍵盤が右に行けば行くほどディケイとリリースのタイムが速くなるという自然の物理特性にもよくある効果を出したいときに使います。加えて、ENV1にはループ・モードも搭載されていて、エンベロープをリピートさせることである種のLFO的な使い方ができます。モジュラー・シンセなどでよく見かけるモードでしょう。
LFOは第3のオシレーターとしても利用可能 アルペジエイター/ステップ・シーケンサーも搭載
LFOにもモジュラー・シンセ並みの工夫が見られます。LFOが2つと書いてしまいましたが、実際にはフリーランニングの三角波を持つだけのLFO 2とは違い、LFO 1では6つのスーパーボイスに1個ずつ、合計6つのLFOが内蔵されており、波形が鍵盤を押すタイミングに同期する場合にはボイスごとに個別に動作するようになっています。
LFOの周波数は通常は0.05Hz〜50Hzの範囲ですが、HF(ハイフリケンシー)モードにすると20Hz〜20kHzの可聴域に切り替わり、第3のオシレーターのような働きをします。切り替えた後も通常のLFOのように使えばフリケンシー・モジュレーションになり、波形を”HF TRK”にすればキーボードにピッチが追従するので完全にオシレーターになります(波形はサイン波固定)。この場合、MODEスイッチで通常のLFOとして使うのか、DDS1またはDDS2のルーティングに混ぜてオーディオ信号として扱うのかを決定します。
LFOのRATEフェーダーは、後述のARPEGGIATOR / SEQUENCERセクションのSYNCボタンを押せば、そのテンポに合った音符単位に追従します。32分音符〜全音符の間でクロックのタイミングを調整でき、3連や付点音符にも適合。また、LR PHASEフェーダーはバイノーラル・サウンド・エンジンの左右のチャンネル位相で、LFO1が与えるステレオ・フィールドの影響を調整できます。要するに左右で位相をずらしたLFO波形でモジュレーションがかけられるというわけです。
内蔵の24ビットのデジタル・エフェクトも充実しています。外部クロックに同期できるステレオ・ディレイとROLAND Junoシリーズを意識したようなデュアルモード・ステレオ・コーラスを内蔵。またディレイにはルーパーみたいな役割を果たすディレイ・フリーズ・モードもあります。
そのほか、ARPEGGIATOR / SEQUENCERセクションでは、同期可能なアルペジエイターと長さを指定できる64ステップのステップ・シーケンサーが搭載されています。アクセントやスライド、休符などをプログラムでき、パターンは個別保存可能です。
全体的に音はとてもクリアで、BINAURALモードの広がり方も3Dというよりは自然な広がりを感じ、左右で違うボイスを使っているせいもありますが、音の押出感がぐっと増す印象がありました。シンセに熟知した人だけが思いつきそうな機能を満載しているので音作りは相当楽しめるのではないでしょうか。
林田涼太
【Profile】いろはサウンドプロダクションズ代表。録音/ミックス・エンジニアとして、ロックからレゲエ、ヒップホップとさまざまな作品を手掛ける。シンセにも造詣が深く、9dwのサポート(syn)としても活動。
U・D・O Super 6
オープン・プライス
(市場予想価格:499,800円前後)
SPECIFICATIONS
▪外形寸法:845(W)×105(H)×360(D)mm(ノブ含む) ▪重量:9.2kg