THREE-BODY TECH CENOZOIX COMPRESSOR レビュー:モダン&ビンテージのアルゴリズム24種を備えるコンプレッサープラグイン

THREE-BODY TECH CENOZOIX COMPRESSOR レビュー:モダン&ビンテージのアルゴリズム24種を備えるコンプレッサープラグイン

 愛用者も多いであろうKIRCHHOFF-EQで知られるTHREE-BODY TECHから、CENOZOIX COMPRESSORが発売されました。CENOZOIX(セノゾイックス)は、恐竜の絶滅後に哺乳類が大発展した時代にちなんで付けられた名前とのこと。その名の通り、新時代のダイナミクスコントロールをリードするようなコンプレッサープラグインです。

ウェーブシェイパーに使われていた技術を活用 エイリアシングを低減して透明感のあるサウンドに

 CENOZOIX COMPRESSORは、ドラム、ボーカル、バス、マスタリング、クリーン、タイト、オープンなど、用途やイメージに合わせた12種の現代的なコンプレッションアルゴリズムと、12種のビンテージコンプのサウンドを再現するアルゴリズムの計24種を搭載。あらゆるコンプレッションのニーズに対応しています。また、もともとはウェーブシェイパーに使われていた技術“Anti-Derivative Anti-Aliasing(ADAA)”をコンプレッサープラグインとしては初めて採用。従来デジタルコンプレッション時に発生する高周波のひずみを防ぐためにオーバーサンプリングが使われてきましたが、ADAAによりCPUへの過負担なしにエイリアシングを低減させることに成功しています。加えて“Adaptive Oversampling Interpolation”という技術によりエイリアシングをさらに可能な限り低減。ひずみのない透明感のあるサウンドを謳っています。

 エイリアシングとは、信号の周波数が現状のサンプルレートで対応可能な最高周波数を超えたときに発生する、高域のエラー信号のことです。これが人工的で不自然な音となり、デジタルコンプがアナログコンプほど良い音で鳴らない理由の一つとされてきたようです。

 次に、目新しい機能を中心にプラグイン画面を見ていきます。使い方はシンプルで、ゲインリダクションなどのグラフィックも大きくて明解。画面左下のアルゴリズム名(デフォルトではCleanという部分)をクリックすると24種のアルゴリズムが一挙に表示され、ビンテージ系のコンプはツマミや名前を見て、はは〜んとニヤけてしまいます。

コンプレッションアルゴリズムの一覧。上段がビンテージコンプで、元になったビンテージコンプをほうふつさせるツマミとネーミングが表示されている。下段は、用途やイメージに合わせた12種の現代的なコンプレッションアルゴリズムが並ぶ

コンプレッションアルゴリズムの一覧。上段がビンテージコンプで、元になったビンテージコンプをほうふつさせるツマミとネーミングが表示されている。下段は、用途やイメージに合わせた12種の現代的なコンプレッションアルゴリズムが並ぶ

 操作ノブはすべて連続可変式。Peak/RMSは速いトランジェント処理に適したPeakと滑らかなアタックとリリースのRMS、その両者のブレンドが可能です。FF/FBはフィードフォワード/フィードバックコンプレッションの略で、現代的なコンプに多いナチュラルでクリーンなサウンドのFF、ビンテージ機に採用される粘りのある太いサウンドのFBのブレンドが可能です。Odd/Evenでは奇数次(Odd)、偶数次(Even)倍音を調整。右(Even)に回すことで人工的に偶数次倍音を付加でき、アナログ真空管コンプのようなにじんだ質感が加わります。

ノブはすべて連続可変式。画面左のPeak/RMS、FF/FB、Odd/Evenはそれぞれブレンドして使うことも可能だ

ノブはすべて連続可変式。画面左のPeak/RMS、FF/FB、Odd/Evenはそれぞれブレンドして使うことも可能だ

 Attackノブの左にあるClampは、アタックが遅いときに抑えきれないトランジェントを再コンプする機能。ピークは抑えたいけどアタックの速い不自然なサウンドにはしたくないときに有効でしょう。De-Clickは、パーカッションやスネアなど、高速トランジェントを持つサウンドに効果的です。

 Releaseノブの右のTightは、低域にかかったコンプのアタック/リリースタイムを自動的に調整してくれる機能。12時の位置から右に回すと短いアタック/リリースタイムでタイトな低域になり、左に回すと逆になります。Sensitiveは超高性能オートリリース的機能で、音源のトランジェントに合ったリリースタイムの調整ができます。画面最下部には2、4、8、16倍が選べるオーバーサンプリングスイッチもあります。

同じコンプ設定のままアルゴリズムを変更可能

 実際のミックスで、各楽器やステム、マスターに使ってみました。波形表示が大きいのでゲインリダクションなどの動作具合が分かりやすく、ノブの操作性も良好。カーソルをノブに合わせてマウスをスクロールすると、ノブも連動して回るのが最高です。設定で変えられますが、SHIFTを押しながらノブを回すとファイン調整、ダブルクリックかcommand+クリックでノブがデフォルトに戻ります。プラグインの遅延は48kHzでなんと4サンプル! CPUの負担も軽そうです。

 各アルゴリズムは特長があって明確な使い分けができました。同じコンプ設定のままアルゴリズムを次々変えられるので音選びも快適です。筆者的には、US VCAやOpenの開放感、Black VCAの効きの良さ、Dist.VCAのエッジ感、Virtual-Muの低域のツヤ、CleanやNaturalの癖のなさ、Pluckの粒立ち具合などが好感触でした。

 使っていると、従来のコンププラグインとは違った天井の広さ、音像の大きさと透明感に気付きました。48kHzで使っていても、96kHzやそれ以上でミックスしているような感覚かもしれません(オーバーサンプリング関係なく)。実機のアナログコンプとも違ったクリアな音で、新しいサウンド感です。コンプレッションによる音質の変化も少なく感じます。

少しPumpを加えて“UREI 1176全押し”的なノリを付加

 先述の操作ノブは、微調整で少し加えるくらいが効果的に思えました。例えばPunch/Pumpスライダーで少しPumpを加えて“UREI 1176全押し”的なノリを足す、激しくつぶしてささくれ立ったリリース音にSensitiveを足して上質な印象に変えるなど。Tightノブでは、ボーカルのボワボワした低域を抑えながら引き締めることも簡単でした。

 CENOZOIX COMPRESSORはシンプルで使いやすく、使えば使うほど発見がありました。“正確でクリアなコンプは味がないけど、ビンテージ系コンプは雑味がありクリアでない”という筆者が長年感じてきた問題を別の視点から解決してくれたようでした。ぜひ使ってみていただきたいです。

 

福田聡
【Profile】レコーディング/ミキシングエンジニア。ファンクを礎に、グルーブ重視のサウンドを主に手掛けている。最近は.ENDRECHERI.、SANABAGUN.、SING LIKE TALKING、韻シストなど。

 

 

 

THREE-BODY TECH CENOZOIX COMPRESSOR

23,573円(価格は為替レートによって変動)

THREE-BODY TECH CENOZOIX COMPRESSOR

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降(64ビット)、Intel CPU SSE4.1以降またはApple Silicon、AAX/AU/VST/VST3対応のホストアプリケーション(64ビット)、Apple LogicはLogic Pro X以降に対応、2GB以上のRAMメモリ
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11、intelもしくはAMD CPU(SSE2命令セットをサポートするもの)、AAX/VST/VST3対応のホストアプリケーション(64ビット)、2GB以上のRAMメモリ

製品情報

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