SONARWORKS SoundID Referenceは、測定用ソフトウェアとDAW側で起動するキャリブレーション・プラグインで構成されるモニター環境補正システム。モニター・スピーカーに対する室内の音場の影響を補正したり、ヘッドフォン向けによりフラットな周波数特性を提供して、正確なモニタリングを実現します。
SoundID Referenceにはヘッドフォンとスピーカー向けのバンドルのほか、ヘッドフォン向けのみのパッケージなども用意されています。今回はヘッドフォンとスピーカー向けかつ、測定用マイクも同梱されたバンドルのSoundID Reference for Speakers & Headphones with Measurement Microphoneをレビューしてみましょう!
測定マイクの個体差も考慮した
キャリブレーションを実施
メインとなるキャリブレーション・プラグインはMac/Windows対応で、AAX Native/AU/VSTに準拠。DAW上でも立ち上げられますが、スタンドアローンでも使用可能です。
早速プラグインを立ち上げると、メイン・アウトプットの選択をうながされます。流れに沿ってクリックしていくと、測定用ソフトウェアのSoundID Reference Measureが立ち上がります。
このソフトと合わせて、同梱の測定用マイクMeasurement Microphoneを使ってキャリブレーションを行うのですが、このマイクの本体にはシリアル・ナンバーが記載されています。これはマイクの個体差を個別に管理することで、より精度の高い測定を実現できるというもの。マイクは手持ちで測定できる仕様ですが、より精度の高い測定をしたい場合はマイク・スタンドを用いるとより良いでしょう。ちなみに測定用マイクは48Vファンタム電源で駆動します。
測定用ソフトウェアの画面では、測定用マイクを使ったキャリブレーション方法が親切に示され、マイクを扱う機会の少ないユーザーでも分かるように工夫されています。キャリブレーションの作業自体は約20分ほどで完了。簡単にプロファイル・データを作成することができて驚きです。
キャリブレーション・プラグインは、このプロファイル・データを用いて音響補正を施します。使い方としては、このプラグインをDAWのマスターに直接挿入するか、環境設定画面でDAWの出力を“SoundID Reference”に設定するかの2通りです。プラグインを見てみると、画面左端には出力先に合わせたプロファイル・プリセットの選択欄、画面中央には補正前/補正後などを示す周波数特性グラフ、また画面右端には入出力メーターと音量調整スライダーを装備し、画面最下段にはレイテンシーの表示のほか、フィルターやヘッドルームの設定タブ、補正をオン/オフするCalibration Enabledボタンなどが並びます。
また画面中央下部でCustom Targetモードを選択すれば、任意の周波数ポイントでブースト/カットのEQ処理が行え、それをユーザー・プリセットとして保存することも可能。Translation Checkモードでは、カー・ステレオやスマホ・スピーカーなどを再現した仮想環境でのチェックも可能です。
ニアゼロ・レイテンシー処理で
L/Rの音量差による位相ずれも改善
実際にキャリブレーション・プラグインを、現在制作中の楽曲で使用してみたところ、各帯域にわたり周波数バランスが良くなったことがすぐに実感できました。例えば私のスタジオ環境ではボーカルの帯域(800Hz~1.5kHz辺り)が若干奥まって聴こえていたのですが、それが前へ出て聴こえます。EQくさくもなく、かなりナチュラルな印象です。
“室内環境の音響的な癖”は、既に自分自身で把握できていれば脳内補正することが可能ですが、最初から補正されたサウンドで作業するのは、脳内補正する手間が省けて快適そのもの。そもそも、このような癖を認識できていない人も多いのではないでしょうか? 現状のルーム・アコースティックに満足している人でも、一度SoundID Referenceを導入してみると、新たな発見があるのではと思います。
さらに素晴らしいと感じたのは、スピーカーにおけるL/Rの微妙な音量差や、スタジオ内にある機材や壁の反射で生じていたのであろう各帯域ごとのフェイズのずれがぴったりと合うこと。補正後はどの帯域においても“音の輪郭”が見えやすくなります。この輪郭がぼやけている状態だと、無駄にEQやコンプで目立たせたくなり、ミックス・バランスを崩すことにもなりかねません。ミックス・エンジニアがSoundID Referenceを重宝する理由は、こういったところにあるのでしょう。
また、懸念していたレイテンシーは思いのほか感じられません。ニアゼロ・レイテンシー処理のため、ソフト・シンセのみならず、外部のアナログ・シンセを録音する際も気になりませんでした。ミックス作業より前の初期段階から音作りをしっかり詰められるのは、作品のクオリティはもちろん、制作体験そのものの質を高めてくれるでしょう。
最後にヘッドフォンの補正についても試してみましたが、スピーカーのときと同様、音の輪郭が明確になる印象です。私がヘッドフォンでモニタリングするのはノイズ・チェック的な意味が強いのですが、SoundID Referenceがあれば制作やミックスでもヘッドフォンで作業してみたいなと思いました。
プライベート・スタジオの音響を整える場合、商業スタジオのように設計段階から作り込むことは難しいですし、かといって高額な音響パネルをスタジオへ導入するのもハードルが高いでしょう。しかし、SoundID Referenceを使えば圧倒的な低コスト、かつ至極簡単なセットアップでモニター環境をはるかにアップグレード可能です。とても心強いツールなので、ぜひクリエイターからエンジニアまで幅広い方々に使ってみてもらえたらと思います。
Atsushi Asada
【Profile】AmPm「Best Part Of Us」などヒット曲のプロデュースで注目を集める。現在はアーティストとしての自分を再発見し、音楽キャリアを軌道修正して“自分を感動させる音楽”の創造に専念。
SONARWORKS SoundID Reference for Speakers & Headphones with Measurement Microphone
42,900円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.12以降、AAX/AU/VST対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 8以降(64ビット)、AAX/VST応のホスト・アプリケーション
▪共通項目:48Vファンタム電源と44.1kHzサンプリング・レートに対応するオーディオ・インターフェース
製品情報