数多のメーカーからDAWのフィジカル・コントローラーが発売されているが、APPLE Logic Pro(以降Logic)専用製品のNEKTAR Panorama CS12は、“Channel Strip Controller”という新しいコンセプト。フェーダー1本分の操作を目的としているそうだ。早速見ていこう。
【2025年1月8日付記】Steinberg Cubase/Nuendoにも対応するアップデートを発表。Steinbergプラグイン、または対応するVST/VST3のコントロールが可能となりました。
Logic特化だからこその効率的なパネル・レイアウト。フット・スイッチは2つまで接続可能
これまでのフィジカル・コントローラーは、そのほとんどがミキサーを再現しようとしていたように感じる。大体8本ほどのフェーダーと幾つかのエンコーダーを備え、フェーダーのみならず、プラグイン・エフェクトの操作までやってしまおうとしていた。が、それはうまくいっていなかったと思う。プラグイン・エフェクトを操作しようとすると、煩雑で分かりにくかった。筆者も何台かフィジカル・コントローラーを所有しているが、結局のところフェーダーしか使っていないのが現状だ。
Panorama CS12はこれまでとは全く違うコンセプトで、Logic(Logic Pro 10.7.8以降をサポート)のチャンネル・ストリップ、つまりフェーダーとインサート1本分だけをコントロールすることを目的とした設計だ。
トップ・パネル左側にLogicのチャンネル・ストリップを再現し、右にプラグイン・エフェクトのパラメーターを操作する12個のエンコーダー・ノブを装備。これらによりプラグインを効率的に操作する仕組みだ。“どのDAWにも対応”といった製品は結局中途半端になることが多いが、Panorama CS12はLogicに特化しているのですべてが効率的で、配置もベストだと感じた。
トップ・パネルのOLED下には、トランスポート・セクションを配置。ここに、おおよそ操作しそうな機能が集約されている。特に気に入ったのがMARKERSボタンで、押すと10個までマーキングでき、すぐにソング・ポジションを移動できる。LOOPボタンも近くにあり、即座にオン/オフ可能。ループ・ポジションの設定もSHIFTボタンを押すだけ。ループのL/Rポジションを移動させたいときも、すごく押しやすい位置にボタンがある。そのほかクリック、クオンタイズなど、使用頻度が高そうな機能のボタンが集約していて、左手はここに置き、右手ではマウスを操作するという理想の体勢がキープできそうだ。またリア・パネルには、パソコン接続用のUSB端子(USB-C)のほかにフット・スイッチ接続端子(TRSフォーン)が用意される。本体に最大2つのフット・スイッチを接続でき、これにより足でのPLAY/STOPやパンチ・インが可能になる。1人で楽器を演奏しながら録音する際に便利な配慮だと思った。
フェーダーはタッチ・センシティブ式で、OLEDにはプラグインのパラメーターを表示
一番左には100mmのフェーダーがあり、Logicでトラックを選択すると、すぐさまそのトラックのフェーダーが操作できるようになる。ソロやミュートはフェーダー横のボタンで可能だ。フェーダーはタッチ・センシティブなので、オートメーションの操作もかなり細かく行える。これにより、マウスでの操作はMIDIや波形の編集のみに集中できると言えよう。
フロント・パネルの中央にボタンが縦にずらっと並んでいるが、これが16個のLogicのインサート・スロットに対応している。例えばインサートにEQとコンプを入れたら1/9番と2/10番のボタンが点灯し、これを押すと即座にLogicの画面上にプラグインのウィンドウが開く。つまり、マウスでインサート・スロットをダブル・クリックする必要がない。プラグインのウィンドウ閉じたい場合は、トランスポート部のPLUGINボタンを押すのみだ。プラグインの各パラメーターは本体右のエンコーダーにアサインされ、OLEDにも表示される。
例えばマウスを使ってEQをする場合、“FREQ”と“GAIN”と“Q”を、マウスでクリックして上げ下げ……といった操作を何度もやるのだが、Panorama CS12ならエンコーダーを回すだけで1発。なんなら、両手でFREQとGAINを同時に操作することもできる。慣れれば相当な時間の節約になるだろう。個人的には、OLEDはパラメーターの操作のためではなく確認用程度にして、Logicの画面を見ながらエンコーダーを回すのが良いと思った。ミックス時は結局お気に入りのプラグインを使うので、どのノブにパラメーターがアサインされているのかは覚えてしまうだろう。ちなみに、Logic純正以外のプラグイン・エフェクトのパラメーターも自動アサインされる。
さらに、どのノブにどのパラメーターをアサインするのかは自分で設定することも可能。本体だけでも設定できるが、専用エディターのNektarineソフトウェアでより詳細な設定が行える。
と、ここで気がついたのが、プラグイン・エフェクトはバッチリ操作できるのだが、プラグイン・インストゥルメントはこのエンコーダーに立ち上がってこない。シンセの操作もPanorama CS12でバリバリやってオートメーションを書き込みたかったのに……と落胆しかけたのだが、裏技を見つけた。CHANNELボタンを押すとLogicのSmart Controlウィンドウが立ち上がり、8つ程度のエンコーダーにプラグイン・シンセのノブを割り当てられる。細かな音作りまではできないが(というかパラメーター多すぎて現実的に無理だろう)、8つも割り当てられればオートメーションには十分だ。
Panorama CS12は、今までのフィジカル・コントローラーの限界を超えた素晴らしい製品だと感じた。今回は1日のみの試用ではあったが、慣れてきたら左手でのトランスポート操作やプラグイン操作を無意識に行えるのではないかと思う。今後のバージョン・アップなどで、SHIFTキーとOLED下の4つのボタンを使って、任意のLogicの機能を呼び出せるようになるとうれしい。SaveやDeleteなど頻繁に使う機能のショートカットが使えるようになれば、左手をコンピューターのキーボードに戻す回数が減り、より便利なコントローラーになるだろう。
Nagie
【Profile】レコーディング・エンジニア/プログラマー/作編曲家。aikamachi+nagie、ANANT-GARDE EYESとしても活躍。Vocaloid『IA-ARIA ON THE PLANETS』の開発に携わる。
NEKTAR Panorama CS12
81,400円
SPECIFICATIONS
▪外形寸法:390(W)×65(H)×185(D)mm ▪重量:490g
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.11/10.12/10.13/10.14/10.15
▪Windows:Windows 10以降
▪Logic Pro: 10.7.8 以上
▪Cubase/Nuendo: 13.0.51以上 / または14.0.10以上