NEVE 1073は、エンジニアになぜここまで愛されたのか?

魅惑的なシルキー・サウンドを誇るオールドNEVEの覇者、NEVE 1073

 

NEVE(ニーヴ)マイク・プリアンプの名機、NEVE 1073

 

イギリスが誇る名機、NEVE 1073(ビンテージ)について紹介します。もともとトランスを設計していたルパート・ニーヴ氏が、1961年にNEVE社を設立し(初めに製作したのは真空管の卓でした)、当時最先端のトランジスターを使って作ったのが1066。それから4年後、1073が登場します。

1073の内部的な特徴

 1073は本来、80シリーズやBCM10といった卓用のモジュールとして作られたので、単体販売はされていませんでした。現存のビンテージ品は卓から抜き出したものです。製造台数はハッキリと分かりませんが、シリアル番号が1万台のものもあるので、微妙な仕様の違いで意外と多く製作されていたようです。製作期間は約6年と短いですが、初期と後期で見た目が多少異なっており、初期は裏のコネクターが濃いブルー、後期は薄いグリーンになっています。内部のレイアウトも電源系のコンデンサーの取り付け位置が若干違います。

NEVE1073のリアのコネクター部分のプラスチックが初期型は濃いブルー、後期型は薄いグリーンになる

リアのコネクター部分のプラスチックが初期型は濃いブルー、後期型は薄いグリーンになる

 1073の回路は片電源+24V動作のディスクリート構成のシングル回路(クラスA級動作)です。パーツ的にはMOTOROLA製のパワー・トランジスター2N3055や、BC184/BC114/BC119など当時最先端で一番ポピュラーな部品が使われています。現在と多少違うのがコンデンサー類の値で、80/125/400μFなど現在では見られない値のPHILIPS製のものが付いています。ただし後期では100/470μFなど現在の一般的な値に変えられていき、値は年代により結構バラバラです。回路図を見てもあいまいで、年代ごとに値が書き換えられていますが、交換の際は耐圧さえ高ければ多少違っていても問題なく使用できます。

 

 その他、1073の音を決定付けているのは何と言ってもトランスで、10468マイク&31267ライン・インプットとL01166アウトプット・トランスです。ニーヴ氏も“1073の成功は回路よりトランスにある”とインタビューで答えているくらいで、もともとトランスの設計技師であったニーヴ氏自身が設計&発注したトランスが使われています。製造は主にMARINAIRでしたが、後期ではST.IVESに変更されています(変更された理由は1081の頁参照)。現在、MARINAIR製の方が良いとされていますが、ニーヴ氏自身が“どの会社で作ったかは関係ない。MARINAIR製だけが良いというのは神話に過ぎない”とハッキリ言い切っているので、オリジナルで付いていたトランスなら、メーカーはこだわらなくても良いということでしょう。

左が後期型の内部で、すべてオリジナル・パーツ。右は初期型の内部で、配線などレイアウトが初期と後期で若干違う。左上の小さな四角い箱×2個と左下の大きく黒いパーツが1073の音を特徴付けるトランス

左が後期型の内部で、すべてオリジナル・パーツ。右は初期型の内部で、配線などレイアウトが初期と後期で若干違う。左上の小さな四角い箱×2個と左下の大きく黒いパーツが1073の音を特徴付けるトランス

仕様違いの多い1073

 当時のニーヴ製品はすべてクライアントからのオーダーが来てから製作していました。微妙に異なるリクエストに沿って製作していたため、卓一つとっても完全に同じものは無かったようで、1073単体も“どれをオリジナルと言うべきかハッキリとは分からない”とニーヴ氏も語っています。実際、内部には有名なBA283やBA284ゲイン・ボードなどを含む5枚の基板が入っており、その中のBA283ボードだけ見てもトランジスターやパーツの微妙な違いのみでBA283AV(基本)、BA283AVA、BA283AM、BA283AMA、BA283NV、BA283Sなど6バージョン以上あります。また当時の資料によると、若干の仕様違いによるモジュールの型番もかなりの種類があります。なので中古購入時の留意点として、フロント・パネルは1073でも、類似したほかのモジュールから集めて組み立てた内部基板を用いて販売している場合も数多くあり、注意が必要です。

電解コンデンサーを多く備えるBA284ボード。左が後期、右が初期型。両者はコンデンサーの値が異なるところが多い

電解コンデンサーを多く備えるBA284ボード。左が後期、右が初期型。両者はコンデンサーの値が異なるところが多い

1073のサウンド・キャラクター

 音は知っての通りですが、マイクプリでは珍しくハイパワー・トランジスターの2N3055を使っているのでひずみに強く、良質なトランスと相まってパルシブな音や音量変化が激しいサウンドも安定した音質です。またシングル回路なので、プッシュプル回路のようなグリッチ・ノイズが出にくく、太い音ながら倍音が多く高域はシルキーで滑らか。これらの要因から愛用エンジニアが一番多いマイクプリと断言できるでしょう。

 

※この記事は『素晴らしきビンテージ機材の世界 〜レコーディング・スタジオを彩る珠玉の名機たち』の誌面を一部抜粋したものです

 

 

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