サンレコ読者の中には、マスタリングに興味があるけど、自分でやるのは難しそうだと思っている方もいることでしょう。アメリカの新興メーカーMUSIK HACKからリリースされたMaster Planは、そんな方に向けた、シンプルな操作で簡単にマスタリングできるプラグインです。
1つの画面でマスタリングが完結するシンプル設計
Master Planは、Mac/Windowsに対応し、AAX/AU/VSTプラグインとして動作します。DAWで立ち上げると、1つの画面でマスタリングを完結させることができます。まず画面中央で目立っているのは、マスタリングで重要となる音量調節のLoudノブ。その左にはLow/Mid/Highの3バンドEQのノブ、右には全体のステレオ幅を調整するWideノブが配置されています。主要パラメーターは以上で、コンプやEQの細かいパラメーターがないのが画期的です。
ノブ類の下には、サウンドの補正に使用するボタンが配置されています。左から順に、音を太くするThick、中低域の濁りを補正するClean、マルチバンド・コンプレッサーのMulti、全体の音をまとめるSmooth、耳障りなアタックを抑えるCalm、アナログ・テープの質感を加えるTapeが並びます。中には下部にスライダーが配置されたボタンもあり、このスライダーによって細かい調整が可能です。
画面上部は入出力のレベルを調整するセクション。エフェクトのパイパスや、オン/オフ時の音量をそろえるUnityなどのボタンも備えています。画面下部にはラウドネス・メーターに加え、プリセット・メニューや設定メニューへのリンクを配置。
ラウドネス・メーターがストリーミング・サービスで標準のLUFSで表示されているのがイマドキです。画面右側には、再生装置をシミュレートするFiltersセクションを配置。スマートフォンのスピーカーを模した“Phone”やモノラル再生を再現した“Mono”などでモニタリングできます。
プリセットを選びノブを回すだけで合格点のサウンド
それではテストしていきましょう。素材は、筆者がミックスとマスタリングで関わったプロジェクトの音源です。ジャンルとしてはダウンビートの歌モノ、テクノ、ベース・ミュージックなど幅が広め。曲ごとにトラックを分け、それぞれにMaster Planをインサートしてマスタリングしていきます。
まずは最も簡単なパターンとして、プリセットを使用してダウンビートの歌モノのトラックをマスタリング。プリセット・メニューから“Quick Master”を選択し、設定メニューでラウドネス・ターゲットを-10LUFSに設定します。これの数値は筆者の普段の目安に近い値です。この状態でラウドネス値のメーター表示が緑色になるようLoudを上げていきます。手順はこれだけです。サウンドを聴くと、柔らかくもクリアで低域の量感もあり、アメリカのヒット・チャートにありそうなゴージャス感。メーターを見ながらLoudを回しただけですが、合格点のサウンドが出て感心してしまいました。
ワンクリックで全体をまとめるSmoothボタン。アナログ感を与えるTapeはスライダーで微調整可能
続いてはベース・ミュージックのトラックです。プリセットを使わずにマスタリングしてみます。マニュアルには最初に音量の調整を行うよう書かれているので、ラウドネス値の表示が緑色になるようにLoudを上げます。ここで試しに3時の位置まで上げてみたところ、サウンドは“結構まとも”という印象。Loudは単純なリミッターではなく、入力信号に応じてクリッパーとリミッターを切り替えて動いているようです。さらにEQでバランスを取ります。この曲はミックス前からスネアのひずみが目立っていたので、Midの横にある有効帯域ボタンをH(High)に設定して、Midを少し下げます。その後LowとHighを持ち上げると、スネアのひずみが目立たなくなりました。それからWideでステレオ幅を決めていきます。
ここまでで基本の音作りができたら、補正用のボタン類で微調整します。各トラックの音をもう少しなじませたいのでSmoothをクリックすると、全体的に音が前に出て良い感じにまとまりました。ただ、その分音像に奥行きがなくなることがあるので、オン/オフを繰り返して素材との相性を確かめましょう。さらに、少しサブベースの輪郭を目立たせるためにThickを使います。ボタンを押して下部のスライダーを30%と控えめに設定したら、低域の輪郭が出てきました。素材によってはCleanと併用してもよさそうです。最後にアナログ感を足したいのでTapeもオンに。テープのキャラクターは、スライダーで低域を締める“Tight”と高域を落とす“Warm”のバランスを調整可能。ここではTightを多めにしました。これらのボタン類はあくまで補正用なのでサウンドの変化は少なめで、音作りの簡単さを優先した設計だと感じました。
こうしてMaster Planで作った音源と、筆者がもともとマスタリングしていた音源とを比較すると、どっちもアリだと思えるサウンドでしたが、作業時間はMaster Planの方がはるかに短いです。ほかの曲も比較してみたところ、ビートが強い曲との相性が良い印象を受けました。気になるのがCPUへの負荷ですが、Master Planは内部でオーバー・サンプリングする構造なので、倍率によって負荷が変わります。筆者の環境では、デフォルト設定の4倍でDAWのCPUメーターは4%程度です。最高の8倍にすると15%になり、“そこそこ負荷がかかる”程度でした。
テストした感想としては、“マスタリング機能が付いたDJミキサー”のような操作感で使いやすく、短時間でマスタリングできました。筆者にとってマスタリングはコンプのリリース・タイムの調整がキモで、そこが難解な印象を与えているとも思うのですが、Master Planはそうしたパラメーターが簡略化されているのがポイント。サウンドを大胆に変える外科手術的なマスタリングというよりは、素材を生かしながら簡単にブラッシュアップできるプラグインだと思います。
KOYAS
【Profile】電子音楽シーンで活躍するアーティスト/プロデューサー。パソコンとハードウェアを組み合わせたライブ、イベント/レーベルの運営、ABLETON認定トレーナーなど、多岐にわたって活動。
MUSIK HACK Master Plan
19,250円
REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.11/macOS 10.12/10.13/10.14/11/12/13/14(macOS 11以降はINTEL CPU/ARMの両方に対応)
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11
▪対応フォーマット:AAX、AU、VST