DREADBOX Typhon レビュー:12種のDSPエフェクトを備えたモノフォニック・アナログ・シンセサイザー

DREADBOX Typhon レビュー:12種のDSPエフェクトを備えたモノフォニック・アナログ・シンセサイザー

 Typhonは、2オシレーター+アナログ回路のフィルターを搭載するモノフォニック・アナログ・シンセサイザー。綿密にデザインされた8つのノブを中心としたインターフェースでシンセ・コア部分をコントロールでき、コンパクトなボディの内部にはノート・シーケンサーや柔軟なモジュレーション群に加え、音楽ソフトウェアの設計/構築を専門とするSINEVIBES開発の強烈なDSPエフェクトなどを盛り込んでいます。早速、僕なりにつかんだ感触を紹介していきます。

WAVEノブ1つで2つのオシレーターの波形を調整可能

 まずは外観。非常にしっかりとしたアルミ製でテーブルなどにセッティングしたときの存在感は強いです。重さもそれなりにあるのでライブ時にも安定するでしょう。入出力はオーディオ出力L/R(TRSフォーン)、ヘッドホン出力(ステレオ・ミニ)のほかにモノラルの外部オーディオ入力(3.5mm TSフォーン)があるので、フィルターやエフェクトをかける用途にも使用できます。MIDIは専用のIN/OUT端子、電源は最低500mAのUSB給電で、コンピューターからも電力供給ができます。筆者は、APPLE MacBookを使用しました。

リア・パネル。左からヘッドフォン(ステレオ・ミニ)、オーディオ出力R/L(TRSフォーン×2)、オーディオ入力(3.5mm TSフォーン)、MIDI IN/OUT、給電用USB-B端子

リア・パネル。左からヘッドフォン(ステレオ・ミニ)、オーディオ出力R/L(TRSフォーン×2)、オーディオ入力(3.5mm TSフォーン)、MIDI IN/OUT、給電用USB-B端子

 続いてフロント・パネルをチェック(メイン画像)。左側には8つのノブが配置されており、波形/アンプ/フィルターなどを各ノブでコントロールできる仕様です。操作性と見た目のスタイリッシュさの両面でとても良いデザインだと感じました。中心にあるWAVEノブ1つで2つのオシレーターの波形選択を連続可変で行うことができ、これがTyphonの核の部分だといえます。右一杯でVCO1/2ともにノコギリ波。4時に向けていくとVCO1がフェードアウトしていき、VCO2(ノコギリ波)のみ。2時に向けていくとVCO2はそのままにVCO1(パルス波)がフェードイン。0時に向けていくと、VCO2がフェードアウトしVCO1(パルス波)のみ。10時に向けていくと、VCO1はそのままにVCO2(三角波)がフェードインします。8時に向けていくとVCO1がフェードアウトし、VCO2(三角波)のみになります。左一杯に回しきると、VCO2(三角波)がVCO1(パルス波)をFM変調するモードになります。

 ちなみにTUNE 2ノブでは、VCO2のピッチを最大2オクターブ上げられるので、VCO1とのブレンド時にデチューンさせたり、和音を作ったりすることができます。VCO1はピッチが固定でベーシックな基音としての役割で、VCO2は2オクターブの範囲で変えられる倍音や変調の役目と捉えると分かりやすいかもしれません。また、デチューンとしての用途を考慮してか、TUNE 2ノブは目盛り付近でノブの挙動が変わり、ファイン・チューンとして動作します。

 フロント・パネル右側には、上からOLEDディスプレイ、ディスプレイ上の操作を担うロータリー・エンコーダー、BACK(シーケンサー動作時は再生、停止/メニュー操作時は戻る)/SAVE(音色保存)/LOAD(プリセット・ロード)/SQNCR(シーケンサー・モード)の4つの操作ボタン、5本のパラメーター・コントロール・スライダー、シフト・ボタンが配置されています。ディスプレイでは、モジュレーター(M1〜M3)とエフェクト(FX1〜FX3)、各種セッティングを調整可能です。各モジュレーターとエフェクトは常に5つのパラメーターが画面に表示され、その値は5本の物理スライダーの動作に直結しています。

FX3のリバーブを調整している際のOLEDディスプレイの画面。PRE(プリディレイ)、SIZE(ルーム・サイズ)、FEED(ディケイ・タイム)、DAMP(減衰音へのフィルター)、MIX(ドライ/ウェット・バランス)という5つのパラメーターをディスプレイ下部の5つのスライダーで調整することが可能。ディスプレイ最下部には左から、選択したプリセット名、テンポ、シフト・ボタンの機能が表示されている

FX3のリバーブを調整している際のOLEDディスプレイの画面。PRE(プリディレイ)、SIZE(ルーム・サイズ)、FEED(ディケイ・タイム)、DAMP(減衰音へのフィルター)、MIX(ドライ/ウェット・バランス)という5つのパラメーターをディスプレイ下部の5つのスライダーで調整することが可能。ディスプレイ最下部には左から、選択したプリセット名、テンポ、シフト・ボタンの機能が表示されている

 以上のように、各操作子の役割がシンプルに設計されているので、操作体系やディスプレイのメニュー階層は使用開始から数分で体になじむはずです。

WAVE/TUNE 2ノブで得られる豊富な倍音変化 モジュレーター部の調整で複雑な音色作成も可能

 それでは、実際に音を出してみます。VCOの音色だけに着目すると、決して派手すぎないものの荒々しさがあり、WAVEノブとTUNE 2ノブのコンビネーションによって想像以上に倍音変化が豊富で、フィルターやエフェクトと絡めることで幅広い音作りの可能性を感じました。また、モジュレーター部に用意されたLFO/EG/S&H(ランダム・ジェネレーター)/STEP(ステップ・シーケンサー)を調整することで、複雑な音色も作れます。1つのモジュレーターに同時に複数のデスティネーションを設定できるので、多彩なモジュレーションが可能です。プリセットは256スロット用意されており、もちろん自作の音色も保存できます。

 24dB/octのローパス・フィルターはとても素直で滑らかな印象で、オシレーターの持つ揺らぎやひずみ系エフェクトなどとの相性は抜群です。また自己発振可能なレゾナンス付きであるため、VCOレベルを0にして発振音を利用した音作りも可能です。SINEVIBESが開発した強力なDSPエフェクトは、32ビット/96kHzコーデックを使用。FX1(ひずみ系)、FX2(コーラス系)、FX3(空間系)と3つにカテゴライズされており、グラニュラー・シンセシスを用いたリバーブなど、こだわりを感じるエフェクトが数多く搭載されています。

 VCOとフィルター+強力なエフェクトが奏でるサウンドに加え、分かりやすいコントロール性と合理的な機能美がこれだけのコンパクトなボディに収まっていていいのか?と思うくらい、Typhonにはすべてが詰まっていると言いたいです。パッケージや本体のデザイン、そしてプリセットの音色などからもシンセウェーブ辺りを狙った雰囲気は伝わってきますが、そんな1つのジャンルに留まらないレベルで、正々堂々とアナログ・シンセとして勝負できるスペックがあると感じました。願わくば、いつかポリフォニックで奏でたい……!

 

深澤秀行
【Profile】シンセサイザー・プログラマー/作編曲家。アニメやゲームのサントラ、作品のリミックスまで幅広く手掛け、「やのとあがつま」やモジュラー・シンセ・ユニット「電子海面」のメンバーとしても活動。

 

 

 

DREADBOX Typhon

オープン・プライス

(市場予想価格:66,900円前後)

DREADBOX Typhon

SPECIFICATIONS
▪オシレーター:2VCO ▪フィルター:4ポール・ローパス・フィルター ▪エンベロープ・ジェネレーター:2(フィルター/アンプ) ▪エフェクト:DSPエフェクト×12(32ビット/96kHz) ▪外形寸法:230(W)×60(H)×130(D)mm ▪重量:1kg

製品情報

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