DRAWMERからデュアル4バンド・パラメトリック・イコライザーの1971が発売されました。DRAWMERといえば、真空管を使ったマイクプリ&コンプレッサーの1960、真空管EQの1961など、特色のある機材を数多く展開しているイギリスのメーカーです。ちなみに1960は、1982年に発売されたゲート/エキスパンダーのDS201に次ぐ同社のヒット商品で、1990年代の音楽にかなり使われていた機材です。私自身も、マイクプリとしてはもちろん、ベースのDI/プリアンプとして、またミックス時のトータル・コンプとして、数多くの作品で使用してきました。そして1961は、マスタリング・スタジオでも使われていた名機。というわけで、そんなDRAWMERの最新機である1971をレビューしていきましょう。
可変ローカット/ハイカット・フィルターを搭載 EQのスロープも切り替え可能
1971は、2chの4バンド・パラメトリック・イコライザーです。フロント・パネルを左から見ていきます。基本的にすべてのつまみにクリックが付いていて、リコールがしやすい仕様になっています。まずはインプット・ゲインです。±15dBの可変幅を持ち、メーターはLEDで、3ポイントとオーバーロードの表示です。その隣のローカット・フィルターは10~240Hzで、カーブは公表されていないのですが、使った感じではキレがいいので-12dB/octだと思います。プラグインEQに慣れているともっと大きな減衰角度を求めてしまうかもしれませんが、フィルターによる位相の変化を考えると、アナログ回路では-12dB/octが使いやすいと思います。
次は、LOW/LOW MID/HIGH MID/HIGHの4バンドのイコライザー・セクションです。LOWは35~700Hzで、カット/ブーストは±12dB。シェルビングのスロープはスイッチの組み合わせで6dB/oct、9dB/oct、12dB/octの3段階に設定可能で、PEAK(ベル)にもできます。LOW MIDは60Hz~2.1kHzで、Q幅を決める“BANDWIDTH”は広めの0.33オクターブから狭めの3.3オクターブまで。こちらもカット/ブーストは±12dBです。HIGH MIDは450Hz~13.7kHzで、Qとカット/ブーストはLOW MIDと同じです。HIGHは1.2~20kHzのシェルビングで、6dB/octと12dB/octの切り替え。カット/ブーストは±12dBです。ハイカット・フィルターは4~31kHzで、ローカット・フィルターと同じく-12dB/oct。EQ回路のオーバーロードを表示するLEDもあります。そして最後のアウトプット・ゲインは±15dBの可変になっており、LEDメーターは5段階です。基本的な構成は以上ですが、1971の最大の特徴が、各バンドに1つずつ備えられたCRUSHスイッチです。
マニュアルを読むと“固定時定数、自動ゲイン・メイクアップ・コンプレッサー”と書いてありますが、サチュレーション回路だと思って間違いはないでしょう。のちほどその特徴的な動作を説明したいと思います。
またEQのバイパス・スイッチもバンドごとにあり、一括でオン/オフする機能はありません。バイパスはハード・バイパスで、電源を切っても音が出るタイプになっています。電源はトロイダル・トランスを使ったアナログ電源で、115Vと230Vの切り替え式。基板や電子部品は最近の機材に多い基板表面実装チップではなく、1970年代からあるリード線タイプのIC、抵抗、コンデンサーを用いて作られています。
音像が崩れない自然なイコライジング 独特なサチュレーション効果が得られるCRUSH機能
では、音を聴いてみましょう。まずはキックから試してみました。LOWで50Hz以下の低域をブーストしてみます。DAWのプラグインでEQする場合と比べ、大きくブーストしても音像が崩れることなく、あたかも元からそのような音色だったように感じる自然な変化をしました。スロープを6dB/oct、9dB/oct、12dB/octと切り替えてみたところ、思った以上に変化します。PEAKにするとその効き方は特徴的で、積極的に音色を触りたくなる変化です。ほかのEQにはない音作りができると思います。
ここでCRUSHスイッチを入れてみると、サチュレーションがかかりました。入力レベルはもちろんですが、EQのブースト具合でかかり方が変わります。バンドの範囲で動作するので、これまたほかのサチュレーターにない音作りができそうです。LOW MIDとHIGH MIDをQつまみのセンターである2に設定してみると、想像以上にQが広く感じました。狭めの0.33にすると狙った周波数ポイントを調整できることはもちろん、位相変化の感じが好ましく、かなりブーストしてみても、LOWのときと同じようにあたかも元からそのような音色だったように感じられるので、やはり思い切った音色作りができると思います。HIGHはシェルビングで、スロープを6dB/octと12dB/octで切り替えられますが、12dB/octにした場合のその特性は、選んだ周波数の少し下でディップができるタイプになり、より目的の周波数が強調されます。
ローカット/ハイカット・フィルターは、実際には聴感上よりも切れているようで、LOW/HIGHのEQで調整したあと、必要外の周波数を滑らかにトリートメントするような使用方法に適していると感じました。
その後もベース、ピアノ、ギターなどいろいろな音色で使ってみましたが、どの楽器でも“効果的なEQ”をすることができました。“効果的なEQ?”と思う人がいるかもしれませんが、私は“キックには良いけれどベースには合わないEQ”というように、楽器とEQに相性があると思っています。特にピアノはEQを選ぶ楽器だと感じていて、ピアノの場合、エアー感を出すために12kHz以上の高域を多くブーストすることがあるのですが、そのときの変化が好ましいEQは数種類しかないと感じています。その点1971は、CRUSHを組み合わせて、“高域は出ているけど細くない”という、ほかのEQではできない音色作りが可能です。そういったところから、本機の最大の武器はCRUSHスイッチだと感じました。バンドごとにサチュレーションを調整できて、それがEQのブースト具合も絡んだ変化をするのが素晴らしいです。
近年はDAWのインストゥルメント・プラグインが増えていますが、生楽器はもちろん、ハードウェア・サンプラーやシンセでトラックを組み上げていたころと比べると、トラックごとの主張が少なくなっているところもあると思います。そのため、よくミックス時にトラックをアナログ・コンプやアナログEQに通して録り直すのですが、1971は楽器の存在感を増加することができるので、そういった際に強力な武器になると感じました。
森元浩二.
【Profile】 目黒区のレコーディング・スタジオ、prime sound studioのゼネラル・チーフ・エンジニア。浜崎あゆみや三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEなど、数多くのアーティストの作品に携わる。
DRAWMER 1971
248,000円
SPECIFICATIONS
▪入力インピーダンス:20kΩ以上 ▪最大入力レベル:+21dBu ▪出力インピーダンス:100Ω以下 ▪最大出力レベル:+21dBu(負荷10kΩ) ▪周波数特性:20Hz~20kHz ▪外形寸法:482(W)×88(H)×270(D)mm ▪重量:4.2kg