BLACK LION AUDIOがAPI 500互換モジュールのコンプレッサー、Bluey 500を発売。早速詳しく見ていきましょう。
CINEMAG製カスタム・トランスを内蔵 パラレル・コンプを実現するCOMP MIXノブ
Blueyは何度もグラミー賞に輝いた名エンジニア、クリス・ロード=アルジ氏が所有するコンプレッサーUREI 1176(Blue Stripe)のこと。既にBLACK LION AUDIOがそれを再現し、Blueyという名前で販売しています。今回レビューするBluey 500は、そんなBlueyのAPI 500互換モジュール版です。外形寸法は76(W)×178(H)×229(D)mm、重量は1.47kg。2スロット分を使用し、CINEMAG製カスタム・トランスを内蔵しています。
フロント・パネル上のボタンやノブは、2UサイズのBlueyに搭載されているものと基本的に同じです。本体上半分から見ていきましょう。中央にVUメーター、その左側にはレシオを4:1/8:1/12:1/20:1から選べる4つのRATIOボタンを配置。一方、右側にはゲイン・リダクション・メーターに切り替えるためのGRボタン、GRメーターの感度を調整するための+4ボタンと+8ボタン、そしてBluey 500のコンプレッサー回路をバイパスするためのBYPASSボタンを備えています。
続いて本体下半分です。左上にはINPUTノブ、右上にはOUTPUTノブ、左下にはアタック・タイムを調整するATTACKノブ、右下にはリリース・タイムを調整するRELEASEノブ、そして中央にはコンプレッションした信号とドライ信号をミックス……いわゆるパラレル・コンプレッションを行うためのCOMP MIXノブを搭載しています。またこのノブの真下には、ステレオ・リンク用のLINK(RCAピン)も備えています。
個人的な見解としては、各RATIOボタンやMETERセクションといったあまり頻繁に触らないであろうボタン類に関してはコンパクトにまとめ、それ以外の主要なノブ類をなるべく大きく配置している印象です。なので2スロット分のAPI 500互換モジュールの割に、その操作性は十分確保されていると言えるでしょう。また、本体下半分に備わる5つのノブはクリック式になっています。これは1176スタイルの機材としては比較的、珍しいこと。恐らく、何かの拍子でノブが動いてしまうことを防ぐためなのかもしれません。
Bluey 500の大きな特徴として、ATTACKノブだけ一般的な1176系コンプと違い、時計回りでアタック・タイムが長くなるという点です。一般的な1176系コンプでは、パネル上の数字が大きくなるにつれてアタック・タイムは逆に短くなる設計なので、慣れが必要かもしれません。
中高域の倍音が奇麗に持ち上がる 現代の制作にも有用な高い汎用(はんよう)性
それでは実際に使用してみましょう。まずは歌の録音です。普段からマイクプリ→ディエッサー→コンプレッサーという流れが多いので、Bluey 500をこのコンプレッサー部分に通してみます。一聴した感想としては、想像以上にクリア。クリス・ロード=アルジ氏の音はもう少しギラギラしたイメージでしたが、意外に実直な印象です。しかし、ただ地味な音というわけではなく、倍音が若干持ち上がるので目の前に音が出てくる感じがします。音の密度や情報量も増えるため、ボーカリストの口の開閉や声の出し方といった部分が分かりやすくなりました。
また深めにコンプレッションをかけても、音が奥まりにくいので、ちゅうちょなくダイナミクスのコントロールができそうです。深くコンプレッションできない録りの段階でも、COMP MIXノブを使用することで原音の状態をある程度キープすることができるでしょう。もともとそんなにダイナミクスがないボーカルの場合は、COMP MIX値を100%にしても大丈夫だと思いますが、割と振り幅のあるボーカルであれば60%くらいにするのがお勧めでしょう。
ちなみに先ほど“倍音が若干持ち上がる”とお伝えしましたが、それはノイズっぽくジリジリするわけではなく、中高域の倍音が奇麗に持ち上がる感じです。ここからさらにEQで高域を突いたとしても、嫌味のない、心地よいプレゼンス感を得られそうだと思いました。
次は、楽器でのテストです。まずは定番のスネアにかけてみました。普段使っている1176系コンプと比べてもリリースが速い印象で、粒立ちの良いスネア・サウンドが得られます。歌のときと同様、音が前に出てくるため、スネアをたたくときの細かいニュアンスがより聴きやすくなりました。
次はエレキベースにBluey 500を通してみます。すると、想像以上に粒立ちが良くなっただけでなく、低域が程良く引き締まりました。ピッキングのニュアンスも分かりやすくなり、ベースがどの音を弾いても重心が安定したサウンドになります。決して低域が音痩せしたり、腰高になったりするわけではありません。基音の鳴りを保ちつつ、変に膨らみすぎたり、引っ込みすぎたりするところを整えてくれます。結果として非常に安定したベース・サウンドになりました。この出音は重宝しそうです。
今回Bluey 500を試してみて、クリス・ロード=アルジ氏らしい音……つまり、目の前に音が出てくるようなサウンドというのは共通して感じました。一番印象的だったのは、Bluey 500がとても万能だということ。音源や素材を選ばないところが使いやすいです。これはBLACK LION AUDIOがビンテージ・モデリングだけにフォーカスせず、現代の音楽制作にも使えることを考慮したからではないかと考えます。筆者としては3スロットくらいのAPI 500互換モジュール・シャーシを用意し、好きなマイクプリとBluey 500を入れて持ち歩くのもいいかも、と思いました。また、音楽クリエイターの場合はデスク上に置いて宅録で使用するのもよいと思います。Bluey 500は多くの音楽家/エンジニアにとって欠かせないツールとなること間違いなしです。
染野拓
【Profile】レコーディング/ミックス・エンジニア、PA。2017年、東京藝術大学音楽環境創造科を卒業。2019年からStyrismに所属し、これまでにCHARA、SIRUP、odol、WONKなどの作品を手掛ける。
BLACK LION AUDIO Bluey 500
オープン・プライス
(MUSIC EcoSystems STORE価格:99,000円)
SPECIFICATIONS
▪アタック・タイム:20us~800us ▪リリース・タイム:50ms~1,200ms ▪レシオ:4:1、8:1、12:1、20:1、および任意の組み合わせ(全押しモード対応) ▪電源電圧:±16V ▪外形寸法:76(W)×178(H)×229(D)mm ▪重量:1.47kg