【お知らせ】2024年12月27日(金)12:00 ~ 2025年1月6日(月)11:00まで、サポートをお休みいたします。期間中のお問合せは、1月6日(月)以降、順次対応させていただきます。

BLACK LION AUDIO Micro Clock MKⅢ XB レビュー:0.6psの低ジッターを実現したクロック・ジェネレーター

BLACK LION AUDIO Micro Clock MKⅢ XB レビュー:0.6psの低ジッターを実現したクロック・ジェネレーター

 スタジオ御用達のオーディオ・インターフェースのモディファイ、アップグレードに長年にわたって取り組んできたBLACK LION AUDIOから、コンパクトなクロック・ジェネレーターMicro Clock MKⅢ XBが登場しました。

クリスタル・オシレーターを採用。最大9系統のソースへ出力可能

 フロント・パネルには視認性の高いLEDディスプレイで周波数を表示します。リア・パネルには、最高384kHzのBNC出力×6系統、最高192kHzのAESおよびS/P DIF(コアキシャル)出力、最高96kHzのS/P DIF(オプティカル)出力を装備。取り外し可能な1Uラック・マウント・アダプターも同梱されています。

f:id:rittor_snrec:20211011171415j:plain

リア・パネル。左から、BNC出力×6系統、S/P DIF(コアキシャル)出力×1、S/P DIF(オプティカル)出力×1、AES/EBU出力×1が備わっている

f:id:rittor_snrec:20211011171428j:plain

取り外し可能な1Uラック・マウント・アダプターが同梱されている

 早速中身を見ていきます。クリスタル・オシレーターとガルバニック絶縁により、BNC出力のジッターは0.6ps(ピコ・セカンド)を実現し、前モデルMicro Clock MKⅢの1/3以下という高精度ぶりです。クロックの話題でよく出るジッターとは、簡単に言うとクロックの波の揺れ(波長の誤差)のこと。ジッターが少なく、発振する波の周期が正確であればクロックとしての精度が高いと言えます。

 

 クロックを発振する核となる素材はさまざまで、ルビジウム、オーブン・コントロール・クリスタル・オシレーター、少し前には衛星を使ったものまで話題になりました。Micro Clock MKⅢ XBで使用されているクリスタル・オシレーターはこの中で最も精度の高い発振方法ではありませんが、コスト・パフォーマンスに優れ、メインテナンスがしやすいという利点がありますし、“ジッター0.6ps”はかなり高精度の部類に入るので、数値だけで見ても筆者の実務での使用に十分耐え得るクオリティです。

レコーディングで発揮される中低域のコシと超低域のレスポンス

 今回“ワード・クロック・ジェネレーターの導入によってクリエイターがどのような恩恵を受けるのか”という視点でレビューを進めようと思います。まず“デジタル機器にクロックを流し込めば音が良くなる”くらいは皆さんもどこかで聞いたことがあるでしょう。実際どう使えば良くなるのでしょうか? またどこがどういうふうに変わるのか確認してみました。

 

 まず試したのは再生です。筆者の再生環境であるオーディオ・インターフェイスとDAコンバーターの両方にMicro Clock MKⅢ XBのクロックを入れ同期させます。そこからの再生音を別のラップトップ・システムにレコーディングしてみました。2つのファイルは同じ曲ですが、クロックを入れて再生した方がキック、ベースなどの中低域の輪郭がはっきりして押し出す感じで、コシがあるように思いました。

 

 次に録音を試します。こちらは普段のマスタリング・システムを使って再生音をアウトボードに出し、戻ってきたものを録音して比較。すべての機器が同一クロックで同期している状態です。ここでは筆者が普段使っている2種類のクロック(クロックA、クロックB)とも比較しました。クロックAはきらびやかで精細かつ芳醇な音になる傾向があり、クロックBは端正で中低域にコシのある音が魅力のものです。この2機種とMicro Clock MKⅢ XB、クロック非同期(各機器の内部クロックを使用)で検証しました。結果Micro Clock MKⅢ XBを使用した録音は、音の輪郭や広がりといった高域の印象はAとBの中間、中低域のコシ(弦の存在感やキック、ベースの量感)や超低域のレスポンスは一番良く録れたと思います。

 

 これらの印象に加えて、正確を期するため各種クロックで逆相差分(=逆相にして音が消えれば同じ音)も録りました。クロック同期、非同期を比べた場合、全体的に一定の周波数やダイナミック・レンジが変わるというより、横軸方向、つまり時間軸上でうねるように差分が現れたのが興味深い発見でした。つまり非同期の場合、微細ながら曲が伸び縮みしながら録音/再生されていることになります。また、筆者が業務で使用しているクロックBとMicro Clock MKⅢ XBの差分において、試聴での印象どおり2kHz周辺と50Hz、80Hz付近にほんの少しですが差分の音が現れました。

 

 今回の検証で、クロック非同期の再生&録音において、音の輪郭がぼやけ、パワー感が無くなる感じはあらためて残念に思いました。話題に出なくとも、デジタル・オーディオを扱うどのオーディオ・インターフェイスにもクロックは内蔵されています。今までクロックを意識していなかった方こそ、Micro Clock MKⅢ XBを導入したときに1枚(いや2、3枚)音像の膜が取れるような印象を受けると思います。また、ワード・クロック・ジェネレーター製品群の中でMicro Clock MKⅢ XBが、この精度(=サウンド)でこの価格帯であることも驚きです。クロックの扱いに慣れると、論理的なことより出音の好みでクロックを選ぶようになります。今までクロックBが自分に合うと思っていた筆者ですが、今回Micro Clock MKⅢ XBを試し、それを考え直すような良い出会いになりました。

 

SUI
【Profile】作曲、トラック・メイクからボーカルのディレクション、ミックス・ダウン、マスタリングまで手掛ける作家/プロデューシング・エンジニア。近年は劇伴やCM音楽にも活躍のフィールドを広げている。

 

BLACK LION AUDIO Micro Clock MKⅢ XB

オープン・プライス

(市場予想価格:132,000円前後)

f:id:rittor_snrec:20211011171253j:plain

SPECIFICATIONS
▪ジッター:0.6ps RMS(BNC出力) ▪出力端子:BNC(75Ω/5V)×6、AES(XLR/110Ω)×1、S/P DIF(コアキシャル、75Ωアンバランス)×1、S/P DIF(オプティカル)×1 ▪クロック周波数:44.1/48/88.2/96/176.4/192/352.8/384kHz(BNC)、44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz(コアキシャル&AES/EBU)、44.1/48/88.2/96kHz(オプティカル) ▪外形寸法:165.1(W)×44.5(H)×152.4(D)mm ▪重量:997.9g

製品情報